トランプ大統領について、「暴挙」「暴走」という表現を何度使ったか。
暴走が日常に、狂気が常識になってしまうと、次第に自分の感覚の中でも、とんでもない悲劇が当たり前になりそうで怖くなる。自分自身が壊れていくような予感。
2月28日、アメリカとイスラエルはイランへの大規模な軍事攻撃を開始した。
空爆・ミサイル攻撃でアリ・ハメネイ師を含むイランの最高指導部と多くの高官、ハメネイ師の娘、義理の息子、孫などを死亡させ、国家中枢そのものが標的となった。攻撃は首都テヘランだけでなく全土に及び、革命防衛隊関連基地、空軍・防空施設、ミサイル発射拠点、指揮通信センター、政府庁舎、エネルギー関連施設が破壊された。
国連安保理の承認もなく、差し迫った武力攻撃の立証もないまま行われたこの作戦は、国連憲章2条4項が禁じる武力行使に該当すると同時に、国際人道法・人権法の観点からも違法な要人暗殺とみなされる。「限定攻撃」ではなく主権国家の体制破壊を伴う戦争行為である。
トランプがイラン民衆に政権転覆を呼びかけているのは、戦争行為の理由がイランとの核合意での不満ではなく、体制転覆であることを示す。ロシアのウクライナ侵攻と同じである。

イラン国内には専制体制への強い不満もあり、喜びに沸く群衆の映像も入っている。だが、その政府が良いか悪いかによらず、武力の行使は以下の二つの場合しか認められない。
1)自衛権の行使(国連憲章51条)
これには「将来の脅威」や「抑止目的」は該当しない。「将来危ないことをするかもしれないから今のうちに叩いておけ」という理屈は成り立たない。
2)国連安保理の承認がある場合(国連憲章7章)
安保理が「国際平和と安全への脅威」と認定した場合である。
これ以外は武力行使はNGという最低限のルールを、米国とイスラエルはいとも簡単に踏みにじった。

・・・・
アメリカでSend Barron(バロンを送れ)がオンライン上でトレンド入りしたという。
トランプの末息子バロン・トランプを前線に送れという皮肉だ。「勇敢に戦え!」と叫ぶドナルド・トランプ自身は、ベトナム戦争期、根拠不明の足の身体的ハンデなどを理由に5回の徴兵猶予(deferment)を受け兵士になったことはない。徴兵逃れの大統領。じゃあ、自分の息子に銃を持たせて戦場に送ったら・・というのは庶民の素朴な思いだろう。

日本はもともと「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(憲法前文)のだから、国際法を守ろうと最先頭で旗を振らなければならないはずである。それなのに、現政権は上目遣いにアメリカを見て、事実上この蛮行を承認している。
国会で以下のやり取り
日本共産党田村委員長「武力行使が例外的に認められるのは、国連安保理決議がある場合と自衛権を行使する場合であって、今回のイラン攻撃はそのいずれにも該当しないですよ」
高市首相「これが自衛のための措置なのかどうかも含めてですね、詳細な情報を持ち合わせているわけではございません。わが国としてその法的評価をすることは、差し控えさせていただきます」
学術的な話をしているわけではないのだが。そして言及したのは、石油の備蓄と、法人保護のみ。これがわが国の首相かと思うと情けない。訪米してまたトランプのそばで「ヤッター!すごーい!」と腕を突き上げながらぴょんぴょん飛び跳ねるのだろうか。
・・・・
実はこのイラン攻撃、アメリカ主導ではなく、イスラエルに引きずり込まれたというのが真相のようだ。ルビオ国務長官がこう説明している。
「大統領はきわめて賢明な判断を下しました。我々はイスラエルによる行動が起きることを承知しており、それが米軍に対する攻撃を誘発することも分かっていました。そして、相手がそうした攻撃を仕掛ける前に先制的に対処しなければ、より多くの犠牲者を出すことになると認識していたのです。」
"The president made the very wise decision—we knew that there was going to be an Israeli action, we knew that that would precipitate an attack against American forces, and we knew that if we didn’t preemptively go after them before they launched those attacks, we would suffer higher casualties."

つまり、米国はイスラエルがイランを攻撃することが分かっていた。するとイランはきっと米軍基地や米国の施設を攻撃するだろうから、その前に叩いておこうと思った、というのである。
イスラエルは事前に米国にイラン攻撃を認めさせ、その上で米国が一蓮托生でともに武力行使をせざるを得ないように仕向けたわけだ。アメリカがイスラエルの巨大な操り人形になっている図を想像するとぞぞっと寒気を覚える。
・・・・
トランプに逆らうとまたどんなイジメを受けるか分からないから、欧州諸国もこの蛮行に表だって抗議しない。世界はここまで来たか‥という感慨があるが、それでも英国のスターマー首相は、「違法な行動に兵士を派遣するつもりはない」と議会で述べた。米国の最も親密な同盟国、英国でさえ「違法」との認識で、これ以上お付き合いできないというのである。

・・・・・
小泉悠氏は—
「何よりアメリカが「難癖をつけて外国に攻めて行く」ということを(また)やり始めた中で、そのアメリカに拡大抑止を我が国が依存しているという状況は日本の安全保障に根本的なジレンマを突きつける。そういうことを日本がしないだけでなく他国にさせない世界の中でしか日本は安全と反映と独立を維持できないからこそロシアの侵略を非難し、ウクライナを支援し、対露制裁をやってきたのであって、ここでアメリカの振る舞いをあっさり受け入れるならそれはダブルスタンダードの誹りは免れえまい」

そして緊密な日米同盟が必要だと言っていたはずの小泉悠氏が、アメリカと手を切れと示唆するかのようなこんなツイートも。
「今すぐというわけにはいかないが、21世紀の半ばくらいまでを目処にアメリカとの同盟を手仕舞いにしていかねばならんのだろうなぁ、ということをペルシャ湾の戦火を眺めながら考える」(3月1日)
複雑な思いを抱きながらも、深く頷かざるをえない。