金賢姫はあの番組を観ていた!

takase222008-11-26

金賢姫(キム・ヒョンヒ)が最近出した手紙が公開された。
この日記で自作自演の謀略説の話をしていたら、この話が飛び込んできた。
韓国ではノムヒョン時代、謀略説がさかんに蒸し返された。事実を丹念につきあわせていけば、北朝鮮がやったとしか考えられないのだが、金賢姫のちょっとした言説や安企部の発表の中の矛盾をつついていって怪しげな仮説を作り上げた人々がいる。大韓航空機爆破事件は韓国安企部の自作自演の謀略であり、金賢姫北朝鮮工作員ではないという、自作自演説である。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20081122
驚いたことに、それをメディアも大々的に取り上げた。
03年、KBS、MBC、SBSとテレビの三大ネットワークがほとんど時期を同じくしてドキュメンタリーを流し、みなこの事件を自作自演説で描いたのには、私も唖然とした。

今回の手紙は、ノムヒョン左翼政権が終わって、金賢姫が試みた反撃である。
【ソウル=黒田勝弘北朝鮮の女性元工作員大韓航空(KAL)機爆破テロ事件の犯人・金賢姫(キム・ヒョンヒ)・元死刑囚が、親北・左翼的だった盧武鉉前政権時代、情報機関の協力の下でテレビ各局などが繰り広げた”KAL機事件謀略説”に対し抗議と怒りの書簡を発表し話題になっている。
 書簡は人権団体のイ・ドンボク北韓民主化フォーラム代表に送られてきたもので、金賢姫の対外的な訴えは初めてだ。
 書簡は彼女が北朝鮮で受けた工作員教育の際、日本語を教えてもらったという田口八重子さん(北朝鮮では李恩恵)について「彼女の存在と彼女が拉致日本人だったことは北朝鮮も認めているではないか」とし、謀略説とそれに便乗した政府機関、親北・左派勢力のでたらめさをあらためて非難している。
 謀略説というのは「事件は韓国当局がデッチ上げた自作自演で北朝鮮は関係ない。金賢姫はニセ者」というもので事件当時、北朝鮮当局や在日朝鮮総連、日本の親北・左翼系などによって流布された。
 国際的には「北朝鮮のいつものでたらめ宣伝」としてほとんど相手にされなかったが、社会的に親北・左派勢力が幅を利かした前政権時代になって「過去史真相究明委員会」など政府機関やマスコミなどで大まじめに取り上げられ、執拗(しつよう)に”金賢姫追及”が行われた。
 金賢姫がとくに問題にしているのは、確実な捜査結果や彼女の自供内容は紹介せず「金賢姫とは何者か」「16年間の疑惑と真実」「金賢姫の疑問の足跡」など題して一方的に謀略論をあおったテレビ各社。しかも彼女を管理していた情報機関の国家情報院は、偏向報道に利用されることを知りながら彼女に対しテレビ出演やインタビューをしきりに勧めたという。
これまで彼女の住所は北朝鮮による報復テロなどの危険性から秘密になっていたが、テレビは情報機関の協力で自宅に押しかけ撮影までしたため移転を余儀なくされた。また情報機関は”海外移民”まで勧めたという。
 書簡は、謀略説の最大の狙いは「テロ作戦は金正日総書記の指示」とした彼女の供述をひっくり返すことだったとし、テレビ制作陣は彼女を出演させ彼女が「良心宣言」をすることを画策したという。
 国家情報院に対する不満、批判としては、盧武鉉政権時代の政治的な過去否定作業の中で、1987年のKAL機事件捜査を担当した前身の国家安全企画部に対する否定的見方が強く、親北風潮に便乗し謀略説にき然と対応していないとしている。
 彼女は田口八重子さんに関連し「彼女が残してきた幼い2人の子供に会いたいと涙ながらに語っていた姿を思いだします。成人になった息子の様子を日本のテレビで見ましたが大きな目がお母さんに似ています。会ってお母さんの話をしてあげられない私の現実が残念です」と記している。》(産経新聞

 実は、この手紙の中に以下の一文がある。
《日本の「ニュースプラスワン」で流したように、国家情報院(かつての安企部)が資料を国内メディアに公開すれば、謀略説はすぐに撤回されるだろう・・。》
この「ニュースプラスワン」とはかつての日本テレビの夕方ニュースで、金賢姫がいう番組は、ジンネットが制作した04年3月29日の田口八重子さんはここにいた!−極秘捜査資料が語る金賢姫の真実−」と3月30日の「“花束の少女”を追え!−発掘された金賢姫スクープ写真の謎−」のことだ。http://www.jin-net.co.jp/housou2004.htm
金賢姫は私たちの番組を観ていたのだ。
これを知ったとき、感慨深いものがあった。
この番組で私たちは、入手した安企部の極秘資料から、金賢姫が自供した訓練施設(招待所)の見取り図などを紹介し、これを衛星写真などと照合することで彼女のいた施設を特定したのだった。また、72年の金賢姫が写っている写真も番組に出している。
少なくとも金賢姫という工作員が、少女時代から北朝鮮に存在し、工作機関で訓練を受けていたことは証明できた。
わざわざ、こんな当たり前の事実を証明する番組を作ったのも、韓国での予想を超える自作自演説の蔓延に刺激されたからだった。
韓国で今も謀略説が流布しているのは、盧武鉉政権の存在あってのことだった。国家情報院は北朝鮮を「刺激」する言説を取り締るのが任務だった。金賢姫の手紙は、その流れが変わろうとしているのを象徴している。
これまで知られていなかった情報が、出てくることを期待したい。