隆祥館書店の店主、二村知子さんから『中村哲という希望』が今年前半期(1月~6月)のノンフィクション大賞(10冊)に入賞したと連絡を受けたことは先日書いた。
ここはユニークな「13坪の本屋」として知られる。二村知子さんが本屋哲学を語るポリタスTVの番組が7日まで観られるので紹介したい。
『中村哲という希望』も18分すぎに登場する。
隆祥館は本の流通の構造的問題で、日販、東販などの取次とも果敢に闘ってきた。
たとえば、かつては取次に本の返品をすると、大手ナショナルチェーンの小売書店には月末にすぐに電子決済されるのに、中小書店は20日から月末に返品した場合、決済は翌月になるという差別があった。隆祥館のような小規模店でもその額は140万円くらいになっていた。当時は日本全国に2万3千軒くらい本屋があって、取次が止めるお金の額は100億円という巨額になっていた。
先代の店主である、知子さんの父親がこれはおかしいと闘いを挑んだ。圧倒的な力をもつ取次相手に勝てるわけないと多くの書店が諦める中、「優先的地位の濫用」だと闘い続け、公正取引委員会にも持ち込んで、ついに6年後、この慣行を改めさせた。
「やっぱりおかしいことはおかしいと、声を出して言うべきだと父に学んだ」という知子さん自身、理不尽なことにはきちんと抗議して書店を運営している。本屋はマスコミが伝えない情報を送る「メディア」であり、人々が集う「コモン」であるとの信念からだ。
注文しないのに取次が小売書店に卸してくる「見計(みはか)らい本」というのがある。書店の売り上げ実績、店の規模などに応じて取次が勝手に送ってくるのだが、あるとき百田尚樹『日本国紀』を出版する飛鳥新社の「花田コレクション」が15冊も送られてきた。
知子さんは、これを日本全国でやられたら本屋の風景が変わってしまうと危惧し、取次に断りの連絡をした。するとその「花田コレクション」の本は「トータルサポート」ですよと言われたという。
「トータルサポート」とは、通常、本を売ると本屋の利益は22%なのだが、特別にそれにインセンティブとして金額を上乗せすることをいう。これでは普通の本屋はありがたく本を置くだろう。また、育鵬社の『新しい日本の教科書』もまた「見計らい本」で送られてきたという。知子さんは「おかしい」と抗議しているというが、最近の本屋に右翼本が多く並べてある理由の一つがわかった。
本をクレジットカードで買うと、手数料がかかって本屋の経営上は望ましくないなど、町の本屋を応援するやり方も学べておもしろい番組だった。
なお、二村知子さんは若い頃アーテクスティックスイミングの日本代表として活躍したという本人の経歴もユニークな方で、「note」でも発信している。
いま全国で本屋がどんどん廃業して本屋が一軒もない町も出てきている。隆祥館書店の運営方針には学ぶべき点がたくさんあると思う。魅力ある本屋を応援して増やしたい。