金正恩氏に告ぐ、東京地裁に出頭せよ②

 29日、北朝鮮帰国事業裁判の差し戻し審の第1回口頭弁論が行われた。この日の法廷は小さく傍聴席は記者席をのぞき39席しかなく、抽選になった。

差し戻し審第1回口頭弁論のため、東京地裁に入る原告側(撮影筆者)

報告集会にて。左から福田健治弁護士、川崎さん、石川さんの遺影をもつ長男

 2018年8月に提訴したのは、脱北して日本に戻った5人の元帰国者(川崎栄子、榊原洋子、高政美、齋藤博子、石川学)だが、22年3月に一審判決後、2023年2月に高政美さんが62歳で死去。その後、石川学さんも亡くなったが、息子さんが引き継ぎ、現在原告は4人である。

 原告自身の陳述が認められなかったため、代理人が意見陳述し、4人それぞれの生い立ちから北朝鮮に渡って直面した現実を説明した。「地上の楽園」で教育も医療も無料、好きな職業を選べて衣食住は保証されるから、体一つで行ってよいと言われたが、実際は想像を絶する劣悪な環境で、病気になっても治療も受けられず塗炭の苦しみを味わったのだった。

 自由のない暮らしは時に命を奪った。ある若い女性の帰国者が生活の不満を言ったら、一家全員が突然消え、収容所送りになった。生存ぎりぎりの生活に加えて、誰が密告するか分からない緊張を強いられる状況のなか、家族に精神に異常をきたす人も出た。榊原さんの父親は重い精神病の人が入れられる49号予防院に入院し退院することなく亡くなった。石川さんの姉は公民権を剥奪され精神病院で91年に亡くなっている。彼らは帰国事業によって「人生を奪われた」と訴えた。

 最後の福田健治弁護士の意見陳述は熱がこもった感動的なもので、公開されたらまた本ブログで公開しよう。

 高裁では、北朝鮮での生活条件等につき事実と異なる情報を流して、つまりウソの宣伝をして北朝鮮への移住を呼びかけ(勧誘行為)、日本から北朝鮮渡航させ(移送行為)、渡航後は出国を許さずに居住地選択の自由を侵害し、苛酷な状況下で長期間生活することを余儀なくさせた(留置行為)という「継続的不法行為を認め、地裁に差し戻した。

 おさらいすると、地裁の第一審では、日本での「勧誘行為」については除斥期間が過ぎたとし、北朝鮮での「留置行為」については日本の裁判所に管轄権がないとして、原告の訴えを棄却したのを、高裁では「継続的不法行為」つまり一つながりの不法行為として地裁に差し戻した。現在も「国家誘拐行為」が北朝鮮で継続していると解釈したのである。

 以下は、弁護団控訴審判決時の報告から―

 「上記のとおりの継続的不法行為は、被控訴人が北朝鮮において行った加害行為により、控訴人らの法益が侵害されるという結果が当初は日本国内において発生し、控訴人らが北朝鮮に到着してから北朝鮮を脱出するまでの間は北朝鮮において発生を続けたものであるが、北朝鮮において行われた事実と異なる情報の流布によって、日本国内において控訴人らを含む在日朝鮮人及びその家族の居住地選択の自由の侵害という結果が発生することは通常予見することが可能であったといえる。したがって、この不法行為に関する訴えについては、民訴法3条の3第8号に基づき、日本の裁判所に管轄権があるといえる。

 として、勧誘行為から、原告らが脱北するまでの一連の北朝鮮政府の行為について、一つの不法行為と認め、日本の裁判管轄を認めました。(2023年10月30日 控訴審判決のご報告)
https://nklawsuit.hatenablog.com/entry/2023/10/30/234347
 

 この考えかたは、北朝鮮による拉致についても適用できるだろう。嘘で騙して連れていくか、暴力的に身柄を拘束するかの違いはあっても、日本から連れ出す時点から、北朝鮮に移送して極限の人権侵害状況に置いていることは、まさに一連の不法行為で現在進行形の犯罪である。また、有本恵子さんが欧州から「マーケットリサーチというおもしろい仕事がある」と騙されて連れ出されたように、誘致による拉致もある。


 北朝鮮不法行為を日本の裁判所が裁く法理が確立されたことの意味は非常に大きく、歴史的な判決と評価できる。

 10月29日の差し戻し審口頭弁論は即日結審し、判決は来年1月26日に言い渡される。差し戻し審では高裁の判断に拘束されるため、北朝鮮政府に賠償を命じるという画期的な判決が出る可能性が高い。

 裁判長は判決言い渡しに103号法廷を用意している。ここは民事部が使える最大の法廷で、傍聴席が98席ある。判決に注目が集まることを予期した措置とみられ、期待が高まる。


 そして、この帰国事業裁判には、もう一つ、拉致につながる重要な問題がある。
(つづく)