「殺人犯はそこにいる」の衝撃

takase222015-01-07

元旦に読んだ本の衝撃が、まだ余韻となって残っている。
すさまじい迫力の、とても恐ろしい本だった。そのせいで、私のなかにぶすぶすと発酵するものがあり、誰か人に会うたび、この本について「うわーっ」と語りたくなる。
ぜひたくさんの人に読んでほしいと思い、きょうはこの本を紹介する。

清水潔『殺人犯はそこにいる〜隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮社)
著者の清水潔さんは、16年前の「桶川ストーカー殺人事件」の取材で知られる「伝説の」ジャーナリストだ。
埼玉県JR桶川駅前で猪野詩織(いのしおり)さんが殺害された事件の真相を警察は隠蔽し、事実を歪めようとした。当時『FOCUS』記者だった清水さんは、警察と闘い、警察より先に犯人にたどりつくという大スクープを放つ。暴かれた警察の腐敗は国会でも追及され、埼玉県警の大量処分に結果したことを覚えている人もいるだろう。
清水さんは、現在は日本テレビ報道局記者・解説委員で、北関東連続幼女誘拐殺人事件を6年にわたって取材し、巨大な闇の存在をあぶりだした。その取材記がこの『殺人犯はそこにいる』である。

出版されたのは2013年12月だから、もうまる1年たっている。
清水さんのこの取材は、いくつもの賞を受賞していて、早く読まなければと思いつつ、「つんどく」で今ごろ手に取ったというわけだ。
内容は;
《栃木県足利市群馬県太田市という隣接する2市で、4歳から8歳の5人の少女が誘拐または殺害されているという重大事件。その中の一つが、あの「足利事件」である。一連の事件を同一犯による連続事件だと喝破した著者は、「足利事件」冤罪の可能性を報じて菅家さんを釈放へ導くとともに、徹底した取材によって、ついに「真犯人」を炙り出した―!》
(amazonより)
清水さんのこの取材によって、「足利事件」の菅家利和さんが無実と判明する。それだけでも「超」がつく大スクープなのだが、実は、これは取材の副産物なのだった。
清水さんは、5件が同一犯による連続事件だと睨み、「桶川ストーカー事件」と同じく、独自に「犯人」を割り出してしまった。とすれば、5件のうちの1件である「足利事件」の犯人が菅家さんであるはずがない、ということになる。
清水さんは文藝春秋の対談でこう語っている。
《『桶川』では、駅前で女子大生が刺されて亡くなった事件を取材していたはずが、いつのまにかストーカー男と実行犯を追っていた。今回の『殺人犯』も、最初は「横山ゆかりちゃん」という一人の幼女の誘拐事件だったんです。(略)
 それを調べていくうちに、付近で類似の幼女誘拐殺人事件が四件起きていることが分かった。横山ゆかりちゃんの事件を合わせて計五件。これがもし同一犯による連続事件だったら大変だよね、と。
 ならば、一連の四番目の事件で、唯一犯人が捕まっている「足利事件」は冤罪の可能性が高い。捜査に問題があるなら栃木県警とぶつかるのは仕方ない。面倒だけどやむを得ないと思ってやっていると、足利事件では再審請求が出ているから今度は裁判所だよね、と。これが却下されると、次は東京高検が相手になってしまう。(略)
 そうやって、相手が警察から検察になり、警察庁が出てきて、ついには科警研(科学警察研究所)や法務省まで。
 そんな恐ろしいものと闘う気はまったくなかったんですが、もう止められなくなってしまった。」(文藝春秋2014年4月号)

 取材を進めていった結果、権力との全面対決になっていった・・。
(つづく)