安田純平さんの解放に身代金は支払われたのか?(4)

 先週、山手線に乗ったら、全車両が「ハイアール」の宣伝で埋め尽くされていた。この中国の家電メーカー、うちの母親などたぶん名前も知らないと思う。今や白物家電世界一。こんな時代になったのだなあ・・

f:id:takase22:20190313120324j:plain

f:id:takase22:20190313115819j:plain

・・・・・・・・・
 安田純平さんは、カナダ人ショーン・ムーア氏について、こう書いている。
 《私は他の囚人と話すことを禁じられていたが、他の囚人たちは雑談しても咎められることはなかった。そのため、近くの独房にいたムーア氏が周囲の囚人や看守と話している声は聞こえていた。帰国後、先に解放されていたムーア氏をフェイスブックで見つけることができ、当時、独房から聞こえた彼の発言内容を伝えると、「それは俺だ! あの苦しみを分かち合える人がいたなんて!」と喜んでくれた。
 ムーア氏も、拘束されたことについて、インターネット上で一部の人々から非難を浴びているという。まるで別の惑星にでもいたかのような異常な体験を共有し、語り合える人がいるということは、私にとっても心強いことだ。》(月刊文藝春秋1月号)https://bunshun.jp/articles/-/10066

 安田さんはそのショーンと今年1月に対面した。声しか聞いたことがなく、会うのは初めてだった。

f:id:takase22:20190124184356j:plain


 ショーン・ムーア氏(48)はカナダ人で、中東で人道支援を行ってきた有能なボランティア活動家だ。2017年の大晦日レバノンからシリアに入り「タハリール アル・シャーム」(HTS)(旧ヌスラ戦線)と思われる武装勢力に捕まった。
 彼は、カナダの同じ地域に住む女性が、別れた夫から子どもを取り返したいと訴えているのを知った。元夫は旅行してくると言って、息子二人を彼の出身国であるレバノンまで連れ去ってしまったという。ショーンはその女性とレバノンに行き、息子2人とともに密かに陸路シリアを抜けてトルコへ脱出させようとした。その途中で武装勢力に捕まり、何カ所か場所を移動した後、ショーンは女性と二人の子どもと切り離されて、安田さんと同じ収容施設に入れられたのだった。

 ショーンは当初「スパイ」と「児童誘拐」の容疑で、拷問を伴う尋問を受けたが、拘束からおよそ1ヵ月後の2018年2月5日、女性とともに解放された。子ども二人はレバノンの夫のもとに戻されている。
 ショーンによると、拘束者グループはショーンに、カナダ政府や家族、友人に金を送るよう言えと迫ったという。ショーンはSNSでカナダ政府や家族に連絡を取ったが、いずれもお金を出すことはできないとの返事だった。カナダ政府からは、シリアの反政府勢力の支配地では助ける手段はないとはっきり告げられたそうだ。カナダ政府は米国、英国、日本などと同じくテロリストには身代金を払わないという立場だ。(ただし、2015年夏、オバマ大統領は法律を修正し、米国人の人質の家族がテロ組織と交渉することを認めると発表した)
 自分の解放にカナダ政府が身代金を払ったとは考えられないとショーンはいう。「身代金を払わないだけじゃないよ。カナダ政府は、トルコからカナダまでの航空運賃3100㌦を私に請求してきたんだ。私はいつも700㌦の格安チケットで飛んでいたのに、ひどい目にあったよ」と笑っていた。
 ショーンの解放にカナダ政府が身代金を払っていないと推測できる理由の一つに、拘束されてから解放されるまでの時間の短さがある。わずか1ヶ月と数日で解放に至っている。
 これまでジャーナリストがシリアでアルカイダ系とされる組織に拘束されたケースで、解放までの期間が短いものといえば・・(国境なき医師団のベルギー人、デンマーク人など5人のスタッフが2014年1月に誘拐され、3ヶ月後の同年4月に解放された例を除いて)
 2013年9月に誘拐された3人のスペイン人ジャーナリストのケース(1人が5ヶ月後、2人が6ヶ月後に解放)。
 拘束から10ヶ月後に解放されたフランス人ジャーナリストが4人いる。2013年6月6日に誘拐された2人と6月22日に誘拐された2人で、4人は2014年4月19日に解放されている。
 また、安田純平さん拘束の翌月、2015年7月にスペイン人ジャーナリスト3人が拘束され、10か月後の2016年5月に解放されている。
 フランス政府やスペイン政府は身代金を払ったとは決して認めないが、実際は身代金交渉をすることで知られている。
 もしもカナダ政府が身代金交渉に乗り出したとしても、1ヶ月かそこらで条件をまとめることはとても無理だろう。

 では、拘束者たちはなぜショーンを解放したのか?

(つづく)