横田めぐみさん写真展での奇怪な出来事4

 きょう8月12日は、鹿児島県から市川修一さんと増元るみ子さんが拉致されて45年になる。

 るみ子さんの弟、増元照明さんが街頭で署名活動をする様子がニュースで流れた。

NHKニュースより

 「まったく進展しないこの8月12日に関して、失望もあり、それでもやらなければならないという使命感もあり、街頭に立っている」と増元さん。本来、自ら救出「運動」などしなくてよいはずの被害者家族が街頭署名に立っていること自体に、政府は責任を感じるべきだ。

 

 きょうのTBS『報道特集』で「台湾の元日本兵たち」について特集

 台湾出身の呉正男さんは14歳で日本に渡り、16歳で軍に志願した。朝鮮半島で敗戦となり、ソ連軍の捕虜になってカザフスタンで抑留され重労働に従事した。日本に戻り、苦学した後、横浜の中華街の台湾系銀行に勤めた。
 日本政府は、日本兵として戦った台湾出身者に対し、日本人ではないからと恩給も出さず事実上見捨ててきた。従軍して亡くなった台湾出身の軍人軍属は少なくとも3万人。96歳になった呉さんの最後のささやかな願いは、「日本のために戦い、命を落とした台湾出身者の慰霊碑を誰もが足を運べる場所に造りたい」ということだという。

呉正男さん。報道特集より

 日本政府は、このまま時間が経過して問題が忘れられるのを待っているのではないかと思え、それが拉致被害者に対する政府の姿勢にダブって見えてきた。台湾、朝鮮出身の日本兵の問題は後日書こう。

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 お知らせです。

 特定失踪者問題調査会が石川正一郎・内閣官房参与に出した公開質問状に対する回答が10日、以下のように来たという。

令和5年8月10日

特定失踪者問題調査会 代表 荒木和博様

内閣官房参与 石川正一郎

 8月7日付公開質問状について、以下の通り、ご回答します。

 質問1及び2につきましては、私自身ヤジを飛ばしたとの認識はありません。もとより自ら積極的に何かの発言をして、行事の進行を妨害したり、対談のやりとりに何らかの影響を与える意図は全く有しておりませんでした。

 質問3につきましては、田中さんや金田さんを含む、北朝鮮による拉致被害者や拉致の可能性を排除できない方については、政府において平素から情報収集に努めておりますが、今後の対応に支障をきたすおそれがあることから、その具体的内容や報道の一つ一つについてお答えすることは差し控えさせていただきます。
http://araki.way-nifty.com/araki/2023/08/post-c19271.html

 ヤジだとの認識ではなかったということのようだ。思わず発してしまったということだろうか。

 また、「デイリー新潮」から取材され、きょう記事が出た

《拉致対策のドン」によるヤジ騒動に批判噴出 「横田早紀江さん」対談イベントで「石川正一郎」内閣官房参与が「誘導尋問やめろ」と声を上げたワケ》
https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/nation/incident/dailyshincho-1019541.html

 私はこのヤジ問題をきっかけに、極めて深刻な問題なのにほとんど知られていない田中実さんと金田龍光さんのケースが少しでも注目されてほしいと願っている。

 

 前回、北朝鮮が生存情報を出してきた2014年当時の拉致問題担当大臣だった古屋圭司が、2年前にこの事実関係を認めていたことを指摘した。記者とのやりとりは―

(記者)北朝鮮は非公式協議で、行方不明になった神戸市出身の田中実さんと、知人の金田龍光さんの生存を明かしたとされていますが、日本政府は報告を受け取りませんでした。なぜでしょうか。

(古屋)過去の教訓から、報告書を受け取れば北朝鮮のペースになるとの懸念がありました。小泉訪朝で(拉致被害者の一部にあたる)5人を帰して(問題の)幕引きを図ろうとしたからです。今回もこの2人で、となれば、同じことになると考えるのは当然です。

 つまり、古屋氏は、2002年の小泉訪朝で拉致被害者5人が生存しているとして帰したことと、今回、田中さんと金田さんの2人の生存情報を出してきて一時帰国させてもよいと言っていることを同列に並べて、「幕引きを図ろうと」するのだからその手に乗ってはいけないというのである。

 02年、5人ははじめ日本に帰国するつもりはないので家族の方から北朝鮮に会いに来てほしい旨語っていたとされ、日本に帰国したのも一時的な里帰りで北朝鮮に戻る時のお土産を買うスケジュールも組まれていた。ところが、5人が「日本に残る」と決意したことで事態が大きく変わった。

 5人の帰国は実施するべきではなかったのか?
 あの北朝鮮との一時帰国の合意は「幕引き」になったのか?
 いや、逆に、北朝鮮のウソが暴かれ、世論が沸騰して拉致被害者の救出の声が高まったのだった。

 また「幕引き」で思い出すのは、横田さん夫妻とめぐみさんの娘のウンギョンさんとの面会である

 02年にすでに孫娘の存在が明らかになり、滋さんはすぐに会いたいとの希望をもったのだが、会うことは拉致問題の「幕引き」になるからやめろと「救う会」を中心に強い反対があり、二人は孫娘に会いたい気持ちを長く抑えてきた。「救う会」とともに「家族会」も反対し続けた。

 12年も我慢を重ねた末、「救う会」「家族会」には事前に漏らすことなく、2014年3月に夫妻はモンゴルに向かい、ウンギョンさん一家に会った。それは横田さん夫妻にとって、夢のような出来事だった。

 「夢のような、長いこと願っていたことを実現したと、私たちにとっても奇跡的な日だったと思っています。希望していたことがかなえられたことが本当にうれしくて、肉親として、祖父母と孫として会いたいと思っていたことが、静かに実現したことが、私たちには喜ばしいことであり、不思議な瞬間で、一つ一つが感動しながら過ごした日々でした」(早紀江さん)
https://takase.hatenablog.jp/entry/20200619

 もし、「幕引き」になるからと、あのまま我慢し続けたら、滋さんは生きている間にウンギョンさんに会えなかっただろう

 生身の人間には時間が限られている。「人道」に配慮しなければより大きな悲劇を招くのである。

 そして、聞きたい。横田さん夫妻がウンギョンさんに会うことで「幕引き」になったのかと。お二人は面会のあとも、老体を押して拉致問題の解決のため全国での講演を続け、メディアの取材に応じ続けたのである。国民も面会を喜んだが、それが拉致問題の終わりだなどと思ってはいない。

 さらに、この面会のために日朝の接触が頻繁に行われ、2か月後のストックホルム合意への伏線になったのだ。結果として、面会は拉致問題の進展を促進したのである

 「幕引き」になるかどうかは、我々日本側の主体的な問題なのだ。

takase.hatenablog.jp

『よそのくに』

ここに、今年6月30日に出たばかりの『よそのくに』(三浦小太郎編著、晩聲社)という本がある。

 これは田中実さん、金田龍光さんの生存情報が日本政府により無視されている問題を正面から扱っている。これに収められた拉致問題の関係者による座談会で、特定失踪者、古川了子さんの姉、竹下珠路さんは強くこう訴えている。(カッコ内は私の注)

 「特定失踪者家族の一人として、この田中さん、金田さんの情報を聞いてまず思ったのは、もしもこれが自分の家族、私の妹のことだったら、北朝鮮から情報が入ってきた段階で、なんとしてでも、どんな手段をとっても取り戻してほしいということでした。北朝鮮が(一時帰国として)返してもいいと言っているなら、そこでなぜ日本政府は「すぐ返せ」と言わないのかなということでした。そして田中さんの奥さんは同じ日本人だという話もあり(注1)、少なくとも複数の日本人を取り戻せるチャンスなのに、なぜ無視をするのかと不思議でなりませんでした。金田さんは私たちと同じ立場、特定失踪者ですよね。その人が北朝鮮にいるとわかったのに、なぜ拉致被害者として認定しないのか(注2)とも思います。

 金田さんは拉致被害者の田中さんからの手紙で呼び出されて、それで拉致されたのですよね。そしたら日本政府は金田龍光さんを拉致被害者に認定しても全然おかしくないのに、それもしないで、そのまま、何か(それ以外の)新しい情報がなかったから無視したという。そんな言葉を聞いて、私は本当に日本の国は、拉致被害者を取り戻す気はないのだって、本当に腹が立って、悔しくてなりませんでした。

 私の妹がこんな扱いをされたら、見捨てられたら、私は本当にもう許せないと思いましたし、田中実さんも、金田龍光さんも、児童養護施設の出身だという、ご家族の力が少ない、関係が薄いということが、金田さんたちを助け出そうという力になっていかないのかもしれないし、とにかく日本政府のやりかたを、本当に悔しいと思いました。拉致被害者に親族がいるかいないかなんて、何の関係もないことですからね」

 また、拉致被害者家族会が、「救う会」にならって「全ての拉致被害者の即時一括帰国」(注3)を掲げるなか、家族会メンバーの増元照明さんはこう語る。

 「被害者家族の立場から言うと、一括全員帰国というのは、スローガンとしては確かに正しいのだろうけど、私は家族会の会議で、もしも本当に、例えば私の姉の名前が北朝鮮から出てきたとして、それでも、いや、一括帰国でなければ断ります、と言えるんですかと本音で言ったことがあるんですよ。そうしたら、はっきりした返答はなかったですよ。まあ、当然のことだとは思うんですけどね。

 そして今回のことで、古屋さんが、もし二人を返したら運動が沈静化するとか、北朝鮮にごまかされるとか言っているのを聴くと、いや、それは違うだろうと。それで運動が沈静化するか終わってしまうかというのは、私たち運動のサイドの問題で、政府が考える問題じゃない。政府は、とにかく一人でも早く日本人のことを助ける、帰国させることに専念すればいいだけのことで、運動の側のことはこちらが考えることです。絶対に私たちは諦めないし、運動を終わらせるつもりはないですから。」

 この二人の家族の声にこそ、ほとんどの人が説得力を感じるのではないだろうか。こうなると、ぜひ横田早紀江さんの本心を聴いてみたいと思うのは当然だろう。
(つづく)

注1北朝鮮からの情報では、田中実さんの配偶者は日本人だとされている。私はすでに1999年、北朝鮮工作機関幹部が「田中実は平壌に連れてきた後、平壌の生活になじまなくてしばらく手を焼いたが、日本人と結婚させ子どもを一人もうけ、現在はやっと落ち着いている」と言ったとの情報を張龍雲氏から聞いていた。。

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注2金田龍光さんは日本国籍者ではないため政府認定の拉致被害者にはならないとされるが、高敬美、高剛兄弟について警察は拉致と認定しているので、同様の拉致認定は可能なはずだ。

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注3:「全員即時一括帰国」を北朝鮮との交渉方針にすることへの批判は―

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