ホームレス支援の雑誌『ビッグイシュー』が「コロナ緊急3ヵ月通信販売」をやっているので申し込んだ。
この雑誌は、ホームレスの販売員が街頭で450円で販売し、うち230円を本人の取り分として自立を支援する。
ところがコロナ禍で、街頭販売が激減しピンチになっていた。そこで急遽、通信販売を呼びかけているのだ。よろしかったらご協力をお願いします。
https://www.bigissue.jp/2020/06/14325/
8月1日号が届いた。
表紙は『赤い闇』の主人公、ガレス・ジョーンズを演じた英国出身の俳優、ジェームズ・ノートンだ。『ビッグ・イシュー』はいつもタイムリーな特集を組む。
もう一つの特集は「三つの石がつくった地球」で、現在の地球ができるのに大きな役割を果たした「橄欖(かんらん)岩」「玄武岩」「花崗岩」を取りあげた。地球は「水の惑星」と言われるが、むしろ「石の惑星」だという観点から地球誕生と進化の歴史に迫るもの。ちょうど太陽系の進化を勉強している私にとって、こちらもいいタイミングの特集だ。
さて、第一特集のジェームズ・ノートンのインタビュー。
英国で生まれ育ったノートンも、ガレス・ジョーンズ記者については「実を言うと名前さえ聞いたことがなかった」と言う。
「だからこそ、この映画は自分にとって、そしてきっと多くの人にとっても重要だと思いました。彼についてはほとんど語られてこなかったのです。彼が伝えようとしたことは、ソビエト政府の策略や、それに協力したジャーナリストたちによって『虚偽』(フェイク)とされてしまったからでしょう」(ノートン)
ノートンは『赤い闇』の台本を初めて読んだときのことを、「恥ずかしながら、そこで起きていた飢饉、つまり『ホロドモール』についてはほとんど知りませんでした」と語る。
「ホロドモール」とはこの惨事をあらわすウクライナ語だ。
ソ連当局がひた隠しにした飢餓による犠牲者の数は今なお確定できていない。Wikipediaでは「400万人から1,450万人が死亡した。また、600万人以上の出生が抑制された」と記している。
映画のロケはウクライナで行われたそうだ。気温マイナス15度のなか、飢饉の時からほぼ手つかずの状態で残されていた村での撮影は「異様な雰囲気が漂うと同時に、胸が絞めつけられた」と言う。
「学校の授業でヨーロッパ史や第二次世界大戦を学んでいる時、『ホロコースト』については多くの時間が割かれました。でも、ホロドモールは国によって解釈が違うこともあって(注)、それを歴史的事実として認めさせるための闘いが今なお続いているんです。だから、ウクライナで会った人々はみな、映画を通してそれを伝えようとしている私たちに感謝してくれました」(ノートン)
注)「ホロドモールは国によって解釈が違う」とは―
ホロドモールが政策的・人為的な飢饉だという点は現代の歴史学者の間でほぼ一致しているが、これがウクライナ人という民族を標的にした大量虐殺であったかについては意見が分かれている。
2006年、ウクライナ議会は、「ウクライナ人に対するジェノサイド」であると認定したが、ロシア政府は「ジェノサイド」ではないとしている。
要はウクライナ民族を狙い撃ちしたのか、穀倉地帯を収奪した結果ウクライナ人が犠牲になったのかの解釈の違いだと私は認識している
ヒトラーの「ホロコースト」は糾弾されるのに、スターリンの「ホロドモール」は十分に語られぬままになっている。ここには大きな不均衡がある。
これまでの全体主義による犠牲者を俯瞰すると、右の全体主義(ナチズム)よりも左の全体主義(共産主義)の方が人数では優に10倍を超す。それなのに、共産主義による虐殺は、その重要性に相応した質と量で糾弾され、調査され、責任を問われてこなかった。なぜか。
最大の理由は、第二次大戦でナチズムは敗北し、ソ連は勝者となったからだ。結果、ナチズムについては、ユダヤ人虐殺など「人道の罪」の実態が暴かれ、責任者は断罪され、アウシュビッツはじめ収容所は保存・公開されて今なお世界から見学者が訪れる。
一方、ソ連は米英仏などとともにナチズムと戦った連合国=「正義」の陣営に属し、戦後、国連の常任理事国になった。のちに中華民国に替わって中国(中共)が常任理事国におさまり、社会主義諸国(共産圏)は世界の「勝ち組」、いわば主流になったのである。西側諸国は、共産圏の犯罪の真相究明を強く迫ることをためらった。
東欧諸国でのソ連のさまざまな犯罪は、極秘扱いにされ、比較的知られたケースでは「カチンの森虐殺事件」(大戦中にソ連軍がポーランド人2万人以上を集団銃殺した事件、ソ連はナチスドイツがやったと発表した)をソ連が認めたのは、ペレストロイカのあと1990年になってからだった。(ただ、ロシア政府は「あれはスターリンがやったこと」として済ませ、謝罪していない)
共産主義権力による虐殺―ソ連、中国、北朝鮮、カンボジアなどなど―には共通のメカニズムがある。そしてそれはコミンテルン共産党のなかで受け継がれてきたと私は思う。
ソ連の「ホロドモール」は中国の「大躍進」に、さらには北朝鮮の大飢餓へとつながっている。
映画『赤い闇』の上映を機に、左の全体主義による悲劇に光が当たってほしい。
共産主義は大量殺戮を引き起こす「構造」を内包しているのか、というのが私の問題意識である。
(つづく)