ホセ・ムヒカ氏に学ぶ

 ウルグアイホセ・ムヒカ元大統領が八十九歳で亡くなった。

ホセ・ムヒカ氏(wikipediaより)

 二〇一〇年から五年間の在任中、報酬の九割を貧困層に寄付し、官邸ではなく古い農家で質素な暮らしを続けた彼は、「世界一貧しい大統領」と呼ばれた。

「貧乏な人とは、物を持っていない人ではなく、物がいくらあっても満足しない人だ」との彼の名言は、いま超大国で大統領の地位に就く人物にそのまま当てはまるように思われる。

 二〇一二年の国連環境サミットで、ムヒカ氏は現代の大量消費社会を鋭く批判した。

「環境破壊が危機の原因ではありません。危機の原因は私たちが作り出した文明のモデルです。だから私たちの生活様式を見直さなければならないのです」

サンデーモーニング5月18日放送より


 環境問題を引き起こす原因は、人間の過剰な欲望によって築かれた文明のあり方にあるというのだ。

 ムヒカ大統領は最低賃金の引き上げや低所得層への支援を行い、格差の解消に尽力する一方で、再生可能エネルギーの普及に力を入れた。その結果ウルグアイは現在、南米で最も豊かな国の一つとなり、風力や水力、太陽光など再生可能エネルギーで電力需要の96%を賄う環境先進国にもなっている。

 興味深いのはムヒカ氏の思想形成過程だ。

 父親を早くに亡くし貧しい家庭で育った彼は、社会の不正義に憤り、左翼ゲリラ組織に身を投じた。富裕層の財産を貧困層に分け与えようと銀行を襲撃するなど激しい武装闘争を展開し、銃撃で被弾すること六回。ひん死の重傷を負ったこともあった。また四回逮捕され、十数年を獄中で過ごしている。拷問をうけ、水も与えられず、自分の尿を飲んで命をつないだという。

 ムヒカ氏は過酷な獄中生活の中で、社会の矛盾の原因について熟考し、私たち一人ひとりの心、価値観とそれが形作る文明の問題に行きついたのだった

 彼の思想と実践は、社会にとって指導者の資質がいかに重要かを示している。同時に、より良い世界を作るには「こころ」の変革が必要であることをあらためて認識させられる。


 ムヒカ氏は二〇一六年に日本を訪問した際、「日本は進歩を遂げた国ですが、それで本当に日本人は幸せなのですか」と問いかけた

 この問いに、私たちはどう答えられるだろうか。