このところ、NHKが、被災地に長期に密着したNスペを流している。
先日は石巻市、きょうは双葉町。いまだに埼玉県加須市(かぞし)に役場と住民が避難している。故郷には望みはなく、仕事につけず、家族はばらけ、暮らしが壊れていく。さらに、被災者同士、被災者と町役場が、これからどうするかをめぐって対立していく。被災者の、必死に耐えている表情に、心から同情した。井戸川町長(写真)は、我々は国に捨てられた「棄民」だと、怒りに震えながら語っていた。井戸川町長は勉強熱心で、私のDVD『チェルノブイリの今 フクシマへの教訓』を数十部まとめて購入してくれた。ご自身でチェルノブイリ訪問を予定をしていたが、スケジュールがあわずに断念している。
1年半も経つのに政府は何をしているのだ。期待とは正反対の方向に暴走している。
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暴走の結果、いよいよ政局が煮詰まってきた。
民主党が割れそうだ。ばらばらになって出直すしかないかもしれない。
しかし、私には基本的なことが理解できない。
なぜ、野田総理が、党分裂も辞さないというまでに消費増税に入れあげているのか。
自民党でさえ、この不景気で増税を言い出せなかったのに。民主党は人気取り政策が得意だったはずなのに。国民多数が切望する緊急の課題をみなほっぽって、増税に猪突猛進する理由が分からないのである。このままでは党は分裂、選挙はボロ負け、政権を失うのは目に見えている。滅亡への道をひた走っている。あたかも、どこかに司令塔があって、野田総理に指示を出しているかに見える。
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東電もひどい。
事故後の内部情報を出さないまま、自分たちで事故の処理を正当化する報告書を作った。これは下手人に捜査報告書を書かせるようなもの。
今朝のある新聞の社説の書き出しはこうだった。
《こんな報告書しかまとめられない会社に原発の運転を任せていたのは間違いだった―。》
(信濃毎日新聞)
ほぼ同時に、27日の株主総会で退任する幹部8人が関連会社に天下りするとのニュース。
日本を壊した責任はあくまで取らないつもりだな。
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それはそれとして、つづき。
ボンヘッファーのようにヒトラーを殺そうとする宗教者の決断もありうるだろうと『大乗仏教の深層心理学』で岡野守也さんはいう。そして―
もちろん、そうした極限状況では、それがどんな心でなされるか、アーラヤ識、特にマナ識の働きによってなされるのか、それとも覚りの心によってなされるのか、そこが厳しく問われるし、悪人を殺して、後は悠々と去るといった、善玉・悪玉のはっきりした時代劇の正義の味方のようなわけにはいかない。「もし殺人という行為をしたならば、私は必ず地獄に落ちるが・・・彼に代わって苦しみを受けることを願う」というほどの深い覚悟が必要なのである。
しかしいずれにせよ、こういう個所を読む時に思うのは、大乗仏教の心髄は決して甘ったるい理想主義や人道主義ではないということだ。どんなに悪いことをしている人間がいても、「彼も凡夫、我も凡夫」などと、すべて許してしまうとか、どんな目に遭っても決して抵抗しないといったことではないのだ。そこが、安っぽく誤解された仏教と『摂大乗論』の仏教の決定的に違うところで、私はやはりこちらが本物だと思う。
ただし、これは、繰り返し言わなければならないが、きわめて危険である。安易に受け取ることは許されない。しかし、大乗の菩薩にとっての戒律というのが、常識的な真面目さや倫理性といったものをはるかに超えた、おそろしく深いものであることだけは、感じていただけるのではないだろうか。(P207)