わが青春のアメリカ―旨いもの考2

9月22日―ワシントンDCで取材。ダレス空港から日本に向けて発つ。

きのうアメリカで出会った旨いものを書いたら、他にも次々に浮かんできたので、続きを書く。
朝食には毎朝トーストが出た。バターをつけて食べていたら、ジョンはバターの上にさらにジャムを塗っている。トーストというのは、バター(またはマーガリン)か(「か」である)ジャムをつけるのであって、両方を塗るという発想はなかった。真似して食べてみたら、こってりしたバターにジャムの甘さがのって実に旨い。すぐに病みつきになった。こうしたほんのちょっとしたことにも違いを感じた。
やはり朝食に出たオレンジジュースにも豊かさが現れていた。100%果汁なのである。今の日本人なら当たり前かも知れないが、なにせ私は「ワタナベのジュースの素」などという粉末ジュースで育った世代だ。朝からこんなに贅沢をしていいのかと感じたものである。
生のニンジンとセロリのスティック、濃厚なアイスクリームなど、アメリカで知った初めての味を上げればきりがない。
きのうグレープフルーツに感動した話を書いたが、後になって、柑橘類としては、日本のものが優れていると気がついた。
オレンジやグレープフルーツなどアメリカで食べる柑橘類は手でむけない。オレンジは、輪切りにするか、丸いままナイフで皮をむいて食べる。いずれにしても食べにくいことはなはだしい。だからジュースにするのかとさえ思う。
その点、温州みかん夏みかん伊予柑、はっさく、文旦と、日本では手でむくことができる柑橘類を開発してきた。若いころは、米国産オレンジジュースに比べて日本産の温州みかんジュースをダサいと思っていたが、果物としては日本のみかん類の方が明らかに優れている。しばらく前からカナダで温州みかんが大人気になっていると聞く。よいものが当然のごとく認められたわけで、拍手を送りたい。
私の滞在していたころ、「ベジタリアン」という人たちがアメリカに出現した。時はベトナム戦争の末期で、アメリカ社会の価値観が大揺れになっていた。禅をはじめ東洋思想が流れ込むなかで、肉食を否定する考え方も登場したのである。
せっかく肉がたらふく食べられるのに、あえて食べないなんて別の種類の贅沢じゃないかと思えて、素直に共感できなかった。まだ貧しかった日本から来た私には、異次元の発想に思えたのである。