きのう5日、南相馬市に行った。
連休ど真ん中だが、今は非常時、市役所はやっている。中に東電の相談コーナーがあって社員が二人、市民に応対していた。
災害対策室長の話を聞いたが、この市はいま4つの区域に分けられている。「計画的避難区域」(放射線量が高く5月末までに退避すべき区域)、「緊急時避難準備区域」(20〜30キロ圏内)、「警戒区域」(20キロ圏内)そして何の指定もない区域だ。こんなまちはここしかない。
しかも、ここは平成18年に旧鹿島町、旧原町市、旧小高町の1市2町が合併してできたのだが、旧小高町が「警戒区域」、旧原町市が「緊急時避難準備区域」と区域割りが旧市町にほぼ重なっている。
「合併してちょうど一体感が出てきたところだった」(対策室長)そうだが、住民感情への配慮が欠かせない。
この線引きは、金銭的な補償に直結するから住民にとっては切実である。
例えば、30キロ圏内の世帯は、東電からの補償金の前払い100円と日赤の義援金35万円、県からの義援金5万円、計140万円が支給される。同じ南相馬市でも旧鹿島町はほとんどが30キロ圏からはずれており、受け取れないということになる。
そこで、支給対象から外れた世帯には、日赤と県の義援金の計40万円と同額を、市が独自に出すことにしたという。
被災地はどこも同じように大変だと思いがちだが、どの自治体も、それぞれが独特な事情を抱えているのである。
さて、今朝の日経が「(新しい日本を創る)電力供給を分散型に変え低炭素に道を」という社説を掲げて、発電・送電の分離を提案している。
日経の社説が、低炭素化についてかなり踏み込んでいることについては、折に触れ書いてきた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20081229
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090105
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090909
今朝の社説もこのラインのものと思われるが、その背景について考えさせられる。
《原子力発電所の事故と東日本の電力危機は、日本の電力供給の弱点をあぶり出した。東西で電気の周波数が違うため電力の融通が利かず、福島第1、第2原発だけで東京電力の供給力の2割以上を賄っていた集中発電のリスクも表面化した。
電力不足は生産活動を滞らせ、経済全体の打撃も大きい。これを教訓に、災害に強く、平時も効率よくエネルギーを使えるような、しなやかな供給体制を築きたい。電力会社の地域独占の見直しを含め、エネルギー戦略を練り直すときだ。
列島貫く送電網を太く
震災では多くの発電所が被災し2700万キロワットの供給力が失われた。一方、北海道と本州を結ぶ送電線は60万キロワットの能力しかなく、西日本から周波数変換所を経て融通できたのも100万キロワット強にとどまった。
将来、駿河湾から四国沖を震源域にマグニチュード8級の東海・東南海・南海地震が起きれば、西日本が電力危機に見舞われかねない。
災害への対応力を高めるため、北海道、本州、四国、九州を結ぶ基幹送電網を太くし、電気を融通しやすくする体制づくりが急務だ。基幹送電網の増強は、太陽光や風力など再生可能エネルギーを普及させるためにも欠かせない。
北海道や東北には風力発電の適地が多く、温泉にも恵まれ地熱発電を増やす余地も大きい。一方、日照時間の長い西日本では、大規模な太陽光発電所(メガソーラー)の建設が有望な地点が多い。
これらを手掛ける発電会社を後押しし、電力供給を分散型に変えることが重要だ。発電会社が送電線を安く借り、遠くの大都市に電気を送りやすくすれば、発電ビジネスを活発にして新規参入の呼び水になる。
送電網の増強は電力会社が投資するのが原則だが、国が新たな公共事業として整備し、新規の発電会社に開放するのも一案だ。既存の電力会社からの送電事業の分離も含め、踏み込んで改革を議論すべきときだ。
発電所と企業、家庭を情報ネットワークで結び、電気を無駄なく使うスマートグリッド(賢い送電網)の普及も急ぎたい。エアコンや照明などの運転状況をネットで監視し、電力需要の増減に応じて遠隔制御で空調の設定温度などを変える技術だ。
これがあれば不測の大停電を防ぐのに有効なほか、天候に影響されやすい太陽光や風力による電気を安定して送配電網に取り込める。
津波で壊滅的な被害を受けた沿岸部では、これから電力インフラの復旧が本格化する。そこにスマートグリッドを積極的に導入し、地域で電気を有効利用したり、首都圏などに送ったりする技術を実証する地域にしてはどうか。
技術開発に携わる企業や研究機関が集まれば雇用を生み、復興に弾みがつく。この分野では米欧も新興国市場をにらみ国際標準の獲得へ動いている。被災地から新しい技術の標準を提案できれば、日本の競争力強化にも役立つだろう。
エネルギー戦略の見直しでは、低炭素社会に道筋をつけることを忘れてはならない。主要国首脳会議(サミット)で重ねて合意した「世界の温暖化ガスを2050年までに50%削減」は、地球益を守るため国際社会の目標だ。震災は日本がその責務を免れる理由にならない。
国際社会にモデル示せ
政府は昨年決めたエネルギー基本計画で、30年までに温暖化ガスを30%減らす目標を掲げた。この目標を変えることなく、達成手段を見直すことで、低炭素社会の新しいモデルを国際社会に示してほしい。
再生可能エネルギーなどの新技術はコストが高く、もともと割高な日本の電気料金を押し上げる恐れがある。それを防ぐためにも、電力市場の自由化を改めて議論すべきだ。
戦後復興期から続く電力10社体制は、高度経済成長で電力需要が急増した時代には、安定供給のため一定の役割を果たしてきた。しかし、人口減少で電力需要の大きな伸びが見込めないなか、今のままでよいのか。エネルギー戦略を練り直すなかで、電力、ガスなど業種の垣根を越えた再編論議も必要になろう。
日本の電力供給の3割を担ってきた原子力の代わりはすぐには見つからず、原発全廃は非現実的だ。震災で被害のなかった約40基の原発は、大地震や津波への備えが万全か徹底的に点検したうえで、運転の継続が妥当かを合理的に判断してほしい。
それには経済産業省原子力安全・保安院や原子力安全委員会でなく、政治や官僚から独立し電力会社に厳しい指示を出せる第三者機関の設置が要る。中長期のエネルギー戦略で原子力をどう位置づけるかは、時間をかけて国民的な論議を深めたい》
原発事故で、将来の電力体系の大胆な構想を打ち出すべき時期にあるいま、この社説のラインが国民の合意になれば、かなりの変化を生み出せると思う。
今後出てくるさまざまな電力体系の構想に注目したい。