不運だったが不幸じゃない―冤罪被害者 桜井昌司さんの生き方

 10月5日は、拉致被害者横田めぐみさんの誕生日。

 母校の新潟市立寄居中学校で恩師や同級生が集って早期帰国を願い、めぐみさんに思いを寄せた。13歳の時に拉致されて46年だから生きていれば59歳になる。この日は佐渡に住む曽我ひとみさんも参加した。曽我さんと一緒に拉致された母親のミヨシさんについて北朝鮮は「入境していない」と答えたまま、真相はいぜん不明だ。

寄居中での集会で「ふるさと」を歌う曽我ひとみさん。(NHKニュースより)

 いま外務省は金正恩につながる有力な交渉ルートを持っていない。安倍、菅、岸田とどの政権も地道な交渉努力を怠ってきたツケがまわっている。一発逆転ホームランを狙うのではなく、ストックホルム合意のラインに立ち戻って、田中実さん、金田龍光さんの生存情報の確認から一歩一歩進めるべきではないか。

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 先日、冤罪被害者を描いた『獄友たちの日々』という番組を久しぶりに再放送で観た。8月23日に76歳で亡くなった桜井昌司(しょうじ)さんの追悼放送だった。

 「「布川事件」で再審無罪となった桜井昌司さんが今年8月に亡くなった。同じく無罪が確定した杉山卓男さん(故人)と「足利事件」の菅家利和さん。再審決定で釈放された「袴田事件」の袴田巖さん。仮釈放され再審を求めている「狭山事件」の石川一雄さん。獄中生活は5人合わせて155年になる。彼らは互いを「獄友」(ごくとも)と呼び支え合ってきた。失われた青春を取り戻すかのように生きる姿を描いた2017年の番組を再び。」(番組案内)

右から桜井昌司さん、「足利事件」の菅家利和さん、「狭山事件」の石川一雄さん、「袴田事件」の袴田巌さん、一人おいて左端が杉本卓男さん(番組より)

 1967年8月30日、茨城県利根町布川で強盗殺人事件が発生。桜井さんは窃盗容疑で別件逮捕され、知人の杉山卓男と共に強盗殺人罪で起訴された。犯人と決めつける警察の厳しい尋問に耐え切れず「自白」する。裁判では犯行を否定するが、78年無期懲役が確定する。

 だが、素手で犯行に及んだとする自白に反して、事件現場には2人の指紋がなかった。また、自白では手で首を絞めたことになっていたが、検死の結果、ひも状のもので首が絞められたことが分かり、はじめから冤罪の疑いが濃い事件だった。83年、獄中から第一次再審請求を行ったが92年に棄却された。

 96年11月、2人は仮釈放で出所。収監の期間は29年に及んだ。土木建築会社に勤務しながら、第二次再審請求に向けて活動し、最終的に強盗殺人罪の無罪判決を勝ち取ったのは2011年5月のことだった。

 桜井さんが杉山さんとともに強盗殺人犯とされたのは20歳のとき。本人いわく、高校を中退した後は遊び歩いては悪事をする「不良」だったそうで、当時は「何も考えてなかった」という。塀の中で桜井さんは、泣いても恨んでもシャバには出られない、ならば面白いことを見つけて精一杯生きようと腹をくくった。獄中から詩を投稿、これに作曲もしてCDを出している。

 この番組のディレクター、金聖雄(キムソンウン)さんは桜井さんのその後を追った『オレの記念日』という映画を製作した。この上映会で、桜井さんが独自の人生観を語り、自作の歌を独唱した。映画も素晴らしかったが、桜井さんの信じられないほど前向きな生き方、まっすぐな語り口に感動した。

上映会で売っていたセカンドアルバムのCD「私の人生」を購入。

 『獄友たちの‥』の番組の最後に、桜井さんが担当していたラジオ番組『人生って何だ!』で語った言葉が流れる。

 「20歳のときに冤罪に巻き込まれましてね、生きてるってなんだろう、人生って何だろうと考えまして、29年間塀の中で過ごしてきたんですけれども、いま私が思っていることは、何があっても人生っていいな、ということですね。普通の人から見ますと、冤罪事件に巻き込まれて29年も刑務所にいたら、不幸だとか悲しいとかつらいといか思うんでしょうが、私の場合、幸いにも善意の人に恵まれて、支えられて、幸せだったなあと思うことがたくさんあった。その体験が、私の人生を不運だったが不幸じゃないとそういう思いでいっぱいです。私はいつもふるさとって言うのは千葉刑務所だと思っていまして、1年ぐらいもう一回刑務所に入ってみようかななんて気になったりするんですよね(笑)。人生って失敗いろいろあったりするんで、でもそういうのあっていろんな楽しさがある。私、刑務所生活したおかげで知りましたね。みなさんも何かありましたら、きっとそれが良いことだと思って生きていってほしいと思います。」

 こんな人生観を持てる桜井さんに感服した。

桜井さんは1999年に結婚。「結婚もしたし、がんにもなって、いろいろ経験した方がいいじゃないですか」と病気も新たな体験と前向きに受け止めていた(番組より)

 一方、1966年に静岡県で一家4人を殺したとして死刑が確定した袴田さんは、裁判をやり直す再審が今月27日に始まる。30歳で逮捕された袴田さんは87歳。これは捜査機関が証拠を捏造した疑いがきわめて強い。

 桜井さんは、袴田さんを支える姉の秀子さんと20年間交流し励ましてきた。秀子さんは、「57年間闘っている。2~3年くらい、どうということはない」と気丈に語るが、弁護団事務局長の小川英世さんは―

 「姉弟は90歳と87歳。それなのに、メンツなのか組織のためか、検察はさらに時間を空費させようとしている。ひとの人生をなんだと思っているのか。憤りを覚えます」と言う。

 再審制度はじめ裁判制度の根本的な見直しも必要だ。
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 円安が止まらず1ドルが150円!2011年には75円の時代もあったのに。物価上昇で実質賃金は大幅に下がり続けている。これに岸田首相はばらまき政策と企業減税を打ち出した。

 8日の『サンデーモーニング』で寺島実郎は―

 「なぜ円安なのか。これは日米金利差、つまり欧米はインフレ対応で金利を上げて金融引き締めをやっていて、日本はいわゆる異次元金融緩和から出られないので、ドル高による円安だ、という説明だった。

 ところが、この一年で大きく局面が変わったと思う。日本に対する信認の低下がものすごい勢いで進んでいる。例えば、アジアの通貨の中で日本がもっとも弱い通貨だといわるようになっている。この1月から9月までの間に、シンガポールドルに対して25%落ちた。タイバーツ、インドネシアルピーに20%落ちている。フィリピン、マレーシアに対しても同じくらい。アジアの先頭走ってる産業先進国家だというつもりでいるけど、いつの間にか・・。なぜそうなっているか。日本の国債とか、通貨を発行している価値についてクエスチョン(だから)。どうしてか。ようするにアベノミクスの呪縛から出られないでいるから。

 去年、エネルギーと食料を50兆円海外から買ってる。少しも量を増やさなくても、円安の分だけで今年6兆円プラスになっている。6兆円と言えば、この国の防衛費ですよ。それぐらいのことが国民負担になっちゃってる。それが物価高なんです。そこで今議論しなければならないのは、日本は大丈夫なのかといわれてるわけです。財政の健全化もふくめ、金融政策の正常化、そういう方向について根底から日本の経済産業政策を考えなきゃならない、これをごまかしなく語らなきゃならない。」

 日本の行く末がますます心配になる。