ウクライナの教授は戦場から講義する

 9日はロシアの戦勝記念日で、「ウラー!」という叫び声がこだまするモスクワ赤の広場の映像がテレビに流れた。

NHKニュース)


 「広場は異様な熱気に包まれました」との特派員リポート。熱気とは?

 第二次大戦のソ連戦没者は民間人を入れて2700万人といわれ、ダントツに多い。犠牲者の中にはロシア人だけでなく、ウクライナ人も多く含まれる。

 というより、ウクライナこそ全土が戦場になって800万人の犠牲者を出し、もっとも悲惨な目にあっている。

 この悲惨だが栄光とされる史実をたどりながら、プーチンは「あなた方は父親や祖父、曽祖父が戦い取ったものを守ろうとしているのだ」とウクライナ侵攻を正当化した。過去の戦争が政権への忠誠心を鼓舞するのは、それが語り継がれてきたからだ。

 会場には、勲章を胸につけた高齢の退役兵だけでなく、多くの若者の姿もみられた。

 式典はロシア各地で行われ、ロシア軍がほぼ制圧したマリウポリなど、ロシア以外のロシア占領地でも開かれた。その一つ、モルドバのロシア軍駐留地、「沿ドニエストル共和国」の式典の様子を独自入手した映像でNHKが伝えていた。

 今どきの若者風な女性が、祖父が大祖国戦争を戦い私たちを守ってくれた、今日は大事な日です、と感慨深げに語っていて、戦争体験が広く共有されていることが分かる。

NHKニュースより)

 彼女の認識内容はさておき、この言葉を聴きながら、ひるがえって日本では「さきの大戦」が若い人たちにほとんど伝えられていないことに思い至った。

 今月15日は沖縄返還の日だ。これを契機に日本が戦った戦争について再度考えてみよう。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻では、安全保障の仕組みや民族意識のありよう、さらには日本の防衛や憲法9条についても考えさせられる。侵攻には憤りも懸念も共有している(それでロシア大使館に抗議にも行った)が、その一方で、自分にとっての思想形成の訓練にもなっている。
 いろんな議論を前に、自分ならどう考えるだろうと思索し、事態が進むにつれ、考えが少しづつ変わっていったりする。こうやって思考が「進化」していくのがうれしい。もっとも志はぶれていないつもりだが。

 ロシアが栄光の歴史とするソ連軍の戦いには、周辺国からは疑問の声が上がる。

 2万人超の虐殺で知られる「カチンの森事件」を経験したポーランドは、ソ連が進駐して社会主義政権を強いられたことを暗黒の歴史と評価している。

(戦後、右の全体主義=ナチズムは徹底的に追及されたが、左の全体主義スターリニズムの罪は見逃された)


 第二次大戦をファシズムに対する民主主義の勝利と位置づけ、ソ連を「民主勢力」側に置いたことから国連安保理常任理事国にロシアも入っているわけだが、そのためにソ連の蛮行、人権侵害が十分に非難されずにきたことも歴史の教訓である。

 対独戦勝記念日は西欧では、前日の8日に行われ、ウクライナも2015年から新たに8日を「追憶と和解の日」にしている。

 この日、ゼレンスキー大統領が新たなビデオメッセージを出した。

 空爆された廃墟を背景に登場したゼレンスキーが、「なぜ春なのに白黒なのか、ウクライナはその答えを知っている」と説き起こす効果的なオープニング。今回の映像は全編白黒なのだ。pic.twitter.com/UXwIXgUPPM

 ナチズムとの戦いを今の対ロシア戦争へとつなげ、勝利への確信で締めくくる15分もの長さの映像だ。演出以上に彼の惹きつける語りがすばらしい。

 危機の時代のリーダーとして後世に語り継がれるだろう。

 

 ここ数日のニュースで驚いたのは、兵役についている大学教授が前線から遠隔で講義をしている姿。

(ウズホロド国立大学のヒョードル・シャンドル教授が、スマホで学生に遠隔講義をおこなっている)

 ウクライナ国民のほとんどは、ロシアに屈伏することを拒否し、あくまで「勝利」を目指している。今求めるのは、停戦ではなく反撃だ。

ウクライナではネットで子どもたちが前線の兵士を励ますプラットフォームがあり、こうした絵などがアップされているという。さすがIT先進国。NHKニュース
日本の戦中の「兵隊さんへの手紙」と並べて批判しないでほしいが)

 ここまでの覚悟であれば、私たちがすべきことは、ウクライナの戦いを支援しつづけることしかない。

 とにかくはやく停戦を!と言う日本人が多いが、いまウクライナ人はいいかげな妥協を受け入れまい。停戦条件についてはウクライナ人に任せるしかない。

 キーウの地下鉄駅でU2のボノ&ジ・エッジが避難市民にサプライズのアコースティックライブとのニュースも。

www.youtube.com


ウクライナの人々は自分たち自身の自由のためにでなく、自由を愛する私たちすべてのために戦っているのだ。ありがとう」

 世界の人々の心をつかむという点では、ウクライナがすでに圧倒的に勝利している。