ロシアは停戦案を拒否したが、エネルギー施設への攻撃停止では合意した。
ウクライナにとってエネルギー施設への攻撃が停止されること自体は一歩前進といってよい。しかし、ロシアは都市部への空襲をむしろ強めている。
ウクライナ空軍は20日、各地にロシア軍の無人機171機による攻撃があり、このうち75機を迎撃したと発表した。100機近くが防空網をすり抜けて被害を与えているわけである。20日夜、オデーサでは過去最大の攻撃を受けたと報じられている。

ジャーナリストの玉本英子さんが昨年取材したオデーサの防空部隊のリポートから、ウクライナの防空部隊の実態を知ることができる。
自爆攻撃型ドローン「シャヘド」はウクライナ全土に何十機も飛来するため、何割かは防空網をすり抜けてしまう。機動防空部隊は、それらを阻止する「最後の盾」だという。
ドローン攻撃は通常夜間に行われる。「防空司令部は、レーダーでシャヘドの位置を特定し、地上でチームに分かれて、エリアを常時巡回して警戒する機動防空部隊に向かうべき場所を指示。指揮班が赤外線サーマルカメラで捉え、レーザーポインターでマーキングして、そのレーザー指標をもとに、重機関銃で迎撃する」。
この防空部隊の武器を見ると、旧式の機関銃だ。使える武器は何でも使って、住民に被害が及ばぬよう高い使命感をもって任務に当たっているという。

こういう戦争の実態を知らないと、ウクライナ戦争はウクライナもロシアも「どっちもどっち」、ケンカ両成敗論になってしまう。Youtubeチャンネルで紛争地取材が重要だと繰り返しているのは、紛争や戦争のリアルを知らないと重要な判断を誤ると懸念するからだ。
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トランプ政権とプーチンとの裏取引を示唆する事態がまた出てきた。ロシアによるウクライナの「子どもの連れ去り」問題の貴重なデータが「削除」されたという。
米イェール大学の研究者らが構築した、被拐の疑いがあるウクライナの子ども3万5,000人に関するデータベース(DB)が、米国務省の支援中断措置の最中に削除されたと、米紙ワシントン・ポスト(WP)が18日(現地時間)報じた。米民主党議員らは、ロシアの戦争犯罪を立証する証拠が消失する「破壊的な結果」を招く可能性があるとして、閣僚らに抗議文を送付した。
WPは、米国務省の支援を受けてDBを構築したイェール大学の人道研究所(HRL)が、先月、予告なしに契約が既に終了したとの通知を国務省から受け取ったと伝えた。これにより、HRLが綿密に収集・構築していたウクライナ出身の子ども3万5,000人の身元や所在を追跡する写真、文書などの情報が削除された。このDBは、ウクライナとスーダンでの戦争犯罪疑惑に関する資料を収集する「コンフリクト・オブザーバトリー」と呼ばれるプログラムの一部だった。米国務省は、ロシアのウクライナ侵攻から約3か月後の2022年5月に、このプログラムを複数の人権団体や研究機関のコンソーシアムとして立ち上げたが、トランプ政権2期目が始まると「コンフリクト・オブザーバトリー」のウェブサイトを閉鎖した。
このプログラムを通じて収集された子どもの被拐に関する情報は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らのロシア高官に対する国際刑事裁判所(ICC)への起訴の証拠として使用され、ICCは2023年、プーチン大統領とロシア政府の児童権利担当官マリヤ・リボワベロワ氏に対して逮捕状を発行した。
しかし、ドナルド・トランプ大統領が米国際開発庁(USAID)副長官代行に任命したピーター・マロッコ国務省対外援助局長は先月、国務省職員との懇談会でこのプログラムを税金の無駄遣いの典 型例として指摘し、これを含む数千件のプロジェクトへの支援を中断した。
WPは、DB削除事態についてブリーフィングを受けた連邦議会議員らがマルコ・ルビオ米国務長官とスコット・ベッセント米財務長官に書簡を送ったと伝えた。グレッグ・ランズマン下院議員(民主党・オハイオ州)らは書簡で、「保管されていたデータが永久に削除されたと信じるに足る理由がある」とし、「もし事実なら、破壊的な結果を招くことになる」と閣僚らに警告した。
仮にDBの情報が他の場所に移されていたとしても、問題は依然として深刻だ。収集過程で厳重に管理されていたデータの完全性を証明することが困難になり、デジタル・フォレンジックの証拠として裁判所で認められない恐れが高いためだ。
トランプ政権がプーチン側に立ち、ロシアを助けようとする姿勢ははっきりしている。口で何を言おうが、実際にやっていることはトランプとプーチンが「つるんでる」という表現がぴったりだ。ウクライナ和平に関するトランプ政権の今後の動きに警戒を強めなければならない。