タイの医療費は90円!

ゆうべ、下川裕治さんと一緒に飲んだ。
下川さんといえば、ファンの多い旅行ライターで、特にタイとその周辺の旅と庶民生活については第一人者と言っていい。私がバンコク駐在だった90年代前半には私も名前を知っていた。まだ会ったことがなかったが、友人が紹介してくれたのだ。
最近のタイ情勢について、下川さんはブログにこう書いている。
《2週間前の日曜日、僕はサパンクワイバンコクの地名)の舗道で、赤シャツ派のデモを眺めていた。庶民の街であるサパンクワイは、赤シャツ派の拠点でもある。屋台のおじさんやおばさんも、この日は赤いTシャツに着替え、車道を走る赤シャツ派に声援を送り、水や食べ物を差し出していた。舗道では、赤いはちまきや手の形をした声援グッズも売られていた。僕が泊まるホテルにも、地方からやってきた赤シャツ派が多く泊まっていた。
 その光景を目にしながら、昔の天安門事件の前夜を思い起こしていた。そのとき、僕は上海にいた。路上の物売りは、デモ隊に水や煮タマゴを無料で提供していた。あのとき、上海は健全だった。その空気に似たものが、サパンクワイの路上に流れていた。
 僕の周りのタイ人の多くも、どちらかというと赤シャツ派を支持している。赤いTシャツを着て、デモに参加したりはしない。が、旧態依然とした富裕層が仕切る政治には批判的だ。彼らは、この30年でそれなりの豊かさを手に入れた中間層だからだ。彼らの発想は、いたって健全なのだ。
 しかし健全な政治運動は長続きしない。
 いつも切ない結末を迎える。
 そんなステレオタイプの政治騒動を、タイにあてはめたくはない。》
http://odyssey.namjai.cc/
庶民への暖かい目線を感じさせる文章である。ご本人も実に優しい人だった。しかも深く世の中を見つめていて話が面白い。もっともっとと話を聞いているうちに深酒をしてしまった。
下川さんは、今のタイを、既成の支配層(黄色)に新興勢力(赤色)が挑み、後者に庶民層がついているという構図で見ている。
現政権の民主党は「黄」の代表で、王室とその取り巻き、すべての銀行、チャイナタウンは「黄」。「赤」の中心にはタクシン元首相の財閥がある。この財閥がどのくらいすごいかは以前書いた。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090415
赤と黄は文字通りタイ社会を二分している。
民主党の地盤の南部は「黄」で、タクシンのお膝元の北部と貧しい東北部は「赤」。
昔からあるタイのビール、「ビア・シン」(シンハビールともいう)は「黄」組で、急激にシェアを伸ばしてビア・シンを追い越した「ビア・チャン」(象のマーク)は「赤」。
軍は割れている。近い将来、この対立が、王室のあり方にまで及んでくると下川さんは見ている。
なぜ、「赤」が庶民に支持されるのか。タクシンの復権には命をかけてもよいという熱狂的な支持者がいる理由は?
以前、公立病院での医療費を最高30バーツ(90円)にしたと聞いたことがある。ほんとですかと聞くと、下川さんの知り合いの日本人女性はタイで出産し、実際に費用は90円だったという。なんと、90円で手術も受けられるのだ!
私がタイにいたころは、医者にかかれない貧しい人々がたくさんいた。彼らは今でもタクシンに恩義を感じているに違いない。
タクシン首相とその周辺は、たしかに汚職まみれなのだが、今度、選挙があったら、また「赤」が勝つだろう。「黄」は黙っていないだろう。政治の不安定は続いていきそうだ。
13日からのタイ正月(水かけ祭り)はきょうで終わり。しばらくタイに行っていないが、この時期になるとなつかしい。