アメリカで進むメディア不信

 アメリカ大統領選投票日が近づく中、ハリスが失速してトランプが優勢になってきたとの報道。混沌のなかにあるアメリカでトランプが支持されるわけを知りたいと思う。

 30日のNHK『国際報道』で、アメリカでメディアへの信頼度が過去最低にまで落ち込んでいることを特集していた。「リベラル」と「保守」の分断が深刻になりマスメディアもそれに巻き込まれる傾向にある。これがフェイクニュース拡散の温床にもなっているという。

目を疑うアメリカメディアの凋落ぶり(国際報道30日)

トランプ政権時代に大きな変化があった。深刻なのは支持党派によって極端な違いになっていること。

 「今のCNNはトランプ批判ばかりで、私の時代だったら、記者を呼び出して『やめろ』と言ったでしょう」と報道の変わりようを語るのは、元CNNワシントン支局長でホワイトハウス国防総省を取材したジョン・トーリス氏だ。

国際報道30日より

 かつてはCNNは抑制的な報道につとめたものだが、今は記者やアンカーがしばしば自分自身の意見を語り、ニュースの内容が挑発的になっているという。また視聴者もそういう内容の番組を好むようになっている。

 深刻なのは、事実関係ですら一致しない状況になっていることだ。例えば先日の巨大ハリケーンの被害で、ワシントンタイムズ(統一協会系の日刊紙)には「十分な支援が届かないのはバイデン政権が資金を不法移民の支援に流用したため」と報道。これをNBCニュースが「トランプ陣営の虚偽の主張だ」と反論している。

 こうしたなかアメリカでのメディアの信頼度はここ数年で急落している。とくにトランプ政権時代は共和党支持者の不信感が募り、近年は民主党支持者のあいだでも信頼度が低下している。インターネットの台頭で人々は自分自身のメディア、自分だけの小さな世界を見つけ、それで大手メディアを無視したいと思うようになったという。

 メディア不信に対して、市民からの寄付で運営する非営利の報道機関が存在感を増している。「調査報道センターCIR」(Center for Investigative Reporting)では調査報道を地道に行っている。デビッド・コーン支局長はCIRのポリシーを「重要なのは中立性でも客観性でもなく、正確であることです」と語る。「立場」ではなく、確信できるまで調べ上げて明らかにした真実を伝えたいという。

 大手メディアからも信頼回復をめざす動きがある。アメリカを代表するニューヨークタイムズ紙はトランプに対して厳しい論調で知られている。自らを反省するのはマイケル・シアー記者だ。

今こそ信頼を回復しなければというシアー記者

 過去の選挙でトランプ氏について多くの報道を行ってきたが、「人々の中で何が起こっていたのか、トランプ氏が人々の擁護者となり人々の声を聞く人物だと考えられていた事実を私たちが十分に理解していたとは思えません」と語り、今回はできるだけ両候補を公平に調査、報道するよう心掛けているという。

 2016年の大統領選挙で、圧倒的な数の新聞がクリントン支持を打ち出したのにもかかわらずトランプが勝ったときを思い出している。

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 メディアが信頼されなくなれば、民主主義の基盤が揺らぐアメリカの地方紙がどんどんつぶれていくが、地元に新聞が無くなったところでは投票率が低下し、汚職が増えるなどの現象がすぐに表れるという。

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 メディアが立場でなく、取材を尽くした上での真実に拠ることで信頼を回復するしかないだろう。

 ただトランプを批判するのではなく、なぜトランプを人々が支持するのかを掘り下げることがメディアに求められているのだろう。

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 この姿勢はメディアだけでなく、日本の政治を見る上でも重要だと思う。ただ嫌いな政党、政治家を批判するのではなく、なぜその嫌な党や政治家は支持され、好きな政党や政治家は支持されなかったのか。その冷静な分析から本当の再生がはじまる。