戦後80年の「石破見解」をめぐって⑥

 トランプ・プーチン会談は予想通りひどいものだった。

プーチン「根本原因」を除くことが条件だという(サンデーモーニング

 小泉悠氏は―

 「プーチンが繰り返す(が決してその具体的な意味には言及しようとしない)「紛争の根本原因」というのは、つまるところウクライナが独立した主権国家であるという状態そのものであろう

 これを「除去」するという話をトランプが受け入れているなら、単に成果の出ない会談だったというだけでなく非常に悪い結果だったのではないか。

 「紛争の根本原因」=ウクライナの主権の「除去」の具体的あり方についてはやはりプーチンが何度も述べており、なかでも「非ナチス化」(マイダン革命前の政体への回帰)、非軍事化、中立化の三点はそのコアを成す。独立国家の主権に対する公然たる干渉であり、占領地域の線引きを巡る「取り引き」はこっちのヤバさを誤魔化す目眩しではないか。

 そもそも占領してもいないドンバスの残りの領域を寄越す代わりに占領がさらに困難なドニプロの川向こうは勘弁してやる、という話はよく見たら「取り引き」になっていないだろう」

 全くその通り!

 サンデーモーニングで作家の森功は―

 「プーチンの圧勝。記者会見のなかでプーチンは、投資ビジネスのチャンスがロシアには大きくあるんだと、そこでアメリカと協力できる土壌はあると、はたまた北極圏の開発。つまり利権をほのめかしている。それに対してトランプさんはプーチンとはディールができるということで、プーチンの話に完全に乗っけられてしまった

 最後にトランプが「ありがとう、ウラジミール」と言ったのを聞いたとき、ゾッとした。安倍政権のとき、プーチンと安倍さんが何度も会談して、ウラジミール・シンゾーという仲を築き上げて、北方領土を餌にされて、ずいぶん付き合ってきた。その結果、今のウクライナ紛争になってるが、それと似たような状況をプーチンに作られてしまっているのではないか」

 安倍政権はプーチンクリミア半島を武力で占領したことに国際社会が制裁を科すのをしり目に、プーチンに擦り寄ってロシアを孤立から救う役割を果たした。それがプーチンウクライナ侵略へと押しやった要因になった。いまトランプが、プーチンウクライナ侵略をやめさせるのではなく、逆にお墨付きを与える役割をしていると見るのだ。ウラジミール・ドナルド関係に森氏がゾッとしたわけだ。

 松原耕二氏は―

 「会見では終始プーチンのペースで、トランプはホスト国なのに、プーチンは2倍か3倍くらい話している。トランプ氏はいつも王様のようにふるまって、思いどおりいかないと怒りをぶちまける。なぜプーチンの前だとあれだけ弱々しくなってしまうのか。懐柔策なのか、それともやっぱり何か弱みを握られてるんじゃないのと、ずっと言われてきたことが頭をよぎる。

 制裁をちらつかせてきたけど今回も制裁をする気はない。最後にプーチンが次はモスクワでと言ったのは、ゼレンスキー抜きでやりましょう二カ国で、という誘いなわけです。これに笑顔で応じている。次にゼレンスキーに会う時に、領土の線引きみたいなものが提示されてそれをゼレンスキーが呑むか呑まないかみたいな話にならないか。西側がぜひ結束してトランプに加担しないでほしい。」


 トランプは原理・原則のない人間で、基本はプーチンにずっと取り込まれている。たまにロシアに厳しいことを言うのは単なるリップサービスで、制裁などする気は最初からないと見ていたが、今回そのとおりだと確信した。

 ウクライナはこれからが大変だ。マックス君にまたカンパを送ろう。

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 16日、17日と2夜連続のNスペ「シミュレーション」。

 猪瀬直樹昭和16年夏の敗戦』をベースにした長編ドラマで、総力戦研究所の物語だ。この「戦後80年の夏に送るこん身のNHKスペシャル」に批判が殺到している。

《空虚な訳は、創作の果ての史実捏造Nスペ。
「戦後80年の夏に送るこん身のNHKスペシャル」 とうたうが、恥ずかしすぎて仰け反りそう。【テレビ】8/17(日)NHK 21時00分 Nスペ シミュレーション昭和16年夏の敗戦
 空虚な演出に見えたのも、いくらフィクションとはいえ、遺族の指摘で判明した、史実を正反対に歪曲したNスペの小賢しさ故。さらに映画化とは。ありえないでしょ。
 戦後80年企画でワーストもとより、BPO案件、強制受信料の詐欺的流用かと。
 フィクションなら大日本帝国勝利でもやれば、極右層に受けたでしょうが。
 ドキュメンタリー班は別として、石井裕也監督はじめ、ドラマ班スタッフは「総懺悔」。関わったこと自体、恥ずかしいね。》
https://www.facebook.com/japandocs

 これは何かというと、先日このブログで紹介した総力戦研究所飯村穣所長が、対米戦をやめさせようという意図で研究させたのに、ドラマでは反対に、対米戦「必敗」予測を出すのを必死で止めようと描かれ、遺族が抗議していることを指す。

 孫の飯村豊氏が激怒してNHKに抗議している。

 「祖父飯村穣は戦前、総力戦研究所の所長を務めており、昭和16年夏に官民の若手を集めて机上演習を行い、米国と戦えば敗戦必至との結論を引き出しました(猪瀬直樹の「昭和16年夏の敗戦」というノンフィクションで描かれました)。

 しかるにNHK終戦80周年記念に放送するNHKスペシャルでは全く根拠なく、そのような結論を若手の研究生が出すことを祖父がブロックしようとしたとなっており、ここ2週間は歴史の歪曲を防ぐためNHK製作陣と交渉の日々でした。

 幸いNHKスペシャルの製作陣の方々も私の主張を理解してくださり、テロップ等でテレビ番組の内容はフィクションと流してくださることになりましたが、来年に向けてこのNHKスペシャルをベースに映画を作ることになっているようで、映画の内容がどうなるか心配です」(飯村豊さんのFBより)

 前後編とも最後に10分のドキュメンタリー部分がドラマとは関係ない形で放送されたが、おそらくこれは飯村家からの抗議で取り繕うために付け加えたと思われる。
ドラマ冒頭で以下の「おことわり」が入る。

 「これは「昭和16年夏の敗戦」(猪瀬直樹)を原案に創作を加えたドラマです。総力戦研究所の所長および関係者はフィクションとして描かれています」

 ただ、「総力戦研究所」というドラマの舞台設定は史実そのままであり、研究班の一人、実在した白井大尉はドラマの「モデル」として、また中心メンバーの堀場一雄大佐に「着想を得た」人物がいるとドラマの中の人物を紹介していて、史実に依拠している。ところが所長の飯村穣については「ドラマの人物とは関係ありません」と異様なおことわりを入れている。

左下に「関係ありません」と異様なおことわり

 史実にもとづくドラマとして許容範囲かどうか。他にも当時のリアルさが感じられない個所が多々ある。

 ただ、ドキュメンタリー部分で、なぜシミュレーションで「必敗」と出て首脳部にも伝えられたのに、日米戦に突っこんでいったのかを分析した専門家の意見は興味深かった。

 吉田裕・一橋大名誉教授は、対米戦以前から軍には特別に潤沢な戦費を陸海軍が使えるようになって、「南進してアメリカとの戦争に備えるということで予算を獲得する、予算の獲得競争みたいなものが組織の論理として出てきてしまった」ために開戦に反対できなくなったと見る。

 「総力戦研究所」の研究者、中村陵・立教大講師は、「軍部も政府もそして国民も、戦争するとまずいなと思っていながら、でも言い出せない、そういった世間の空気に東條というか政府が押されてしまった」という。そしてそれは今もあるのでは、と。

 ここが明らかにされ、教訓化されなければならない。

(つづく)