なぜ?「左翼のダブルスタンダード」③

 東京都知事選挙蓮舫の得票が石丸伸二氏に及ばないという意外な結果だった。石丸支持が若者層に広がっているとの記事は見聞きしていたが、票差も予想外で残念な結果だった。

 一人スタンディングなど、これまでになかった運動が広がったことが、今後どんなものをもたらすか、期待しよう。

 新宿ベルク店長、井野朋也氏のXに共感する。

「本気で勝てるつもりでいたの?」と笑う奴もいるよ。笑わせておけ。そういう人間にだけはならないようにしよう」

《ファイト!闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう》という中島みゆき「ファイト」の歌詞を思い起こす。

井野氏のXより

 驚いたのはもう一つ、各局の選挙特番での石丸氏のスタジオとの受け答え。質問と答えが全くかみ合わない。ほんとに質問が理解できていないのか、それともコミュニケーション自体を拒否しているのか。ざらざらした不快感が残った。

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 石丸氏のインタビューについて、スタジオの能條桃子氏「最初からキレるというか抑圧する態度というのは、怖さを感じてしまいましたね」と言ったが見ていた人のほとんどが同じ感想だったろう。石丸氏、これからどうしようというのか。

 投票日直前、石丸氏は立て続けに裁判で負けた

安芸高田市・石丸伸二前市長の「どう喝」訴訟 二審も市議への名誉棄損認める 安芸高田市に損害賠償支払い命じた一審判決を支持 広島高裁》https://www3.nhk.or.jp/lnews/hiroshima/20240703/4000026298.html

《石丸伸二氏の敗訴確定 選挙ポスター代金の未払い訴訟 最高裁、上告受理せず》https://www.sankei.com/article/20240708-DEY54JQNTBKXHETWVCYJHZWTG4/

 こちらは5日付の決定なのだが、報じられたのは選挙後。なぜだろう?

 また、安芸高田市長に新人藤本氏 広島、石丸氏の手法批判」のニュース。石丸氏の市長辞任にともなう7日投票の市長選で、反石丸の候補が勝ったという。

 今ごろボロが出たが、遅かった。
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 ロシアがまた病院をミサイル攻撃した。

 ウクライナ各地で8日午前、計40発以上のロシア軍によるミサイル攻撃があった。首都キーウなどで少なくとも31人が死亡し、110人以上が負傷した。キーウでは、中心部にあるオフマディト小児病院(720床)も被害を受けた。同病院はロシアの全面侵攻開始前の時点で年間1万件の手術を行い、2万人の子どもの治療を担っていた

市民が小児病院のがれきの撤去を手伝っている

 ゼレンスキー大統領は「ロシアは完全な責任を負わなければならない。世界が沈黙しないことが重要だ」とSNSで訴えた。ウメロウ国防相は「空と民間人を守るため、支援国がさらに兵器を供与する素早い決断が必要だ」と呼びかけた

 医療施設や教育施設などの純然たる民間施設、しかも人道という観点からはもっとも守られなくてはならない場所を意図的に狙って攻撃するのはロシアもイスラエルも同じだ。

 ウィンブルドン選手権に出場しているウクライナの女子テニス選手、エリナ・スビトリナは8日、小児病院が空襲されたことを知り、主催者の許可を得て、白のトップスに黒いリボンを付けてプレー。準々決勝進出を決めたが、試合後のコートインタビューで「ウクライナの人々にとってつらい日」と泣き崩れた。

 「きょうの私の勝利は、ウクライナの人々に幸せなひと時をもたらした小さな光」と話した。

黒いリボンをつけてプレーしたスビトリナ選手

 ウクライナでは、スポーツ選手はそれぞれの種目で自分の勝利が兵士や市民を励ますことを願って闘っている。テニスコートはスビトリナ選手にとっての「前線」なのだ
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 「左翼のダブルスタンダードに陥っている人は、上のスビトリナ選手をどう思うのだろうか。ゼレンスキーに騙されて戦争に動員されているかわいそうな、あるいはバカな一国民と見るのだろうか。

 本ブログの読者は、私がウクライナ取材を経て、この戦争はウクライナ国民あげてのレジスタンスだと結論づけたことをご存知だろう。

takase.hatenablog.jp


 ウクライナでは、まだ汚職体質の抜けない頼りない政府などあてにせずに、国民一人ひとりが自発的に前線の兵士とともに戦っているウクライナ人が「国を守る」というとき、その「国」とはゼレンスキー政権ではない。ここがウクライナ戦争を理解する上で、大事なポイントだ。

 さて、「左翼のダブルスタンダード」はなぜ生じるのか。

 その一つの要因は、左翼の機械的な反米反応だと思う。5日付の本ブログに紹介した西谷修の主張を再度見てみよう。

ウクライナの現政権は(略)、西側諸国に支えられていて、イスラエルに似ており・・」

アメリカがウクライナイスラエルへの支援をやめないと何も変わりません」

 アメリカと西側が支援するから」という理由で、イスラエルウクライナが同列にされ「悪玉」にされている。アメリカがやることはみな反対、条件反射的にNO!とやると、アメリカのダブルスタンダードくるりとひっくり返って、アメリカが支持するイスラエルは悪、アメリカが支持するウクライナも悪、とまるで影絵のような「裏ダブルスタンダードができ上ってしまう。

 これは楽である。自分の頭で考えなくても、機械的に反米を当てはめれば自分の主張が決まるのだから。

 左翼のダブルスタンダードのバリエーションに、「代理戦争」論がある。

 「Ceasefire Now! 今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」の発起人の一人で、憲法9条問題の権威、水島朝穂早稲田大学名誉教授)は『週刊金曜日』への寄稿「武器供与ではなく、即時停戦求める声を!」でこう主張している。

 「戦争には周期がある?アフガニスタンイラクリビア、シリア、ウクライナ・・・。兵器というのは、戦争や武力紛争がなく、『使用期限』が過ぎて使えなくなれば巨大な鉄くずと化す」。

 水島氏はアメリカの兵器更新衝動が現代史の最大の動因と見ているようだ。

 アメリカは「最新兵器を大量に使用・消費できる格好の機会」を湾岸戦争、ついで911同時多発テロとアフガン戦争に求めたが、戦争が膠着し「『対テロ戦争』は、軍需の大規模拡大のためにはネタ切れとなった。そこで用意された論理が『体制転換』(レジーム・チェンジ)である。

 兵器更新のための戦略が「対テロ戦争」から「レジーム・チェンジ」に替わったという。91年の湾岸戦争、2001年のアフガン戦争と10年周期で戦争が起きて―

 「『9.11』から10年が経過した2011年、チュニジアから始まった米国の『レジーム・チェンジ』戦略は、北アフリカから中東各地に広がられていく」。「そして、米国の『レジーム・チェンジ』戦略のターゲットは、ロシア正面のウクライナにまで及ぶ。14年2月の『マイダン革命』がそれである」

 正気ですか?

 あのアラブの春もみな、そしてウクライナの「マイダン革命」までもがアメリカの仕業による「レジームチェンジ」だったというのだ。

 2013年11月下旬から翌14年2月下旬まで連日、厳寒のなか数十万の民衆がキーウの独立広場に集まり、治安部隊の弾圧で百名近い犠牲者を出しながら闘った巨大な民衆運動を、いかにして「アメリカが起こした」と説明できるのか。マイダン革命を冒涜する妄論だが、この先が大事なので進もう。

プーチンがそれを真似して行ったウクライナの『レジーム・チェンジ』は、驕りと誤算も重なって失敗しつつある。

 米英による周到なるウクライナ軍強化の事前準備を過小評価していた節もある。まさに『飛んで火にいる冬のプーチン』状態になっている。ロシアの国際法違反の侵略行為がきっかけだが、米国とNATOによる武器供与とハイテク支援による実質的な代理戦争となっていることは間違いないだろう」

 水島氏によれば、ウクライナ侵略はアメリカの「マイダン革命」=レジーム・チェンジへの対抗として「それを真似して行った」レジーム・チェンジなのである。だとすると、「どっちもどっち」になる。だから「ロシアの国際法違反の侵略行為がきっかけだが」とさらっと一文あるだけで、侵略への批判はない。侵略はあくまで「きっかけ」なのである。そして全体としてロシアは「驕りと誤算」で失敗し、「飛んで火にいる」、つまり、してやられた被害者として描かれることになる。

 この代理戦争論については次回以降詳しく批判するが、この論が跋扈する背景に、日本の知識人の思想的弱点が見えてくる。
(つづく)

 実は水島氏は大学時代からの友人である。

 日本がベトナムで使用される米軍の戦車はじめ兵器・装備の修理やメンテナンスの基地となっていたころ、私たちはともに修理を行う相模原補給廠へ続く道路や、搬出港の横浜ノースピアで「戦車を通すな!」の掛け声のもと、デモや座り込みを行った。

 当時、北ベトナムソ連、中国が支援し、ベトナム戦争は「代理戦争」とかまびすしく言われた。どの戦争、どこの紛争でも他国からの支援が行われる。しかしあくまで当事者はベトナムアメリカだった。

 大国の侵略とそれに対する小国の民衆の抵抗を「代理戦争」とする見方に惑わされなかった彼が、いま代理戦争論を説くとは驚きである。