韓国人の熱狂について

韓国人が一気にある方向に走り出したときの勢いは、日本人の想像を超えるものがある。これがどこから来るのか、私は韓国の専門家ではないので、今もよくわからない。
今回の「牛肉騒動」に火をつけたのは、MBCの看板報道番組「PD手帳」だが、かつてはこの番組自体が抗議を受けて放送中止に追い込まれたことがあった。あのES細胞論文捏造事件のときだ。
韓国の生物学者黄禹錫(ファン・ウソク)教授は、04年、ヒト胚のクローンからES細胞(胚性幹細胞)を取り出すことに成功したと発表。さらに、世界的に注目される研究成果をつぎつぎに挙げて、韓国から初の科学分野のノーベル賞かとの期待から英雄扱いされるようになった。
韓国政府から「第一号最高科学者」の称号を授かり、多額の援助と24時間の警護を受け、「研究センター」も作ってもらった。記念切手が発行され、大きな石像までが建てられた。
翌05年、国民の熱狂的な期待が高まるなかスキャンダルが持ち上がった。ヒト卵子の入手方法の倫理的な問題からはじまって、最後は注目された論文の捏造までもが明らかになった。
これについて初めて報道したのが、「PD手帳」だった。すると、国民の怒りがこの番組に集中した。インターネットでは番組スポンサーに対する不買運動が呼びかけられ、連日MBCへの抗議デモが行なわれた。新聞を含む他のメディアもMBC攻撃に加わり、結局番組スポンサーがすべて降りて、放送中止に追い込まれた。
06年2月8日の産経黒田勝弘特派員の記事
《夢の胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は捏造(ねつぞう)と判定され、検察当局によって詐欺容疑などの捜査が進められている黄禹錫・前ソウル大教授に対し、韓国では依然、熱狂的な支持運動が続いている。すでに支持者2人が抗議の焼身・服毒自殺を図ったほか、ソウルの都心では週末に数千人が「黄教授を守れ」とデモを繰り返している。
支持団体は若者層を中心に全国で50以上もあり、インターネットを舞台にした最大組織「アイ・ラブ・黄禹錫」の会員は10万人以上におよぶ。黄教授支持運動の特徴は強烈な愛国ムードで、デモや集会では参加者が国旗で体を包み、国旗の小旗を打ち振りながら「ああ、大韓民国!」など愛国ソングを歌うといった風景になっている。》
テレビからはじまってネットへというパターンで騒動が展開していくのは、「牛肉」と同じだ。やはり、事実を確認することはそっちのけで突っ走っていっている
メディア論の専門家、朴彰昊教授はこういう。
《国民は、その情報が「正しい」「間違っている」という次元ではなくて、「その内容が自分に気に入ったから受け入れる」というふうになりがちなので、メディアは慎重に情報を取り扱うべきだと思います》
韓国人はその傾向が確かに強いように思う。
韓国のインターネットの役割も独特だ。全家庭の9割以上にブロードバンドが普及している(日本は6割弱)韓国でのネット事情が、都市伝説の急激な伝播に重要な役割を持っているようだ。
《最近は、インターネットで個人的な内容を載せ、ジャーナリストの役割をしていると思い込んでいるネチズン(ネット市民)が多い》(朴教授)
ネット社会の問題点が韓国に突出して現れているという面もあるのだ。