小松由佳さんシリアへ子連れ取材

 16日(木)、写真家の小松由佳さんがシリア取材に出発した。今度もまた子連れ、しかも二人も。5月末まで1カ月半の長期取材だという。

出発前の成田空港にて。小松由佳さんのFBより。

 由佳さんのFBには、以下のような文章が載っている。

「昨年11月に、ノンフィクション『シリアの家族』(集英社)を刊行させていただいてから、あっという間の五カ月間でした。ありがたいことに、作品を多くの皆様に手に取っていただきました。シリアという国やシリアの人々の世界観に触れていただいたことは、本当に嬉しいことでした。これまで、コツコツ現場に立ち続けてきたことで、気がつけば、〝続けてきた〟ことが大きな価値になったことを思いました。」

 まさに継続は力なり。フリーで定収のないシリア難民の夫、そして二人の男の子をかかえて取材を続けるのは並大抵のことではないはずだ。コロナ禍のなか、幼い子供を自転車に乗せてウーバーイーツのバイトをしたとも聞いた。

「そして今回も子連れ取材。二人の子供たちは、小学校2年生と4年生になりました。子供たちは小学校を休ませて連れて行くわけですが、夫の故郷パルミラでは、現地の小学校に通わせ、現地の子供と一緒に勉強する予定です。子供たちにとり、忘れられない経験となるでしょう。」

 ふつうは、子どもたちが学校についていけなくなるから、日本に残していこうとなるところが、彼女は子どもにルーツであるシリアの文化に触れさせたいと連れて行くのである。

 出発直前、空港から「(空港で)すでに子供たちが私の話を聞かずに走り回っており、この先が思いやられる」(FB)とのメッセージ。たくましいなあ。

 由佳さんとのご縁は2017年にさかのぼる。
 彼女が1歳の長男サーメル君を連れてヨルダンに取材に行くのに同行した。彼女の義兄にあたるシリア難民の家に泊めてもらっての取材は、私にとっても、「難民」の実態を知る上で得難い体験だった。日テレの「NNNドキュメント」で「サーメル~子連れ写真家とシリア難民」tとして同年9月24日に放送され好評だった。

 由佳さんは元は登山家で「K2」に日本人女性として初めて登頂した功績により2006年の植村直己冒険賞を受賞した。その後、人生のテーマを探しながら放浪し、シリアのラクダ飼いの家族と巡り合った。その土地に根差した家族の生き方に惹かれて通ううちその末っ子と結婚する。

 私たちのテレビ放送のあと、『人間の土地へ』で2021年に山本美香記念国際ジャーナリスト賞を授賞。昨年、『シリアの家族』で開高健ノンフィクション賞を受賞と、みるみるうちに“メジャー”になっている。そのうち気軽に話しかけられなくなるかも(笑)。

 JCJ(日本ジャーナリスト会議)の機関紙『ジャーナリスト』(3月25日刊)に『シリアの家族』の短い書評を書いた

『ジャーナリスト』より


《開高健ノンフィクション賞を受賞した本書は、一家族の運命を通じてシリア内戦を生きた人々の声を掬い取った、スケールの大きな傑作だ

 写真家の著者が初めてシリアを訪れたのは2008年。ラクダの放牧で生きる四代七十人の大家族の伝統的な暮らしと文化に魅せられ、彼女は繰り返し現地へ通った。

 だが2011年、民主化運動とアサド政権による弾圧が一家の運命を一変させる。政府軍に徴兵された十二男ラドワンは民衆弾圧を拒んで脱走、民主化運動に加わった兄は秘密警察に逮捕された。故郷パルミラも戦場となり、家族はトルコや欧州へと離散する。著者は国外に逃れたラドワンと結婚し、日本で二児を育てながら一家とシリアの激動を記録し続けた。

 物語は著者自身の家族にも及ぶ。男性優位の文化で育った夫は家事や育児を担わず、さらにはシリアから若い第二夫人を迎えたいと言い出す。著者は一人の女性として傷つきながらも、これを「第二夫人騒動」と名づけ、「貴重な異文化体験」として記録した。著者の記録者としての執念に感銘を受けるとともに、固有の文化の内在的理解と近代的人権をどう両立させるのかは、我々が異文化に向き合う際の根本的な課題であることにも気づかされる。

 アサド政権崩壊の報を受け、著者は「大手メディアの報道とは異なる切り口」で伝えようと考える。そこで夫を現場に立たせ「当事者」の目から激動の歴史的瞬間を描くことで“差別化”を図った。本書からはフリーランスとして生き抜く知恵をも学ぶことができる。》