前回触れた朝日新聞の青木記者は、新聞週間特集(17日朝刊)で動画の使用をこう書いている。
《私たちは写真は撮り慣れているが、動画撮影の経験は浅かった。映像は手ぶれが激しく、決して上出来とは言えない。作業員に気づかれないようにスマートフォンで撮影したため、天地が揺れ動くほどのものもあった。だが、映像は取材現場の緊迫感を伝え、音声は臨場感を増した。
何より、読者から「記者が現場に張り込んで撮影した」ことへの共感が多数寄せられた。動画で取材過程が可視化され、記事への信頼を高めたと感じている。》
特別報道部ではさっそく記者の動画研修を実施したという。
《新聞の調査報道で、動画はますます重要な手段となっているだろう》と青木記者は言う。
新聞、テレビ、ネットなどメディア同士の関係も変わっていくのだろう。
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ところで米国紙「ワシントン・ポスト」が買収された。8月に発表されていたが今月1日に手続きが終わった。
《インターネット小売り最大手、米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が米有力紙のワシントン・ポストを2億5000万ドル(約250億円)で買収する。同紙を発行するワシントン・ポスト社が5日発表した。ポスト社は不振の新聞事業から撤退し、教育や放送関連に経営資源を集中させる。
ベゾス氏は新聞発行やウェブサイトの運営事業などを個人で買収する。買収の手続きは2カ月以内に完了する見通しだ。ポスト紙の編集幹部らは留任し、新聞編集などに携わる約2000人の社員も解雇しない予定。一方で「オーナーの変更いかんにかかわらず、変化が必要だ」(ベゾス氏)ともしており、収益改善に向けた取り組みを強化する見通しだ。
ポスト紙は1877年に創刊した。1933年に米連邦準備理事会(FRB)議長を務めたユージン・メイヤー氏が買収し、同氏の親族がこれまで経営を担ってきた。70年代にはウォーターゲート事件をいち早く報じた。米国を代表する有力紙だが、ネット媒体の台頭などにより近年は業績が悪化していた。》(8月6日日経)
とうとうここまできたか・・・
米国の地方紙がどんどん潰れていることについては以前書いた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090808
大手はどうなのかと調べていて、『ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたのか』(石川幸憲著、毎日新聞社2011)という本を読んで、大丈夫そうだなと思っていた。それだけに驚いた。
あの、ウォーターゲート事件をスクープしてニクソンを辞任に追い込んだ、アメリカのジャーナリズムの良心ともいわれた名門の新聞までもが経営難で身売りするのだ。
いまの若い人たちは新聞を読まないが、新聞が消えるとどうなるか?
例えば、プリンストン大学の経済学者Sam Schulhofe-WohlとMiguell Garridoが出した論文Do Newspapers Matter? Evidence from the Closure of The Cinninnati Post(新聞は大事なものか?シンシナティ・ポスト紙閉鎖からの立証)。
2007年12月31日で廃刊になった新聞のその影響を分析すると;
1. 投票率が下がった
2. 市議会への立候補者が少なくなり、現職議員が再選される確率が高くなった
次に、シカゴ大学の経済学者Matthew Gentzkowは1870年代から現代まで、新聞がなくなったコミュニティの投票率の研究をした。
結果「新聞がなくなると投票率が著しく落ちている」と発表している。
http://faculty.chicagobooth.edu/matthew.gentzkow/research/voting.pdf
さらに、MIT(マサチューセッツ工科大学)の経済学者Jim Snyderの分析によると、新聞で取材される度合いが大きい議員ほど、そうではない議員と比べて、選挙区のためにより真剣に仕事をするという。
論文はPress Coverage and Political Accountability(プレスの取材と政治的責任)
http://econ-www.mit.edu/files/2984
こうして見ると、ジャーナリズムと民主主義が密接に関係していることが分かる。
北朝鮮などの専制的国家だけでなく、先進国においても。