鬼海弘雄『PERSONA最終章』出版によせて

 きのうは東京も肌寒かったが、雪が降った地域も多かったという。山形県米沢市では8センチの積雪だったとか。週末には暖かくなりそうで、どこかで花見をしたい。

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近所のゴミ捨て場の桜の老木。まだ枯れちゃいないぞとでもいいたげにきれいな花を咲かせている。

クラクフの旅より
 ポーランドクラクフ旧市街は1978年に世界文化遺産に登録された。古い懐かしい通りの散歩を大いに楽しんだ。
 

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中央市場広場。欧州でも最大級だそうで、真ん中に織物会館があり、かつての交易による興隆を示す。広場の一画にある聖マリア教会のてっぺんから撮影

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聖マリア教会は13 世紀に建てられたゴシック様式

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ゴージャス!祭壇、パイプオルガン、設備の一つ一つが博物館の展示のようだ

 先日、写真家の鬼海弘雄さんから「クラクフ、懐かしい」と連絡をいただいた。クラクフアンジェイ・ワイダ監督の故郷で、鬼海さんの写真展を1999年、2002年と開き、そのさい鬼海さんが招かれてクラクフに滞在したという。鬼海さんもこの街の落ち着いたたたずまいがとても気にいったそうだ。
 鬼海さんは同郷の尊敬する写真家だ。先日、書店に新しい写真集『PERSONA最終章』が並んでいた。2004年に土門拳賞を受賞した代表作『PERSONA』(ペルソナ)の後、撮り続けた肖像写真をまとめた続編だ。春には出ると鬼海さんに聞いて、楽しみにしていたが、ついに発売になった。

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 写真集の解説を小説家の堀江敏幸さんが書いている。
 「写真家・鬼海弘雄は1973年から45年間、浅草・浅草寺境内で市井の人のポートレイトを撮り続けている。
 そこに映る人の佇まいに魅了され、一度見ると忘れられず、何度でも繰り返し見てしまう。
 映画監督アンジェイ・ワイダも、鬼海のポートレイトに魅せられてしまった。
 彼の招きによってポーランドで展覧会が開かれ、「王たちの肖像」と呼ばれていた一連のシリーズは、こう呼ばれた。
 「PERSONA」
 鬼海弘雄と彼の浅草ポートレイトの代名詞となり、世界各地で続々と鬼海の「PERSONA」展が開催され、2003年に刊行された同名の写真集は入手困難な伝説と化した。
 伝説から15年──
 前作以降に撮影された作品を編み、ここに完結編と言うにふさわしい最新写真集を刊行。
 朱色に塗られた壁のまえでレンズと対峙している者たちをとりまく緊迫した空気には、怯えも、悲しみも、傲岸さも、やさしさも、すべて剥がれ落ちることなく表現されている。」
──堀江敏幸(本書・解説より)

 

 そうか、「ペルソナ」というタイトルはクラクフから始まったのか。あの街に一層のご縁を感じる。
 先月、『日本カメラ』3月号にその新しい写真集から何枚か紹介されていて、その一枚が以下。

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 キャプションが「猫(16歳)に英語で話しかける税理士 2013」。

 この短いキャプションが深い。これを読んで写真を観ると、すっとこの人の内面に入っていけるような気がする。友だちになりたくなる。
 『日本カメラ』に鬼海さんがこう書いている。
 《わたしは単純に「ひとが他人(ひと)にもっと思いを寄せ、ひとをより好きになればいいのだと・・」と思っている。そんなささやかな願いとともに、カメラを持ちつづけている。》
 ひとをやさしくする鬼海さんのカメラ。今の時代に求められる写真だと思う。機会があれば書店で写真集をご覧ください。