北朝鮮の偽札は米国製?8

偽札の出来不出来は、インク、用紙、印刷機、版下(はんした)の四つにかかっている。きょうは印刷機について書こう。
かつては、偽札といえばオフセット印刷が主流だったが、パソコンとインクジェット印刷機の普及で、いま一番ポピュラーな偽札の印刷方法はデジタル印刷に取って代わられた。一方、スーパーノートは本格的な凹版印刷で、きちんと版下を作り、本物の紙幣と同じ工程で印刷される。
凹版印刷とは、版面の凹み部分にインクを満たす印刷方法で、インクが紙の上にこんもり盛り上がって画線になる。紙幣を指で触ると、画線の盛り上がりが分る。日本円ではとくに上部の角にある1000、10000などの数字が分りやすい。日本旅券なら、はじめの頁、「外務大臣」の下の英語部分を指でなぞるとボコボコがはっきり分る。スーパーノートは紙幣と同様の精密な凹版印刷で刷られている。
紙幣印刷では、ジオリ社の印刷機の優秀さには定評があり、スーパーノートもこの会社の製品で印刷されていると専門家は一致して推測している。ジオリ社は買収で他社の傘下に入って企業再編により名前が何度か変わっている。http://www.sbaltd.com/kba-giori/history.html
ジオリ社は、過去に印刷機北朝鮮に売ったことがあることは認めている。だが、それが何年にどの機種を何台かという詳細は、取材拒否の壁に阻まれて調べることはできなかった。北朝鮮が、88年前後に東独経由でジオリ社の最高級印刷機を入手したとの、かなり信頼できる情報があるが、確認することはまだできていない。
北朝鮮は核・ミサイル関連の機器を台湾やシンガポールなど第三国経由で入手するのが常だが、ジオリ社の凹版印刷機についても別の政府または会社を間に入れて入手したと考えるのが自然だろう。
ジオリ社は自社製品の顧客に技術的なアフターケアを提供するが、北朝鮮はこのサービスを受けていない。つまり、北朝鮮は自力で精密印刷機をメンテナンスしている。スーパーノートレベルになると、印刷だけで十数メートルのラインになる。しっかりした技術陣が必要になるわけである。
偽ドル札作りは国家プロジェクトで人材は確保されているうえ、北朝鮮には偽札作りの技術的な蓄積がある。
北朝鮮の外交官だった高英煥(コ・ヨンファン)氏(亡命者)は、北朝鮮がかつて別の方法で偽ドルを作っていたことを教えてくれた。それは1ドル札の表面からインクを洗い流してまっさらにし、その上に100ドルを印刷するという技術だ。まさかと思って松村喜秀さんに確認すると、これは80年代に実際使われたテクニックだと言う。ドル札は1ドルも100ドルも同じサイズなので、1ドル用紙をそのまま利用することができたのだ。
スーパーノート自体が日々進化してきた歴史を持つが、北朝鮮には、すでにそこにいたる前に、前史とでも言うべき偽札作りの過去がある。
自作自演説は、技術的な事実だけでなく、こうした歴史的な事実をも無視している。無視したというより、知らないのだろう。
(つづく)