今年観た映画ベスト10

 26日の「焚き火のある講演」―「気づきの宇宙史138億年」いかがでしたか。
 オンデマンド配信もありますのでご希望の方はどうぞ。

 私たちの体を構成する主な4元素(原子番号1の水素、6の炭素、7の窒素、8の酸素)とその他、カルシウム(原子番号20)などのミネラル、必須微量元素の27のコバルト、29の銅、30の亜鉛、34のセレン、42のモリブデン、53のヨウ素などが、どう作られてきたか。それをしっかり認識すると、自分たちが「星の子」だということを納得できる。私の命のつながりは、ビッグバンまでさかのぼるのだという話から講演を始めた。

 小学館の子ども用の図鑑『21世紀こども百科 宇宙館』の巻頭のことばを講演で紹介したが、これがすばらしい。

 [わたしたちは星のかけら〕

 あなたが、お母さんのからだの中の
 たった一つの細胞からできてきたように、
 この地球上の生物はみな、
 いまから40億年前に誕生した
 最初の、一つの細胞からはじまりました。
 そのいのちは、いちどもとぎれることなく
 親から子へとひきつがれて、いま、あなたがいます。
 あなたも、あなたの机の上のサボテンも、
 40億年前の同じいのちをひきついでいます。
 そして、あなたのからだも、机の上のサボテンも
 同じ材料で作られています。
 それらの材料は、どこで作られたのでしょう?
 星の中で作られたのです。
 星は、いろいろな物質を作りだしながらもえ、
 もえつきると大ばくはつをおこして
 星くずになります。
 その星くずから地球がうまれ、
 生命がうまれ、あなたがうまれました。
 わたしたちは、宇宙が150億年をかけて作りだした
 星のかけらです。

 この図鑑は娘たちに買ってやったのだが、全然読まれずにほっぽってあったので、私が読んでみたら、実にいい本だった。
 宇宙の歴史は、2003年にNASA(米宇宙航空局)が137億年(±2億年)と、さらに2013年にはESA欧州宇宙機関)が138億年と発表してこれが広く認められているが、この本の発行は2001年で、「150億年」となっている。ここ20年で宇宙史の年代推定が驚くほど精密になっていることがわかる。

 今月、宇宙関連の本をさらに数冊買いこんだ。読むのが楽しみだ。
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 きょうも歯の不具合で歯科医にいく。
 映画館「ポレポレ東中野」を通りかかったら、きょうはドキュメンタリー映画『君はなぜ総理大臣になれないのか』の最終日で、主人公の小川淳也衆院議員と監督の大島新さんが劇場挨拶するとのお知らせが貼ってあった。これ、いい映画だったな。
 年末なので、一年をふり返ろう。今年観た映画ベスト10。

 私にとってインパクトの大きかった映画は、まず今月あたまに観た
 『私たちの青春 台湾』(傅楡フー・ユー監督) 

ouryouthintw.com


 2014年の台湾の「ひまわり運動」の栄光と挫折をそのリーダーたちを主人公に追いかけた映画だ。イベントそのものの記録ではなく、活動家と同年代の若い女性監督が、自らの成長と重ね合わせて作った人物ドキュメンタリーになっている。
 「ひまわり運動」は香港の「雨傘運動」に影響を与えた、いわば先輩格の動きだ。主人公と監督が香港に行って、いまは収監中の黃之鋒さん、周庭さんたちと交流する場面もある。当時ティーンエイジャーの無邪気な可愛い二人が登場していた。
 主人公の陳為廷(チェン・ウェイティン)は歴史的な国会突入を指揮して学生運動の輝けるヒーローになり、その後国会議員に立候補するがスキャンダルが発覚して挫折、米国留学へと「転向」する。もう一人の主人公は中国からの留学生の女性で、「ひまわり運動」を経て大学の学生会の委員長選挙に出馬するも大陸の人間であることを非難されやはり挫折、文筆で身を立てるべく平凡な暮らしに戻る。
 ポーランドの「連帯」、天安門民主化運動、フィリピン2月革命、ミャンマー民主化などあらゆる社会改革運動はある意味の「挫折」を運命づけられると思うが、この映画は、運動の中にいる人々がどう人生に向き合うのかリアルタイムで追う。貴重な記録である。
 しかも監督は、2014年の国会突入の3年も前の2011年、 まだ駆け出しの活動家だった 主人公の二人の「将来性」(彼らなら社会を変えられるかもしれない!と)を見込んでカメラを回し始めている。そして最後は、挫折してだいぶ経った2017年に二人に「総括」を迫るようにインタビューしている。

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フー・ユー監督


 監督自身が自分を整理できずにおいおい泣きながら「今どう思っているの?」と二人に問いかける場面は、観る側が苦しくなるほどの切迫感。私自身も生き方を問われているような思いになった。

 それにしても、台湾はじめアジアの若者のパワーはすごい!

 

No.2『パラサイト 半地下の家族』(ボン・ジュノ監督)
 カンヌ映画祭パルムドール受賞、アカデミー賞作品賞受賞で今年最も注目された作品。
 やはり今年観たタクシードライバー(ワン・フン監督)とともに、韓国映画のレベルの高さを印象づけられた。
 社会問題を扱っていながらエンターテインメントとして引き込む力量はすごい。

 

No.3『娘は戦場で生まれた』(ワアド・アルカティーブ監督)
 シリア戦争のドキュメンタリーとして秀逸だった。いつ殺されるかわからない状況でよくこんな記録が残せたものだと驚く。ながく後世に残すべき作品。
 やはり今年観た劇映画の『シリアにて』(フィリップ・ヴァン・レウ監督)もすばらしかった。
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  それにしてもシリア情勢はあまりにも悲惨。軍事的にはアサド政権の勝利で終わりそうだが、それでは解決にならない。なんとかならないものか。
 

No.4『死霊魂』王兵(ワンビン)監督)
 王兵監督の作品が一挙日本で公開された。今年3月末にまとめて王兵作品を5本(『名前のない男』、『無言歌』、『三姉妹』、『収容病棟』、『鳳鳴』)観たあと、コロナで中断し、8月に『死霊魂』を観た。
 王兵監督の、小型の文革ともいえる「反右派闘争」を追求し続ける執念は鬼気迫るものがある。中国民主化への底流の一つになっていくだろう。

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No.5『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(アグニシュカ・ホランド)、
 ウクライナの大飢餓を取材、告発する記者の物語。これについてはブログで紹介したが、左の全体主義スターリニズムは、右の全体主義=ナチズムよりはるかに多く犠牲者を出したのに、追及、分析がまだ十分ではない。
 いまの北朝鮮や中国にどう対峙するかを考える上でも「闇」の解明は進めなくては。

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 また、アーカイブを使ったドキュメンタリー『粛清裁判』(セルゲイ・ロズニツァ監督)もまさに背筋が寒くなる全体主義の告発になっている。監督はスターリン体制下で800万の餓死者を出したとされるウクライナの出身。
 まったくの茶番の裁判で「死刑」の判決が下るや歓喜に沸く群衆が恐ろしい。しかし、それは我々なのだ。

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No.6『君はなぜ総理大臣になれないのか』(大島新監督)
 大島新さんが、立憲民主党衆議院議員小川淳也を17年追いかけたドキュメント
 こんなまっすぐな政治家が日本に存在することを知っただけでも観る価値があった。
 真面目に奮闘しながら報われない小川議員とその家族の姿に目がうるんだ。彼の姿から日本の政界の実態、国民のいわゆる「民度」もあらわになるという意味では、我々も反省を迫られる。

www.nazekimi.com

 大島さんは故・大島渚監督の息子さんで、私はかつて「情熱大陸」の編集を助けてもらったご縁がある。「ネツゲン」という映像制作会社の経営者として、たくさんのテレビ番組を作りながら、こんなテーマを地道に追っていたことに感心させられた。
 政治を扱ったドキュメンタリーとしては『はりぼて』(五百旗頭幸男、 砂沢智史監督)も素晴らしかった。
 富山のローカル局チューリップテレビの記者、キャスターが汚職政治家を追及する取材ドキュメンタリー。コメディタッチで何度も笑った。文句なしにおもしろい。観たあとのブログに「笑っているうちに、この国の底が抜けるほどの腐敗にぞっとさせられる」と書いているが、日本の政治、さらにはメディアにも絶望するかも。

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No.7『淪落の人』(オリヴァー・チャン(陳小娟)監督)
 人生っていいな、としみじみ思わせる静かな作品。去年3回取材に行った香港の風景、人々の気風が懐かしく思い出される。

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高齢の身障者とフィリピン人ケアワーカーが衝突を繰り返しながら互いを理解していく物語


 2014年の「雨傘革命」を支持したため、中国、香港の映画界から干された名優アンソニー・ウォン(黄秋生)が、32歳の若い女性監督の作品にノーギャラで主演した。

 この映画のプロデューサー、フルーツ・チャン(陳果)が、つい先日、今の香港映画についてのテレビニュースで紹介されていたが、日本人のインタビュアーに対して、政治や社会状況のコメントはできないのでご了承くださいと言っていた。
 国安法の施行後、香港の映画人たちも厳しい立場に置かれていることだろう。応援したい。

 

No.8『中大防衛戦』(カン・シンカイ監督)
 2019年11月12日に香港・中文大学に警察が突入したさいの一部始終を、地元映像作家カン・シンカイさんが記録した作品。
 今月の「東京ドキュメンタリー映画祭」で上映された。中文大学は私も取材しており、知っているだけに生々しい。警官隊と衝突しないよう学長、前学長ら大学幹部が必死に交渉にあたる姿などディテールがよく記録されており、香港の運動を理解する上で必須のドキュメンタリーだ。

 

No.9『赤線地帯』溝口健二監督)
 1956年の作品で、今年春の「若尾文子映画フェス」で観た。「京マチ子映画フェス」を見逃したが、『赤線地帯』に京マチ子が出演しているので観に行ったのだった。京マチ子若尾文子も美しい。当時と今とでは、俳優の気品が全然違うように感じるのだが、どうだろうか。

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京マチ子若尾文子(立っている2人)の競演


 売春防止法制定前後(同法公布は1956年5月24日)の社会情勢をリアルタイムに取り入れた現代劇で、内容的にもすばらしい。

 

No.10アパートの鍵貸します(ビリー・ワイルダ監督)
 出世のために、自分のアパートを何人もの上司の情事に提供する男の話。1960年の作品で私は今年初めてテレビで観た。とんとん拍子に出世して得意の絶頂にいた主人公のバクスターだったが、好意を寄せていた女性までもが上司の情事の相手であることを知ってショックを受け、そこで自分の生き方に疑問をもつ。
 コメディーだが、資本主義とは何かまで考えさせ、さすがに名作だなと感心した。

番外日日是好日(大森立嗣監督)
 2018年上映の映画をテレビで観た。ほっと癒される。人生って、静かな満足を感じながら淡々と生きていいんだな、と。黒木華樹木希林が好演。

 また来年も、おもしろい映画に出会えますように。