猛暑がつづく。
節季は小暑。七夕も過ぎて今日までが初候「温風至(あつかぜいたる)」、明日から16日ごろまでが次候「蓮始開(はすはじめてひらく)」、その後末候「鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)」となる。
府中市の「郷土の森公園」には2千年以上前の古代蓮が咲く修景池があって、去年訪れて蓮の花の魅力にひたった。今年も行ってみよう。
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国連安全保障理事会は9日、ロシアによるウクライナ首都キーウ(キエフ)の小児病院などへのミサイル攻撃を協議する緊急会合を開いた。国連のグテレス事務総長は8日、報道官を通じて「民間人や民間施設への攻撃は国際人道法違反で、容認できない」と強く非難する声明を発表した。こうした批判にもプーチンはカエルの面になんとかで、全く動じない。
ロシアは5月には戦術核を使った軍事先週を行い、プーチンはこう言い放った。
「NATO諸国、特にヨーロッパの小国の代表は、自分たちが何をもてあそんでいるのか認識しなければならない。こうした国々は国土が狭く、人口密度が高い。」(5月)
ほとんど暴力団の恫喝、恐いな。
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パリ五輪に出場するウクライナの選手たちは、戦時下で十分な練習ができないながら、士気は高い。多くのアスリートが戦闘や空襲で命を落としており、日本風にいえば「弔い合戦」のモードになっているようだ。
ウクライナの双子の姉妹、ウラディスラワとマリナ・アレクシーワ選手は東京五輪のアーティスティック・スイミングで銅メダルを獲得。22年はチームとデュエット合わせて、金メダルを世界選手権で2つ、欧州選手権で6つ獲得するなど実績を挙げている。
彼女らの五輪を前にしたインタビューでは―
「オリンピックの主な目的は、ウクライナの自由のために侵略国と戦っていることを、皆さんに思い出してもらうことです」と語っている。
日本では「戦う」こと自体、絶対ダメと考える人が多いから、このコメントにギョッとした人もいるだろう。オリンピックは「平和の祭典」なのに・・と。でも、ウクライナを取材した私は、これが侵略者に必死で抵抗しているウクライナ人のリアルな感情だと理解できる。
かつてはウクライナ人が「勝利をのぞむ」と答えたコメントを「平和をのぞむ」とテロップで替えてしまったNHKだが、この姉妹の言葉は放送しても大丈夫だったらしい。
敵(アメリカ、岸田政権など)のやっていることに、即座に反対!すべてNO!と条件反射のように対応すると、敵のダブルスタンダードの裏返しが自分の身に降りかかってくる。これが「左翼のダブルスタンダード」のからくりなのだが、「左翼のダブルスタンダード」に陥っている論者(以降DS論者と呼ぶ)は誤った事実関係から議論をはじめている。
そこで、読者には歯がゆいかもしれないが、その事実関係からじっくり点検していきたい。
なお以下では、加藤直樹『ウクライナ侵略を考える』(あけび書房)の記述を参考にし引用させてもらった。(加藤直樹氏はかつて「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」(RENK)の活動家で、関東大震災後の朝鮮人虐殺に関する調査で知られたライター。この本で氏は「侵攻を相対化する議論を批判」しており、その論旨には全面的に賛成する)
2022年2月のロシアによる全面侵攻はあまりにもあからさまな侵略であり、ブチャはじめロシア軍占領地で繰り広げられた蛮行は弁護しようがない。そこでDS論者はウクライナ戦争の「歴史的経緯」を見なければならないとして2014年の出来事を取り上げる。
2014年はウクライナ現代史の画期となる年だった。今年の2月を私たち日本人は戦争が始まって2年と数えるが、ウクライナの人々は「いや、戦争は2014年から10年続いている」と言う。
2014年2月、ユーロ・マイダン広場に集まった数十万の群衆と治安部隊が衝突。100名を超える犠牲者を出しながら人々は抗議をやめず、当時のヤヌコヴィチ大統領はロシアに亡命。これがユーロ・マイダン革命である。
直後、クリミアがロシアに「併合」される。歴史的な経緯もありロシアへの帰属意識を持つ住民が多いこの地で、3月にロシア軍の制圧下で住民投票なるものが行われ、その結果を受けてロシアへの併合が発表された。
さらに東部ドンバス地方で、ロシアから越境してきた民兵やロシア軍の支援を受けて、5月には「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」が独立を宣言した。ここからウクライナ政府軍との戦闘が行われている。この時点からロシアとは事実上、戦争状態が続いてきたのである。
この一連の出来事はロシアによるウクライナ全面侵攻に直接かかわっている。
前にDS論者として紹介した西谷修氏は、マイダン革命とウクライナ戦争の関わりをこう述べる。
「『マイダン革命』にはユダヤ系ウクライナ人のヴィクトリア・ヌーランド米国務次官補(当時。現国務次官)と米中央情報局(CIA)が絡んでいます。特にヌーランド氏はバイデン副大統領(当時)の下、米大使館でマイダン革命の陣頭指揮を執っていました。今のウクライナ戦争は2014年のそのあたりから見ないと話になりません。」(前掲書P144)
前号に取り上げた水島朝穂氏もまた、「マイダン革命」は、米国が行なった「レジーム・チェンジ」だという。
要はアメリカが「マイダン革命」を引き起こしたというのである。決定的に重要な論点であり、これがロシア擁護論の中核となる「事実」なので、しっかり検討してみよう。
ロシア擁護論でよく登場するのが西谷氏が挙げるヌーランド氏である。彼女はキーウの独立広場で抗議運動が行われていた2013年12月に講演で「ウクライナが1991年に独立して以来、アメリカは50億ドル以上を援助してきた」と述べている。援助内容は民主制度の構築や市民参加の促進などだという。https://2009-2017.state.gov/p/eur/rls/rm/2013/dec/218804.htm
これはアメリカがマイダン革命を引き起こしたという証拠になるのか。
50億ドルは巨額に見えるが、1991年からの総額であるから1年あたり約2億ドル。2011年のアメリカのODA対象国上位10位では1位のアフガニスタンが年間23億ドル、10位の南アフリカが6億ドル。年2億ドルは、アメリカが「革命」を起そうと力を入れる国に対する金額として十分だろうか。
アメリカは官民とも世界各国の様々な団体、組織に「民主主義」支援として資金援助を行っている。例えば「全米民主主義基金(NED)」は「ウクライナのNGO、市民団体、腐敗防止の運動、調査報道をする自由なメディアなど」に支援してきたと公表している。
こうした活動を「介入」ともし呼ぶとしても、それで「アメリカがマイダン革命を引き起こした」ということにはならないのは当然だ。
大国がそれぞれの戦略、国益に基づいて他国を支援することは常に行われている。戦後の日本で自民党がアメリカから、社会党や共産党がソ連や中国から資金援助を受けていたが、だからといって60年安保闘争を「ソ連がやらせた」とまでは言えない。
ヴィクトリア・ヌーランドをWikipediaでみると、以下の記述が出てくる。これがまたヌーランド「指揮官」説でよく取り上げられる彼女の行動である。
《2014年2月4日、ヌーランドとジェフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使の間で2014年1月28日に交わされた電話の録音がYouTubeで公開された。ヌーランドとパイアットは、次のウクライナ政府に誰が入るべきか、あるいは入るべきでないと考えるか、また、さまざまなウクライナの政治家について意見を交わした。ヌーランドはパイアットに、アルセニー・ヤツェニュクがウクライナの次期首相になる最有力候補だろうと語った。》
「次のウクライナ政府」の人事をしかも次期首相をあれこれ語っているとは、アメリカの露骨な政治介入ではないか?
実はそう解釈するのはまったくの誤解だった。
(つづく)