五輪のために人権弾圧するという「論理」

takase222008-03-25

国際的に糾弾すべき中国の重要な人権問題に、脱北者の強制送還がある。
数日前になるが、この記事には驚いた。
中国当局国連難民高等弁務官事務所UNHCR)に対し、北京五輪が終わるまでは北朝鮮脱出住民(脱北者)を新たに保護しないよう要求、同意しなければUNHCRが現在北京で保護している脱北者17人の出国を許可しないとの立場を取っていることが20日、分かった。関係筋が明らかにした。
 超党派の米上下両院議員8人は潘基文国連事務総長に書簡を送り懸念を表明、17人への出国のための査証(ビザ)発給を中国側に働き掛けるよう要請した。中国は五輪を国威発揚の場とみなしており、混乱を招きかねない“火種”を取り除きたい意向とみられるが、議員らは「容認できない」と批判。人権より五輪を優先しているとして国際的な批判が出そうだ。
 ジュネーブUNHCR報道官は電話取材に対し、中国での難民支援活動に支障が出る恐れがあるとして事実関係の確認を避けた(共同)》
中国に脱出してきた多くの女性が、農家の嫁や売春婦として人身売買されたり、奴隷労働に甘んじなければならないのは、中国が脱北者を難民として保護しないからだ。中国当局に摘発されると強制送還されるため、脱北者はいつも日陰の身で逃げ隠れしなければならないことが、彼らの立場を弱め、悪徳ブローカーの餌食にされる。わざわざ東南アジアやモンゴルまで遠い距離を、身の危険をかえりみずに旅しなくてはならないのも、そのためだ。
そもそも国連難民高等弁務官事務所脱北者へのインタビューをさせないという仕打ちをずっと続けていることが大問題なのに、記事では、すでに保護された脱北者を人質にして、今後の活動をやめろと脅しているというのだ。むちゃくちゃである。オリンピック開催が人権をさらに抑圧することになっているわけだ。
《【北京24日時事】中国黒竜江省チャムス市の中級人民法院(地裁)は24日、「五輪より人権の優先を」と主張して署名活動を行い逮捕された人権活動家の楊春林氏(52)に対し、国家政権転覆扇動罪で懲役5年を言い渡した。AFP通信が伝えた。
 北京五輪が迫る中、中国政府は人権活動家への締め付けを強化。著名な人権活動家の胡佳氏も国家政権転覆扇動罪で起訴され、公判が行われている。》
ほら、オリンピックと人権を絡めるとすぐに牢屋に入れられるのだ。
以下きょう目に付いた記事。
1)ジャーナリストが発言しだした。
《今年8月に北京五輪が開かれる中国で、多数の中国人ジャーナリストが拘禁されている問題に関し、世界新聞協会(WAN・本部パリ)が被拘禁者の釈放を求めて、世界中の新聞社などに中国に対する抗議広告の掲載を呼びかけている。海外ではすでに多くの新聞社が広告を掲載した。さらに多くの新聞社が同調し、中国政府への圧力が高まることをWANは期待している。(田北真樹子)
 「次の五輪を観戦するつもり? そこでは観られないことが1つある」
 WANの広告は、それは「中国政府が30人以上の中国人ジャーナリストの拘束について沈黙していること」だという。
 広告はジャーナリストが受けた判決の具体例をあげる。政府による土地接収に抗議する村民を報道して10年の刑、生活水準の低さを批判する記事をインターネットに掲載したことで2年の刑、などだ。そのうえで、「真実を告げたとしてジャーナリストを投獄する国で五輪が開かれるという考えに穏やかでいられますか」と訴えている。
 WANの調べによると、現在、中国で30人以上のジャーナリストと約50人のインターネット反体制派が服役中で、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」もほぼ同じ人数を確認している。どのケースも、政府批判など同様の“犯罪”だという。
 今回のチベット騒乱でも中国は、海外メディアによる現地取材を一切拒否している。「国境なき記者団」が発表した2007年の世界報道自由度ランキングによると、中国は169カ国中163位。五輪を取材する外国メディアの間でも、取材への影響を懸念する声が強い。
 WANは、中国が2002年、五輪主催にあたり「すべての側面においてオープンになり、国際基準に従う」と表明したことは全く守られていないと指摘。「実際は表現の自由への弾圧を強め、果敢に口を開いた者の投獄やいやがらせを続けている」として、報道や表現の自由への対応に改善が見られない点を非難している。産経》
2)でも中国当局はカエルの面になんとかだ。
《中国外務省の秦剛報道官は25日の定例記者会見で、チベット情勢でライス米国務長官自民党中川秀直元幹事長らが中国とダライ・ラマ14世との対話を促したことについて「それらの人たちは国際社会(の声)を代表できない」と述べた。
 秦報道官は「110以上の国が中国の立場を支持、理解している」として、対話拒否路線は国際世論の理解を得ていると反論した。共同》
中国はアフリカなどに圧力をかけて多数の票数をかせぎ、国際社会で何でもできると思っている。悪いことをして多少沈黙するかと思いきや、「攻撃」に出ている。恥ずかしいという感覚はないようだ。
3)立ち上がる人々もいる。
《8月に開催される北京五輪の聖火が24日、オリンピック発祥地のギリシャオリンピア遺跡で採火された。北京五輪組織委員会の劉淇会長のスピーチ中に複数の男性が式典会場に乱入するなど、チベット自治区などでの暴動に対する中国当局の反人権的政策への抗議行動が相次ぎ、AP通信は地元警察が4人を拘束したと報じた。
 4人のうち3人は男性で、いずれもパリに本部がある「国境なき記者団」のメンバー。1人はチベット族出身の女性だという。男性3人は採火式典に乱入し、手錠で表現した五輪マークを描いた黒い旗を掲げるなどした。女性は採火式後の聖火リレーの路上で、体に赤い染料を塗って横たわっているのを取り押さえられた。他にも各所で活動家らの示威行動があり、警備担当者に排除された。毎日朝刊25日》
国境なき記者団の勇気ある行動にエールを送る。
写真はチベット国旗