北朝鮮の偽札は米国製?6

時代とともにスーパーノートは進化し、最近のものは、印刷技術だけでいえば真札を凌ぐほどの水準にある。
金融制裁のとき、アメリ財務省の担当官としてテレビにもよく登場したダニエル・グレイサー副次官補(写真)にインタビューしたことがあるが、スーパーノートは「本物の紙幣よりも精巧な印刷がされている場合があります」と認めたのだ。
優れた印刷のためには、優秀な技術陣、高級な印刷機、高品質のインク(マグネットインク、OVIインク、UVインク、IRインクなど)、版下などが必要になる。
まずインクだ。たとえばドル紙幣は、マグネットインクで磁気パターンを入れ込むが、これもスーパーノートは軽々とクリアしている。
ベンダー氏は「スーパーノートと本物のドル札に使用されるインクは同じだ」と言う。
だが、実際はそうではなく別の似たインクである。「光の角度で見え方が変わる高価なOVIインクはスイス、ローザンヌにあるSicpa社でしか作っていない」というのも事実とは異なる。OVIインクを製造販売する会社は世界中に何社もある。
北朝鮮は容易にさまざまな種類のOVIインクを入手できる。もちろん、インクの購入でも間に別の国の商社などを介在させるだろう。
ベンダー氏はOVIインクを神秘化しているようだが、非常に広く使用されるインクである。
一つのセキュリティ対策にはなるので、紙幣に使う国もあるが、決定的なものでもない。中国元などはOVIインクを使用する一方、高度のセキュリティ技術を駆使し、偽造するのが難しいことで知られる日本の紙幣はOVIインクを使っていない。
商品券やプリペイドカードなどにもOVIインクは使用されるほか、競馬の馬券、宝くじなどに使う国もある。ただ、値段が高い割りに効果が小さいと、日本ではあまり使われなくなってきた。
ベンダー氏の記事に出てくるSicpa社には日本総代理があり、そのサイトも参照されたい。http://www.shriro.co.jp/industrial/index.html
インクと言えば、ある重要な「事故」をスーパーノート製造者が起こしていたことが一昨年発覚した。
中朝国境で入手したスーパーノート(スーパーZ)の印章が、なぜか間違って蛍光インクが含まれた黒色インクで印刷されていた。真札の100ドル札には蛍光インクを混ぜて使用することはないので、これは偽造者の大きなミスだった。
その同じ蛍光インク混じりの黒色インクが、なんと北朝鮮の100ウォン札に使用されていたのだ。このインクは金日成の頭髪と眼の黒い部分に確認された。普通のウォン札にはこんな蛍光インクは使用されていないから、これもまたミスである。
全く同じようなインク(蛍光インクを混ぜた黒のインク)が、同じようにミスで(おそらく同じ頃)使用されるというのは、単なる偶然とは思えない。
この事実は06年3月のTBS報道特集で報じられた。以下のサイトに番組ナレーション全文が収録されている。http://aoinomama13.seesaa.net/article/14488506.html
結論はこうなるしかない。
《その100ウォン札とスーパーノートの印刷場所が同一か、同じ人間が関わる形で、同じインクをあやまって用いた・・・》
素直に考えれば、スーパーノート製造者は、北朝鮮に、しかもウォン紙幣の製造部門周辺にいるということになる。
(つづく)