漢族にも広がるチベットの波紋

takase222008-03-23

(写真はきのうの六本木の公園で開かれた集会)
きのう投票の台湾総統選では大差で国民党の馬英九候補が勝ち、政権交代となった。選挙戦ではチベット問題が争点になって、馬候補がオリンピック・ボイコットに言及したほか、与党・民進党謝長廷候補が、チベットの独立を認める発言をしたという。チャイニーズ系とされる政治勢力が、チベットの独立を支持したのは画期的だ。
 私は92年にチベット亡命政府のあるダラムサラを取材した。その直前、89年の天安門事件で弾圧を逃れてきた民主活動家たちが、そこを訪問し亡命政府と交流していた。そのとき、中国人民主活動家はチベット独立を決して認めようとしなかったという。亡命政府の幹部は苦笑しながらこう言った。
「地図の中国の赤い国土の形からチベットの部分が欠けるのは考えられないというんだ。反体制活動家といっても、やっぱりチャイニーズだねえ・・」
ところが、台湾総統選だけでなく、きのうの集会でも「漢族」との連携が見られたという。あるサイトにこんな文章を見つけた。
《集会場の一角に「抗議中共武力鎮圧……」と簡体字で書かれたプラカードを持つグループがいた。チベット弾圧抗議集会に、なぜ中国の文字が躍っているのか、最初はわからなかった。聞けば彼らは「中国民主陣線」という中国の民主化を求める組織で、漢族出身だという。
 リーダーの辺寧さんは、1989年の天安門事件の際、デモに参加した。当局にマークされそうになったため日本に亡命した。辺さんは「多くの学生が殺された天安門事件と、今のチベット暴動は同じような状況になっている」と危機感を募らせる。89年はチベット暴動が3月に起き、6月の天安門事件へとつながった。
 支配民族の有志が被支配民族と志を同じくする例は、イスラエルパレスチナで稀にある。だが被支配民族のデモ・集会にまで参加するケースは筆者も見たことがない。民主化に対する中国政府のなりふり構わぬ弾圧への反発だろう。》(JANJAN
たしかに、会場には達筆の漢字で書かれた中国語の大きな横断幕があり、私も違和感があったのだが、あれが辺さんたちのものだったのか。
 チベットの事態は、これまで見られなかった、さまざまな動きを複合的に生み出している。国際政治のなかでも動きが広がっている。
英国首相がダライ・ラマに会うと言って中国を慌てさせている。
《ブラウン首相は19日、中国の温家宝首相とラサの騒乱について電話で話し、ダライ・ラマと会談する考えを明らかにした。秦副報道局長は「世界各国と政府、そして国際社会はいかなる形でもダライ・ラマに支援を与えないでほしい」と訴えた。ラサで起きた大規模騒乱が国際社会の関心を集めており、ダライ・ラマとの接近に強い危機感を示した。=日経》
中国の首相との電話会談で「会いますよ」と言ったというのだ。福田首相はもちろんできないだろうな。
ブラウン首相に言われて、温首相はダライ・ラマに会ってもよいと言ったという。以下はロンドン発の日経記事。
《ブラウン英首相は19日の議会で、チベット騒乱に直面する中国の温家宝首相と同日、電話で話したと明らかにした。温首相は「チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世が独立を支持せず暴力を放棄するなら、対話に入る用意がある」との立場を伝えたという》
だが、これは国際社会を宥めるために融和的な格好をしているだけかもしれない。
《温首相は国内ではダライ・ラマを強く批判する一方、国際社会に対しては柔軟な姿勢を示した(同上)》からだ。
《クリステンセン米国務次官補は18日の議会証言で、中国チベット自治区ラサ市での大規模騒乱を受け、欧州などで北京五輪の開会式への参加拒否論が出ていることに対し、五輪ボイコットは求めない考えを示した。「五輪は中国が人権やその他の問題での進展を世界に示す機会だ。中国は五輪成功に向け、世界が監視の目を向けている機会にこうした問題を取り扱わなければならない」と述べた。
 同時に、問題解決に向けて中国政府とダライ・ラマ14世の対話促進を重ねて促した。
 欧州ではクシュネル仏外相が五輪開会式への不参加を検討すべきとの考えを表明した。欧州連合(EU)は、チベット問題を巡り中国への批判を強めている=日経》
チベット事態がきっかけで、オリンピックを人質に中国に人権改善を迫る動きがようやく本格化してきた。チャンスである。