北朝鮮の「変化」はまやかしだった

takase222013-12-14

これまで経験したことのないほどのせわしさの中にある。
時間的な拘束ではなく、自分が引き受けた課題の多さが尋常でない。
普段はプロデューサーで、予算管理、取材先との交渉、スタッフ編成、ポスプロ手配、トラブル処理などが主なのだが、いまは、私が一人でカメラをかついで撮影にいったりしている。
テレメンタリー伊藤律の作品)を納品してほっとしたが、いま大きな番組が三つ同時進行して、いつもの何倍かの業務が押し寄せてきたのだ。さらにテレビ局との契約交渉、そして最も大事で困難な資金繰り・・・
がんばらなくちゃ。
・・・・・・・
あれ、処刑したのか!
北朝鮮は12日、張成沢(チャンソンテク)・前国防委員会副委員長(67)が「国家転覆陰謀行為」をしたとして特別軍事裁判で死刑判決を下し、ただちに執行した。》
張成沢は突出した実力者として非常に多くの人々との関係を持っていたから、幹部連中は恐怖のなかで震えているはずだ。すさまじい粛清が行われるだろう。未確認だが、副首相二人が中国に保護を求めたという。
対外関係も張成沢の独り舞台で、朝鮮総連張成沢につながっているといわれる。アントニオ猪木も訪朝したさい彼と会談して北朝鮮とのパイプの太さを誇った。
張成沢粛清はありうると思ったが、処刑までしたのには驚いた。

これまで、マスコミでは、金正恩になって北朝鮮は変化したと印象づける報道が多かった。平壌には、遊園地やヘルスセンターがつくられ、高層アパートが次々に建設され、ミッキーマウスの着ぐるみが登場し・・・と紹介し、「いやあ、平壌の雰囲気はずいぶん明るくなりましたよ」と訪朝した記者がコメントする。
だから、この事態は驚きであり、失望だろう。
きょうの「報道特集」で、この一年で10回訪朝した日下部キャスターが、率直にこう認めていた。
「日本人遺骨問題の取材を通じて、私自身が感じた北朝鮮は変化しつつあるのではないかという淡い期待を打ち砕くものでした。」

この「変化」を張成沢に結び付けた論調もあった。
《事情通によれば張氏とは(略)開放経済を模索していた人物という。首都の平壌に限れば、北朝鮮は変わりつつあるらしい。車や携帯電話が増え、服装はカラフルになった。ゆえに若主人が大番頭の権力伸張を怖れたのでは、と見る向きもある》(朝日新聞天声人語」)

いや、そうではないと思う。
平壌のデコレーションは、金正恩自身の指示であり、実はそのために、穀倉地帯である黄海道(ファンへド)で深刻な飢餓が発生しているのだ。
軍隊のための徴発に加えて、首都の建設・美化のための強制徴発が加わり、もっとも食糧がとれるはずの地方が飢えている。

近年目立つ首都の華やかさは、地方における餓死の上に演出されていたのだ。
飢餓は、食糧の絶対量ではなく、民主主義の欠如によって起きている。まさに、「独裁」とは異なる「全体主義」を特徴づける飢餓である。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20130331

これを取材し発表したのは、ジャーナリストの石丸次郎さんだ。
いま、石丸さんを「情熱大陸」で放送すべく取材している。きのうと一昨日、私がカメラで追いかけたのは石丸さんだ。請うご期待。
ところで、穀倉地帯で飢餓が起きているというニュースは大スクープといってよい。石丸さんは他にも重要な問題提起をしているのだが、テレビでは大きく取り上げられない。
それはなぜか?
(つづく)