朝鮮人虐殺否定論の横行を危惧する2

 台風10号は九州地方に最接近し、一時は700万人以上を対象に避難指示や避難勧告が出された。記録的な暴風や大雨による被害を各地にもたらし、朝鮮半島に上陸した。ニュースによると、九州で少なくとも1人が死亡、4人が行方不明、十数人が負傷したという。被害に遭われた方にお見舞いもうしあげます。
 今後も強力な台風が来そうで警戒が必要だ。
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 きょうはNHKを辞めた知り合いのディレクターと会って、これからどんなことをしたいのか、抱負を語り合い、そのあと渋谷で映画『はりぼて』を観た。圧倒的なおもしろさ!感動した。これだけの政治ドキュメンタリーは最近観たことがない。

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 保守王国、富山で、2016年8月、小さなローカル局チューリップテレビ」が、富山市議会の「ドン」が政務活動費について事実と異なる報告をしていたことをスクープ。そこから次々に議員の不正が発覚し、半年でなんと14人の議員が辞職するというとんでもない事態に。議長までが辞職、さらに次の議長、その次の議長も不正が判明して辞職。ここまでくると、もう喜劇、私も声をあげて笑ってしまった。この映画がしゃれているのは、あえてコメディタッチの作品に仕上げていることだ。笑っているうちに、この国の底が抜けるほどの腐敗にぞっとさせられる。

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 市議会は「反省」して、政務活動費について「全国一厳しい」といわれる条例を制定した。ところが、3年半が経過した2020年、また不正が発覚。だが議員たちは辞職せず居座るようになった。
 そして、最後が圧巻。スクープ取材の先頭に立っていた報道部のキャスターと記者(この二人が映画の監督だが)に大きな「挫折」がやってくる。局の上層部に圧力があったのか、二人ともそのテレビ局では取材を続けられなくなってしまうのだ。

 議員、メディア、市民、はたして悪いのは誰なのか。その余韻がいい。
 それにしても、この映画は「チューリップテレビ」の了解のもとで制作しているはずだが、よくまあ、テレビ局の「闇」まで描いたものだ。すばらしい。監督たちに会ってみたい。
 とにかくこの映画は文句なしにお勧めです。ぜひご覧ください。
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 きのうの続きで、関東大震災時の朝鮮人虐殺否定論が横行している話。

 大きな影響を与えている工藤美代子『関東大震災 朝鮮人虐殺の真実』をあらためて読んでみる。
 「実際に放火や殺人、強姦事件が震災発生直後に起こったのである。自己防衛の正当性が認められなければならない」(P90)。

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 朝鮮人による放火・殺人・強姦は実際にあったのだから、朝鮮人を殺したのは正当防衛だという、きわめて乱暴な論を展開している。

 その「根拠」らしいものは、震災直後の、事実とかけはなれた流言をそのまま書いた新聞記事だ。

    一例を挙げてみよう。まず、『河北新報』1923年9月6日付の記事が引用される。
 東京の越中島が火災になった。「爆弾」が所々で炸裂して火の海が勢いよく拡大し、避難していた三千人が「一人残らず焼死」した。「仕事師仲間とか在郷軍人団とか青年団とか」が「爆弾を携帯せる鮮人を引捕へた」。この「鮮人」は、「今年の或時期に」「全市いたるところで爆弾を投下し炸裂せしめ全部全滅鏖殺(おうさつ;皆殺しの意)を謀ら」んでいたなどと白状した。そこでー
 「風向きと反対の方面に火の手が上ったり意外の所から燃え出したりパチパチ異様の音がしたりしたのは正に彼等鮮人が爆弾を投下したためであった事が判然したので恨みは骨髄に徹し評議忽(たちま)ち一決してこの鮮人の首は直に一刀の下に刎(は)ね飛ばされた」。

 工藤氏はこの記事を全面的に事実と認めて、こう書く。

 《もちろん、現代の法秩序からいえばいくら爆弾投下を自供したからといって、その場で民間人の手で首をはねるという行為は許されない。

 だが、大災害のさ中に計画的なテロ行為をもって大量殺人が行われれば、市民の怒りはもっともなことといえよう。そして、このような例はほかにも少なからずあったと考えられる。これがいわれるところの「虐殺」のカウントに加えられているのだが、避難していて殺された犠牲者の立場を考えれば当然の処置だといえよう。》(P125~126)

 勝手に捕まえて首をはねることが「当然の処置」だとあっけらかんと断じている。ぞっとして、正気ですかと聞きたくなる。

 さすがに政府も事態を収拾しなければと、9月1日の震災から5日後の9月6日に内閣告諭が出て、朝鮮人に暴力を振るわないよう指示、新聞社にも注意を与え、7日には緊急の治安維持令で罰則を設けて流言を取り締まり、事実無根の新聞記事は消えていく。

 つまり、震災直後の新聞は流言をそのまま載せた悪質な誤報だらけだったわけで、そんな記事をいくら列挙しても、朝鮮人のテロ行為があったことの「根拠」にはならない。

 これは当時の出来事の流れを少しでも追えばすぐに分かることで、手練れのノンフィクション作家である工藤氏が知らないはずがない。ノンフィクションの取材のイロハもわきまえない作品をなぜ書いたのか。嘘だと分かって書いたとしか考えられない。

 虐殺否定論をしらみつぶしに検討してきた加藤直樹は、この本を読んで、文章が非常に稚拙で「工藤さんじゃなくて別の人が書いているのじゃないか」と思っていたという。そして―
 「2014年の9月に関東大震災 朝鮮人虐殺はなかった』(ワック)というタイトルの本が出たんです。著者は加藤康男さんです。ところが中味を見てみると、工藤美代子『関東大震災 朝鮮人虐殺の真実』とほぼ同じなんです。これはどういうことだろうと、後書きを見るとこうありました。
 『これまでの著者名は、筆者の妻・工藤美代子としてきたが、取材・執筆を共同で行ってきた関係から、WAC文庫化に際して大幅に加筆修正し著者名を加藤としたことをお断りしておきたい
 要するに同じ本なんですね。そして彼らは夫婦だったのです。それでようやく合点がいきました。」(「関東大震災朝鮮人虐殺否定論はトリックである」―KJブックレット『日韓現代史の照点を読む』P16)

 つまり文章が稚拙だったのは加藤康男氏が書いたからで、それを工藤美代子のブランドで出版したというわけだ。

 朝鮮人暴動が実際にあったなどということは、少しでも良識のある人なら決して言わなかったのが、この本の出版から虐殺否定論が堂々と流されるようになった。きわめて有害な本である。

 彼ら虐殺否定論者の目的は、否定論が正しいと認められなくても、「両論ある」という状況に持ち込むことだろう。そうすれば、たとえば小池知事に「虐殺があったというのは一方の立場にすぎない」から追悼文を出すのはやめよと言えるわけだ。
 だから、虐殺否定論を、そういう見方もありますね、と看過してはならないのである。
(つづく)