中田考さんの重大証言―報道特集のスクープ

takase222015-02-10

この間の人質事件関連の報道でとくに注目したいのは、先週土曜に放送されたTBS報道特集の「徹底検証 『イスラム国』人質事件」だ。
日本政府が具体的な情報を全く明かさないなか、番組では、政府の対応に「三つの過ち」があったとして、いくつもの重要な事実を指摘している。
なかでも、イスラム法学者中田考さんの新証言は驚くべきものだった。

以下は、IWJの番組の文字おこしから引用する。
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/231284

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中田氏は、イスラム国の「ウマル・グラバー司令官」と連絡を取り合っていた。ウマル司令官からは、2014年8月、湯川遥菜氏が「イスラム国」に拘束された際にも、「湯川氏の裁判を開くので、通訳として来てほしい」との依頼が中田氏にあった。

 9月初旬、中田氏は実際に、ジャーナリストの常岡氏とともに、「イスラム国」の支配地域に踏み込み、ウマル司令官と合流。裁判を通じて湯川氏を日本に連れ戻そうとしたが、シリアによる「イスラム国」への空爆が激化し、裁判は流れてしまった。

 1ヶ月後の10月。常岡氏が「イスラム国」に出直そうとした矢先に、中田氏と常岡氏は、「イスラム国」に渡ろうとした大学生の手助けをしたとして、『私戦予備陰謀罪』の被疑者として家宅捜索を受けた。以降、ふたりは「イスラム国」側との連絡をシャットアウトしていた。警察によって、湯川氏を奪還する回路が絶たれたまま、事態は最悪のほうに向かってしまっていたのだった。

 邦人の人質ビデオ公開後、再び中田氏は、スマホトークアプリを使い、ウマル司令官とメッセージのやりとりをした。ウマル司令官は「時間はあまり残されていない。先生、イスラム国は約束したこと(72時間以内に身代金を支払わなければ人質を殺害すること)を執行するでしょう」と話していたという。

◯ウマル司令官メッセージ
「身代金の支払期限はもうすぐです。我々に重要なのはイスラム国の条件を満たすこと。もし日本政府にとって捕虜が大切なら、急ぐことです」
中田考氏メッセージ「私個人としては日本政府に時間的猶予を与え、2人を開放して欲しいです」

◯ウマル司令官メッセージ
「先生、事態を理解してください。身代金支払い期限はもうすぐです。」
(略)
 「『ともかく時間がない』と繰り返し言われました。『お金を払う気があるかどうか』と。先方の要求はそれ(お金)ですので、それに対して日本政府からの答えがないことに、苛立っている印象を受けました」

 そして中田氏は、ウマル氏から重要な依頼を受けたことを明かす。

 「ウマル氏から、『これを翻訳をしてくれ』と、【日本語の音声メッセージ】が届きました」

 イスラム国から、【日本語の音声メッセージ】が届いた。その中身は――。

音声メッセージ
「私(――音声消去――)は、日本政府の代表である。日本政府は、日本人2名の無事な生還について真剣である。当該2名のフルネームと生年月日はそれぞれ、湯川遥菜1972年(――音声消去――)、後藤健二(――音声消去――)である」
25秒のメッセージ。最初の「音声消去」部分には、実在するシリア臨時代理大使の名前が入っていたという。イスラム国側が受け取っていた、この謎の音声について、ウマル氏が中田氏に、「本当に日本政府の出したものなのか、確認したい」と伝えてきたというのだ。

 中田氏は続ける。

 「私は『私にはわかりません』と答えました。ウマル氏は『この音声メッセージを信用していない』と言っていました。私は、これを緊急事態だと思いましたので、夜中の3時、4時くらいに、外務省の『邦人テロ対策室』に連絡し、それが本物かどうかを問い合わせました。(外務省の答えは)『これについては本物だと思ってもらっていい』というような表現だったと思います」

なぜ「シリア臨時代理大使」が日本代表なのか

 日本政府が、公式のメッセージであることを認めた。しかし、なぜ日本の代表者を名乗る者が、「シリア臨時代理大使」という地位の人間なのだ。

 「シリア臨時代理大使」は、現在、シリアの日本大使館が閉鎖されているため、ヨルダンの日本大使館の参事官が兼務しているという。もっとメッセージを発するうえで、適切な人間がいなかったのだろうか。

 「真剣だと言っても、日本政府の代表を名乗る人間がそのレベルの人間というのは…。もちろん、首相でなくとも、外務大臣副大臣、名前の確認できる人でなければ、真剣だと言っても先方には伝わらないように思う

 ウマル氏のメッセージ内容は、すべて外務省に報告したが、結局、外務省から中田氏への連絡は一度もなかったという。ただし、ある民間の人物から、日本政府のメッセージをイスラム国側に送れないかという相談が1度だけあったと中田氏は番組内で明かす。

 「間接的に、日本政府のメッセージとして、『我々が2億ドル支援を発表したのは人道支援である』というだけのメッセージ、『あなたがたは誤解している』というメッセージだけを、それも間接的に、しかも『案』という形で『こういうプランがあると』と送ってきました。これを送ると、『人質を解放してもらう意思がない』と取られて、『人質を殺してください』と捉えられると思ったので…私自身、そう捉えたので、このメッセージは先方には伝えませんでした」

 なぜ、中田氏はこのメッセージを「人質を解放してもらう意思がない」「人質を殺してください」と捉えたのか。

中田考「ウマル氏は、『お金を払うのかどうか』を聞いている。そして時間がない、と言っている。よって、このメッセージを出すと、『ノー』というメッセージを出したと受け取られかねないので、私は先方には伝えませんでした」

 そしてまもなく、1月24日、湯川氏が殺害されたとする映像が配信された。

 湯川氏の殺害映像公開後、ウマル氏は、中田氏にこう伝えてきたという。

 「先生、理解してください。我々としてはできる限りのことをやったんだけれども、上の命令なので、私にはこれ以上のことができなかった。非常に残念です」

 以降、ウマル司令官からのメッセージは途絶え、現在はトークアプリのアカウントも消えているという。

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きょう、常岡さんと会ったので聞いてみたが、彼も中田さんが連絡を再開したのを知らず、驚いていた。
中田さんの証言からは、政府の対応のお粗末さだけが浮かび上がってきて、暗澹たる思いにさせられる。ぜひとも、厳しい検証が必要だ。

この事件での政府対応を検証する「邦人殺害テロ事件対応委員会」の初会合が、きょう首相官邸で開かれた。ところが・・・
《3月末までに危機管理や邦人保護の強化策を盛り込んだ報告書をまとめる。ただ、検証対象に政治家は含まず、結果の公表も限定的になる見通しで、どこまで実効性ある内容となるかが問われそうだ。

 菅義偉官房長官は10日の記者会見で検証対象について「政治家は考えていない」と明言した。安倍晋三首相をはじめ、菅氏や岸田文雄外相、ヨルダンの現地対策本部で指揮をとった中山泰秀副外相らは除き、首相官邸や関係省庁などの事務方職員のみを対象とする意向だ。

 菅氏はまた、「インテリジェンス(秘密情報)にかかわる部分を除いて公表したい」と説明した。他国から得た情報は公にできないことが多く、特定秘密が含まれる可能性もあることから、検証結果の公表も限定的となりそうだ。政府関係者は「国同士で表に出さないことを条件にやりとりした情報ばかりだ」と話し、多くが公表できないとの見方を示す。

 検証委は、事件対応に当たった杉田和博官房副長官を委員長とし、西村泰彦内閣危機管理監や外務省、警察庁など関係省庁の幹部がメンバー。政府の初動対応や情報収集体制のほか、首相の中東歴訪時のスピーチも検証対象に加える。》(毎日新聞)

出てきました「特定秘密」。
政府の幹部が検証にあたり、検証対象に政治家を含まず、「特定秘密」に触ることは出さないというのでは、お話にならない。
隠し通し、逃げ切るつもりのようだ。
(つづく)