ここ3〜4日、本ブログへのアクセスが驚くほど増えて、「先週のはてなブログランキング」で28位になったと連絡が来た。いまも拉致問題への潜在的な関心は高いのだなとあらためて感じる。
2014年の田中実さん・金田龍光さん生存情報秘匿問題は、テレビや新聞がほとんど扱わないためか、「初めて知ってショックを受けている」との声がいくつも寄せられ、「早く続きを書け」とせっつかれている。いつもは畑の様子や身辺雑記ふくめ日記風に書いているのだが、すぐに本題に入ろう。
はじめにお知らせです。
「特定失踪者問題調査会」が先日の「ヤジ」について石川正一郎内閣官房参与に公開質問状を出したとの情報が寄せられました。
公開質問状の質問は3点。
1、民間主催のイベントでの対談の場で、公的な立場でありながらヤジを飛ばしたことについてどのように考えているのか。
2、「誘導尋問」とは何を意味していたのか。
3、ストックホルム合意当時拉致問題対策本部の事務局長であった参与の立場で田中実さんと金田龍光さんの件について、古屋拉致問題担当大臣及び齋木外務事務次官(どちらも当時)の発言は事実でないと考えるのか。事実だったとすればその判断は正しかったと認識しているのか。
となっています。どんな回答が来るか、期待しています。
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2日の座談会では、有本明弘さんと、恵子さんの拉致事件についてやや詳しくやりとりした。
横田めぐみさんや帰国した5人のように、海岸近くでいきなり襲われて工作船で運ばれる手口とは異なり、恵子さんたちのように、海外留学に出かけた若者に「よど号」犯グループとその妻が近づいて誘拐するケースは意外に知られていないからだ。
関心のある方は、本ブログ「有本恵子さん拉致の全貌」をお読みください。お母さんの嘉代子さんが亡くなった20年2月から連載したものです。
座談会で印象的だったのは、明弘さんが、恵子さんを騙して北朝鮮に送った「よど号」犯の妻、八尾恵(やお・めぐみ)に同情していたことだ。
2002年3月2日、八尾恵は、有本さん夫妻に土下座して謝った。そのとき、嘉代子さんは、八尾恵の手をとって身を起すよう促した。娘を拉致した人物になぜやさしく接することができるのか、不思議だった。その時のことを明弘さんが回顧した。(以下、一部言葉を補った)
「八尾恵は顔中洟(はな)だらけで、涙と洟でぐちゃぐちゃになっとった。八尾は改心したんや。八尾は普通の心になったんやね。
なんでいうたら、八尾は女の子が二人おって、よど号グループは子どもに、「お前のお母さんは裏切者や」と、そういうふうに吹き込んでいったんや。親はたまらんがな。「お前の親は裏切者や」とレッテルと貼って回ったんや。裏切者やと言って、(八尾恵の)精神状態をぐちゃぐちゃにしてしまうのや。」
解説すると、八尾恵が、自分が恵子さん拉致の「下手人」だと名乗り出、拉致に「よど号」犯グループが組織的に関与していたことを告白したことは、「よど号」犯グループにとっては許せない裏切り行為だった。母親と切り離されて「よど号」グループに養育されていた2人の娘は、「裏切者」の母に対して絶縁宣言をした。八尾恵は、拉致をした罪の意識とともに娘との縁が切られたことを深く悩んでいた。「改心」した八尾恵を誘って新宿で酒を飲んだことがあるが、娘に会いたくてたまらないと何度も繰り返していた。
八尾恵は北朝鮮に強い興味を持っていて、朝鮮総連の青年幹部との接点ができたことから北朝鮮への「旅行」を勧められた。北朝鮮に入国すると帰国は許されず、「よど号」犯の一人との結婚を強制されている。
私はこれも「拉致」とみなす。つまり八尾恵という拉致被害者が、恵子さん拉致の加害者になり、自分の子どもは「人質」に取られて母娘分断にみまわれている。北朝鮮による拉致とは、かくも残酷にそれぞれの人生の悲惨を拡大していくのだ。
さて、2014年に北朝鮮が明かした田中実さん・金田龍光さんの生存情報を日本政府が正式に受け取ることを拒否し、現在まで秘匿し続けている問題。
これは共同通信が何度か配信したが、北朝鮮ウォッチャーの間では未確認情報として扱われてきた。ところが、近年、これを知り得る立場の関係者が証言をして「事実」であることが明らかになった。
去年9月には2014年当時の外務事務次官、斎木昭隆氏が『朝日新聞』に事実関係を認めている。
「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りです。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした」と。
これに対して「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)は激怒した。救う会会長、西岡力氏が7月20日の集会でこう語る。
《(前略)繰り返し「共同通信」が、「ストックホルム合意の後の日朝協議で認定被害者の田中実さんと朝鮮籍の特定失踪者の金田龍光さんの生存を伝えてきたが、安倍総理は「それだけでは足りないから拒否しろ」と言って、「それで田中さん、金田さんが事実上見殺しにされた」というような報道を繰り返ししました。
私が大変怒っているのは、安倍総理が殉職された後、去年の9月に、当時の外務次官だった斎木さんが、「朝日新聞」のインタビューで、「田中さん、金田さんについてはそういう話(生存情報)がありました」ということを認めました。
終わっていない交渉の一部分だけを抜いてリークするということを、外務次官をやった人がするのか、と。それも安倍さんが亡くなった後に、安倍さんを批判する側に有利になるようなことをするのかと、大変怒っています》
http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_8041.html
何もやっていないのに「終っていない交渉」とは意味不明だが、「安倍さんを批判する側に有利になる」という政治主義的な批判に目が行く。
元外務事務次官、斎木氏を非難する「救う会」だが、実はすでに一昨年の8月、2014年当時拉致問題担当大臣だった古屋圭司氏がこの事実関係を認めていた。
「(記者)北朝鮮は非公式協議で、行方不明になった神戸市出身の田中実さんと、知人の金田龍光さんの生存を明かしたとされていますが、日本政府は報告を受け取りませんでした。なぜでしょうか。
(古屋)過去の教訓から、報告書を受け取れば北朝鮮のペースになるとの懸念がありました。小泉訪朝で(拉致被害者の一部にあたる)5人を帰して(問題の)幕引きを図ろうとしたからです。今回もこの2人で、となれば、同じことになると考えるのは当然です。分析結果をつぶさに話すことはできませんが、当時、拉致対策室であらゆる手段を通じて情報をとり、客観的に分析しましたから。」
古屋氏はツイッターにこの記事をアップして宣伝しているので、言ってもいないことを記事に書かれたなどと抗議する可能性はないだろう。それに発言からは、本来言うべきでないことを「リーク」したというよりは、むしろ誇らしげに語っている印象だ。
繰り返すが、古屋氏は当時の拉致問題担当大臣である。役職の重みからいっても、斎木氏より1年も早く事実関係を認めたことからみても、こちらの方が、より罪深いように思うのだが、「救う会」はなぜ批判しないのか。安倍派だから? 統一協会ともいい関係だから?
この記事での古屋氏の答えは、非常に興味深く、日本政府の拉致問題への対応方針の問題点を考えるのに格好の資料である。
古屋氏は報告書を受け取らなかったのは、拉致問題の「幕引き」を図ろうとしたからだと言っている。
実は私、ツイッターで先日「北朝鮮が2名で幕引きを図ろうとしているのが分かりませんかね?」と匿名の人から「お説教」されたところだ。
北朝鮮が「幕引き」を図ろうとする? それって当り前でしょう。
私は、北朝鮮が拉致などしたことがないと言い張っていたころから取材してきて、あの国のやり方は「お説教」されなくてもわかっているつもりだ。北朝鮮は、拉致を認めるにしても最小限にして、早く日本を黙らせたいと狙っている。これは議論の余地がない。
しかし、北朝鮮側が「幕引き」を図ろうとしているからといって、二人の拉致被害者とその家族の保護・救出を放棄することを正当化できるのだろうか?
(つづく)
なお、「救う会」の権力闘争と変質の歴史、日本会議などとの関係については以下を参照されたい。