イランはどうなる4

takase222009-06-24

20日のデモ鎮圧で殺された「ネダ」という女性の衝撃映像が世界中で出回っている。

動画サイトで観ると、倒れた若い女性の口や鼻から血が噴出す凄惨なシーンが映っている。詳しいことはわからないが、一説では哲学科の学生で、たまたま通りかかって銃撃を浴びたという。
ついこないだまで、テレビ討論もあれば、各派の派手な街頭での支持拡大キャンペーンもあり、中東にあってはきわめて自由でオープンな選挙運動が見られたのに、急転直下、手段を選ばぬ弾圧が吹き荒れている。
さて、アフマディネジャド氏は保守強硬派とされ、体制を頑なに守る人物だというイメージがあるが、実は逆に「体制の破壊者」ではないかとみる見方が広がっている。それはなぜか。
イランの革命体制はとても独特で分りづらいのだが、簡単に言うと、最高指導者をトップとするイスラム聖職者が国家を指導し、革命防衛隊が体制を担保するという仕組みになっている。革命防衛隊は国軍とは別に作られた「革命軍」で、国軍が体制に刃向かわないよう監視する役目もある。人員規模は国軍の3分の1とされるが、最新兵器を持つれっきとした近代軍で、ミサイル開発もここが管轄している。最高指導者直属の暴力装置である。
革命防衛隊を下支えするのが「バシジ」という志願民兵組織だ。工場、役所、大学など所属単位ごとに支部があり、全国くまなく僻地の小さな村にまで組織されていて治安維持にあたる。
15日と20日のテヘランのデモはいたましい流血の事態となったが、デモ隊に銃を撃ったり、棒で殴りかかったりしたのは主に「バシジ」だったといわれる。もともと対イラク戦争のさい、殉教者精神ではせ参じた大量の未成年者が「バシジ」で、政府は彼らを最前線の人海戦術に投入した。ボランティア組織なのだが、就職や進学で優遇されるなど、さまざまな特典があり、貧しく失業の多い地方ではかっこうの「就職先」として人気もだという。
学力がやや劣っても「バシジ」は大学に入学できると聞いていたので、テヘラン大学の構内で聞くと自分は「バシジ」だという学生が実際いた。15日の夜、「バシジ」はテヘラン大学の学生寮を襲撃して未確認情報だが4〜5名が殺されたという。学生同士が殺しあっているのだろうか。想像したくない図だが。
革命防衛隊はもともと聖職者の「下」にあった組織だが、対イラク戦争が終わると次第に利権集団化してきた。アフマディネジャド氏は革命防衛隊が権力基盤で、彼が大統領になってからは急激にその力を拡大している。
革命防衛隊関係者は、今の内閣の大臣の半数以上を占める。政治の分野だけでない。きのう紹介した記事にあるように、石油エネルギー関連や道路などインフラ整備を含む政府の大プロジェクトを独占的に受注するまでになった。つまり、軍事、政治、経済の分野を独占する勢いなのである。当然、既得利権を持っていた聖職者グループと衝突することになる。
アフマディネジャド大統領は、今回の選挙戦ではじめて導入されたテレビ討論で、ムサビを支持する元大統領のラフサンジャニ師の一族を腐敗した金持ちとして名指しで罵倒した。
これは上に述べた権力闘争が背景になっている。
そして最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド氏=革命防衛隊と手を組んだことで、聖職者vs革命防衛隊の対立は、聖職者内部の対立をも招いている。聖職者グループのうち、最高指導者についていく強硬派聖職者は少数で、多数派はラフサンジャニ=ムサビ支持とみられる。この事態は最高指導者の権威が急速に低下していくことを意味する。
今回の事態は、体制の中枢に生じていた深い亀裂を表面化させ、いっそう広げることになった。今すぐに政変が起きる情勢ではないが、今後、イランの革命体制は変質、解体を免れないだろう。
アフマディネジャド氏とは、かつてのゴルバチョフ氏のように、体制のど真ん中から現れて体制を中から破壊する役割を持った人物なのかもしれない。
(つづく)