報道倫理でAPFがお詫び

きのう、TBS「報道特集」が番組中に異例の「お詫び」を行った。今朝の新聞にも載っている。
《TBS系のテレビ番組「報道特集NEXT」などで制作協力したAPF通信社の記者が取材対象者の郵便物の記載内容を勝手に見た問題で、TBSは16日、新たに、同通信社の取材担当者が、無断で取材対象者の車に全地球測位システム(GPS)機能付きの発信器を取り付け、行動を追跡していたことを明らかにした。
 同番組などは昨年12月、外国人男性がただの黒い紙を、事情があって黒く塗りつぶされた紙幣と称して被害者に渡し、金銭をだまし取った、とする詐欺事件の特集を放送。この外国人男性への取材過程で問題は起きた。
 TBS広報部によると、発信器は昨年6月と9月の計2回、取り付けたという。取材対象の男性の自宅を割り出すためなどに、使ったとみられる。
 TBSは16日の「報道特集NEXT」の中でこの事実を発表し、「報道倫理上認められないもの」とした。番組で久保田智子アナウンサーが「TBSは通信社側からこの事実を全く知らされていなかった。しかし、不適切な取材が行われていないか確認する責任があり、深く反省しております」と陳謝した。
 郵便物を見た問題についてはすでに、放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会が審議することを決めている。》(朝日)
ここでは、アパートの郵便受けから公共料金請求書を抜き取り、本名を確認した後、再び封をして戻したことと、居場所を知るために車に発信器を取り付けたことの二つが問題になっている。
この取材を行ったAPF通信社とは、ミャンマーで殺された長井健司さんが契約していた会社で、社長の山路徹さんとは旧知の仲だ。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20070928
APFのホームページには以下のお詫びが載っていた。
 お詫び
 弊社が制作致しました2009年12月5日放送TBSテレビ「報道特集NEXT」及び12月8日放送TBSテレビ「イブニングワイド」のブラックノート詐欺事件の取材過程において、不適切な行為があった事が判りました。
 この事件は、自らをアメリカ兵でマイケルと名乗る外国人の男が被害者Aさんに黒い紙の束を見せて、特殊な薬品をかけると1万円札に戻ると嘘の説明をした上で、薬品代として30万ドル(約3000万円)を騙し取ったものです。
 この取材の過程で、担当記者が自称マイケルの本名を知るために、自称マイケルの郵便ポストから公共料金の葉書きを持ち出し、開いて名前を確認後、修復して郵便ポストに戻していました。
 こうした行為は誠に遺憾であり、報道倫理上、認められないもので、視聴者及び関係者の皆様には深くお詫び申し上げます。
 今後は社員教育を徹底し、再発防止に努めるとともに、信頼回復に全力で取り組んでいく所存です。
 尚、不適切な行為に関与した記者は退職致しました。また、弊社としましては当面、報道番組の制作を自粛致します。
2010年1月14日
APF通信社 代表 山路 徹

http://www.apfnews.com/whatsnew/2010/01/114_1.html
また、「ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議する会」は以下の「公式見解」を出した。
「TBS報道番組におけるAPF通信社の郵便物無断開封について」
 長井健司さんが所属したAPF通信社のスタッフが、TBSの報道番組で放送した内容の取材過程で、関係者の郵便物を無断で開封したという事態を引き起こしていることがわかりました。去年12月5日の「報道特集NEXT」とさらに12月8日の「イブニングワイド」で放送した詐欺事件の取材過程で、無断で開封したということです。
 当会ではTBSの報道により、この事態がおきたことを初めて知りました。長井健司さんの取材への志を受けとめ、彼のビデオカメラとテープの返却を求めている当会としては、長井さんが所属していたAPF通信社がこのような明白に取材倫理を破る行為をおこなったことに驚愕しています。今回の事態は、長井さんの遺志や命がけの取材活動に対する裏切り行為であるとも言えると思います。当会はこれまで長井健司さんのビデオカメラやテープの返却を求めるための署名活動などの一連の活動について、APF通信社とは協力的な関係でした。しかしながら、今回のようにジャーナリズムの根幹に関わる内容について、ある意味、今は亡き長井さんの名誉を傷つけかねないような重大な出来事を、APF通信社がおこしたことを鑑みて、当会とAPF通信社との協力関係を見直すことに致します。
 (以下略)
波紋は広がっている。
たしかに、今回の手法は違法であって、結果として、APFが報道番組の制作を自粛するまでに至っている。こうなったことは残念だが、仕方がないだろう。
報道取材では社会規範ぎりぎりの手段を取らざるを得ない場合もある。どこに線を引くかは難しいが、「報道倫理」について、あらためて考えさせられる。
一方で、ジャーナリストがお行儀良くしろ、ジェントルマンたれという最近の風潮に、私は疑問を持っているが、これについてはまたあらためて書いてみたい。