安田純平さんの解放に身代金は支払われたのか?(5)

 17日放送の「ザ・ノンフィクション」の放送中から、ツイッターやFBには口汚い悪罵が書き込まれた。同時に好意的な評も意外に多かった。

安田純平さんの #ザ・ノンフィクション を観た。3年4ヶ月もの拘束…彼は毎日日記を過酷な状況の中ひたすら書いたジャーナリスト魂だ!どんな事が起きていたのかがつぶさに分かる安田氏の事を前提事実がはっきりしないままコメンテーターや国際政治学者が好き勝手に言う恐ろしさ!デマが如何に怖いか》
《自業自得と言う人が居るのも理解は出来る気がする。自分や自分の直ぐ側に居る人の事で精一杯だものね。それはそれで仕方が無い。でもやっぱり安田さんのように、世界全体をいつも意識して、遠くで起きている事を知らせようとしてくれる人も大事ですよね。》
《ザ・ノンフィクションで安田純平さんの特集を見たけど、誹謗中傷する人達の気持ちが分からない…。確かに危険な渡航だけど、地獄のような現地を世界中に伝えるのを必要な仕事と考えれば、あんな言葉は出てこないよ…。生きて帰って来て良かったと何故言えないのだろう…。》
 メディアの報じ方、SNSでの中傷への批判が目立つ。テレビ局の知り合いから、「ニュース制作にあたって自らを律しなくてはと考えさせられた」との感想が寄せられたのはうれしかった。
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 安田純平さんと巨大施設で「獄友」だったカナダ人、ショーン・ムーア氏。
 彼が主張するようにカナダ政府は全く身代金を払っていないとすれば、なぜ武装勢力はあなたがたを解放したと思うかとショーンに聞いた。彼は「彼らは自分たちの良いイメージを外に、特にカナダ政府にアピールしたかったのだろう」と答えた。

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「解放証明書」を前に解放の経緯を語るショーン・ムーア氏

 実はショーンを解放したのは「シリア救済政府」だった。「政府」を名乗ってはいても、これは安田さんやショーンが拘束されていたシリアのイドリブ地方で強い勢力をもつ武装勢力「タハリール アル・シャーム」(HTS)(旧ヌスラ戦線)が作った「政府」で、国際社会では承認されていない。ショーンはそこの「首相」からカナダ政府宛の解放証明書を手渡されている。
 おそらくは彼らHTSがショーンたちを拘束したのだろうが、その解放証明書には拘束者が誰かには触れずにこう記されている。

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(「首相」のサインまである「解放証明書」日付は2018年2月5日 )

 「救済政府の任務は、貴国の国民の安全をフォローすることであり、必要物と配慮を保証し、法的な措置をとった。彼らに、不法越境以外の法律違反は認められなかった。我々はまた、人道的問題において協力しこの問題を解決し、平和的な市民が祖国に戻り、最高の尊敬を受けることが必要であることを強調した」
 当初ショーンにかけられていた「スパイ」や「児童誘拐」の容疑への言及はなく、罪状は不法にシリアに入ってきたという軽微なものなので、人道的にカナダに帰れるようにしますというのだ。
ショーンは「カナダ政府は2017年の11月、シリアの反政府側の地域に9億ドルという巨額の人道支援を約束していた。その約束を守ってもらうには、カナダ人を大事に扱い、悪い奴らから救出したといういいイメージを発信したかったのだろう」と言う。
解放にあたっては、トルコ国境近くの「救国政府」の施設で記者会見も開かれ、ショーンは「救済政府」が用意したコメントを読み上げさせられたという。たしかに「救済政府」=HTSは、この解放劇を重要な宣伝の機会にしようとしたようだ。
https://m.youtube.com/watch?v=yubZdMlWpfE(会見の一部の動画、3分以降にショーンが登場する)

 IS(「イスラム国」)なら残虐な行為を宣伝するが、ショーンを拘束したと思われる旧「ヌスラ戦線」は、人道的な対応を世界に向けてアピールしたがっているようだ。「ヌスラ戦線」は2017年1月以降、「タハリール アル・シャーム」(HTS)と名称を変え、アルカイダとの絶縁宣言もしている。国際的孤立から脱するために化粧直しをしたのだろう。
 安田純平さんがなぜ獄中で日記を書くことが許されたのかは、誰しもいだく疑問だろうが、安田さん自身は日記についてこう記している。
「拘束者から『解放されたら、紳士的な対応を受けたとメディアを通じて伝えろ』と言われて記録を許された日記」(前掲雑誌)。安田さんの拘束者(ショーンの拘束者と同じとは限らない)もまた、「紳士的な対応」を外部にアピールしたがっていたようだ。

 身代金なしでシリアの武装勢力から解放されたケースはさらにあった。
(つづく)