国谷裕子氏のフェアネス

takase222016-04-26

26日の朝日川柳欄にこんなのが;

少子化の国を見捨てぬトキのペア (千葉県 安延春彦)

新潟県佐渡市で、ともに自然のなかで生まれ育ったトキのペアからひなが生まれた。環境省が22日、発表した。2008年にトキの放鳥が始まって以来、「純野生」の両親からのひなの誕生は初めて。自然界で最後にひなが生まれたのは1976年で、40年ぶり。トキは人の手を離れ独り立ちしてゆく段階に進んだことになる。》朝日新聞

 03年に国産最後のトキが死んだあと、DNAの同じ中国のトキを人工繁殖し、放鳥する取り組みが進められてきた。
 放鳥されたトキから、自然のなかでひなが初めてかえりそうだと聞き、2011年、佐渡トキ保護センターの獣医、金子良則さんを「情熱大陸」で取材した。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110515
 この年は、数組がペアになって抱卵したのだが卵は孵らなかった。かえったのは翌12年で、それからは毎年どんどんヒナが誕生してきた。これまでは放鳥トキ同士あるいは放鳥トキと自然界で生まれたトキのペアからの誕生で、「純野生」同士のペアからのヒナ誕生は今回が初めて。自然界での誕生は今回のひなも含め83羽になったという。
 さっそく金子さんにお祝いのメールを出した。ここまで来るのに、信じられないほどの苦労があったのを番組制作のなかで知ったからだ。
 トキが特別扱いされないくらいふつうに生息できる佐渡になってほしい。
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 きょうの川柳欄には、きのう書いたNHK会長を詠んだものも。
 会長が大本営の露払い  (茨城県 岩井廣安)26日朝日川柳より

 あの言動にはさすがに不安に感じる人が多いだろう。

 さて、きのうの続き。国谷裕子氏はテレビの怖さに自覚的であれと言う。
 《もともとテレビは、世の中の空気を読むため、知るための手っ取り早いメディアとして機能してきた。しかし、テレビは世の中の動向を知りたい視聴者の欲求を満足させ、その影響力の大きさゆえに、感情やものの見方を均一にしてしまいがちだ。そして一方でテレビの送り手側も多くの視聴者を獲得したいがために視聴者の動向に敏感にならざるを得ない。この視聴者側と送り手側との相互作用はとても強力である。感情の一体化を進めてしまうテレビ、そしてそれが進めば進むほど、こんどはその感情に寄り添おうとするテレビ。こうした流れが生まれやすいことを、メディアにかかわる人間は強く意識しなくてはならないと思う。》
 国谷氏は、アメリカ滞在中に毎日観ていたABC「ナイトライン」のキャスター、テッド・コペルが、誰に対しても均等な距離感でインタビューし、フェアな姿勢で貫かれていると感じさせたと語る。
 テレビが言葉よりも映像だといわれる状況のなか、インタビューという言葉の力で真実を浮かび上がらせようとしていたコペルに共感し、《私はインタビューの持つ言葉の力を学んだ》と国谷氏は言う。
 《キャスターは最初に抱いた疑問を最後まで持ち続け、視聴者の思いを掬い取り、納得がいくように伝えるということが大事だ。そのため重要なことは納得を求めて繰り返し、質問の形を変えてまでもしつこく聞く。ときにインタビュー相手にも、まだそのことを聞くのかと、あきれられたり、ときには露骨に嫌な顔をされることもある》
 この箇所は当然、菅官房長官へのインタビューを思い出させる。国谷氏降板は、この事件が原因だと巷間噂になっている。
 《聞くべきことはきちんと角度を変えて繰り返し聞く、とりわけ批判的な側面からインタビューをし、そのことによって事実を浮かび上がらせる、それがフェアなインタビューではないだろうか》
 私はこのフェアネスの考え方に同感する。キャスターの政治信条がリベラルかどうかが問題ではない。まっとうに、フェアに報じるかどうかだ。だから、国谷氏のような「正統派」がいなくなったのが非常に惜しまれるし、危機感を抱かせるのだ。
 《社会が複雑化し、何が起きているのか見えにくくなるなか、人々の情報へのリテラシーを高めるためにも、権力を持ち、多くの人々の生活に影響を及ぼすような決断をする人物を多角的にチェックする必要性はむしろ高まっている》
国谷氏のフェアネスは我々に多くの示唆を与える。