安田純平さんの解放に身代金は支払われたのか?

 きょう放送されたザ・ノンフィクション「デマと身代金~安田純平 3年4ヶ月の獄中日記」はいかがでしたか。
 関東ローカルの放送で、見られなかった人も多いので、ここで内容の一部を紹介する。 

 シリアで反政府武装勢力とみられる集団に拘束されていた安田純平さんは、去年10月23日に解放され25日に帰国した。実に3年4ヶ月の長きにわたる拘束生活から生還した安田さんには、ネットなどでデマや「自己責任」に象徴される中傷が浴びせられ、身代金が払われたとの噂が飛び交った。帰国から5ヶ月、安田さんはそれらにどう応えているのか。

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 ネットには、
 「国民に迷惑をかけるジャーナリスト嫌い」
 「自ら危険なシリアに行って、助けてくれってどうなんだろう」
 「安田純平、血色よすぎ」
 「まさか自作自演じゃないよね?」
 さらには「身代金を国に払わせて、あなたはテロリストを支援しに行ってるとしか思えない」と身代金支払いを事実とみなしての非難も寄せられた。

 今でも、安田さんは外出するとき顔を隠すことがある。「殴ってやる」「死ね」などと脅迫まがいの中傷もあり、何が起きるかわからないと家族が心配するからだという。

    まず、身代金支払いについては、日本政府が払った、カタール政府が払ったと二つの説があった。
 しかし、両国とも身代金支払いを否定している。
 菅官房長官は解放翌日10月24日の記者会見で、「身代金、払ったという事実はありません」と日本政府の身代金支払いを否定。さらに「解放にあたって、カタールが身代金を払ったという話が出ていますが」との記者の質問に「そうしたことは、まったくありません」と答えている。
 安田さんも、身代金が払われたという説を否定する。
 理由の一つは、身代金交渉に不可欠の「本人確認」を日本政府がやっていないことだ。
 2015年8月に外務省が夫人に安田さんしか答えられない質問項目―子どものころに飼っていたペットの名前、結婚の証人になった人の名前など―を聞き取っていった。だが、安田さんがこの質問をされたのは、解放翌日の去年10月24日、トルコで日本の大使館員からだった。大使館員は安田さんの目の前に来て、話をする前「確認します」と言って、これらの質問項目を安田さんに尋ねたという。
 身代金交渉をする場合、交渉相手が偽者かもしれない。また、拉致された本人はすでに生きていないかもしれない。だから、交渉相手が現在も生きている人質の身柄を確保していることを確認しなければならない。本人確認はそのために必要になる。
    安田さんは、それらの質問を拘束中に聞かれたことがなかった。本人が生きているかどうかも確認せずに日本政府がお金を払うなんて、ありえないと主張する。これは説得力があると思う。
 次に、カタール政府が身代金を払ったという説だが、その唯一の根拠は、「シリア人権監視団」(The SyrianObservatory for Human Rights)というイギリスに拠点を置くNGOのリポートだった。

     この「シリア人権監視団」は、シリアでの民間人の死傷や人権侵害などの被害状況を発信しており、私もこのブログで何度もこの団体の情報を引用している。
 そのリポートには「信頼できる複数の情報源によると」として、三つの内容が書かれている。まず、安田さんは解放4日前(10月19日)に身柄の拘束を解かれていたこと。次に、カタールとトルコの支援があったこと。そして身代金が払われたことだ。http://www.syriahr.com/en/?p=105174
 さらに、「シリア人権監視団」の代表(ラミ・アブドルラフマン氏)は日本のメディアに答えて、カタール政府が身代金300万ドル(約3億3700万円)を払ったとまで述べている。

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 しかし、安田さんによると「シリア人権監視団」の情報には明らかな誤りがあるという。解放4日前に身柄拘束が解かれていたという点だ。
 安田さんが最後の収容施設から出されたのは10月22日で、解放されてトルコの入管に入ったのが23日、その4日前の19日は安田さんの状況に変化はなく、まだ同じ収容施設にいたというのだ。

    ところが日本のメディアは、安田さんにこのことを確認せずに「シリア人権監視団」の情報にのみ依拠して報じてしまった。(番組で取り上げたのは「カタールが身代金」と見出しを打った読売新聞の記事)
 こう報じたメディアを安田さんは批判する。
 「そんなの帰ってきたら、(私に)聞けばいいじゃないですか。
 そういう取材すらしないで、いちNGOが書いていたっていうだけで(メディアが)書いちゃってるわけですよ。
 (ニュースを)見ている人たちっていうのは、最初の話で止まっているわけです。テレビで、タレントとか国際政治学者とかいう人が、そのままの話でしゃべってるわけですよ。」
 情報のウラを取るという基本的なことがおろそかにされ、その結果、身代金が支払われたということが事実として印象付けられていった。

 これはメディアに携わる我々に突きつけられた言葉である。

(つづく)