モスクワ襲撃事件の政治利用に要注意

 モスクワ郊外のコンサート会場で133人が死亡した襲撃事件。真相はまだはっきりしないが、プーチンの反応に危険なものを感じさせる。ウクライナの関与を決めつけ、テレビ局がウクライナ要人が関与を認めたなどとするフェイクニュースまで流している。

 プーチンは謀略で権力につき、権力を維持してきた人物で、そのためなら人命など配慮しない。いくつもの爆破事件を自作自演した疑いすらあり、その後には「テロリストとの戦い」を口実に残虐非道の戦争、弾圧、暗殺へと突き進んできた

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 ウクライナではロシアがこの事件を利用して「テロとの戦い」、「報復」を口実に、ウクライナ住民の生活を破壊する攻撃をいっそう強化する可能性が指摘されている。また、ロシア国内のさらなる軍事化や軍事動員、言論圧殺、そして国際社会への「どっちもどっち論」の浸透に利用する懸念もある。社会がパニックになっているときに実施される一種の「ショック・ドクトリン」だ。

 このところ、欧米によるウクライナ支援が停滞する中、ロシア軍の空からの攻撃が激化している。22日には150機のミサイルとドローンによる大規模なインフラ攻撃があった。ウクライナ軍はうち90機を迎撃したとするが、相当数が主に各地の電力関係のインフラを破壊し100万戸以上に停電をもたらしたという。

日テレニュースより

22日の大規模攻撃は、ウクライナが国境越えの攻撃を行ったことへの「報復」だという(日テレニュース)より

 米シンクタンク、戦争研究所は、この日のエネルギー施設に対する大規模攻撃は「ウクライナの防衛産業の能力を低下させることを目的とし、ウクライナの防空ミサイルの不足を利用しようとしている可能性が高い」とした。

 地対空ミサイルなどが不足し、ウクライナの迎撃率が下がっていると言われる。ミサイルの迎撃はむずかしい。機銃や大砲では無理で、地対空ミサイルが要る。それも百発百中とはいかない。いまウクライナは、アメリカの地対空ミサイルがのどから手が出るほど欲しい。

 実は、そのミサイルを日本が間接的にウクライナに供給することになっている。昨年12月のこと―

政府は、米国企業のライセンスに基づき国内で生産している地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC2、PAC3)を、米国に輸出する方針を固めた。政府が22日にも見直す防衛装備移転三原則とその運用指針に基づく措置。2014年の三原則の制定以降、直接的に人の殺傷や物の破壊を目的とする武器の完成品を輸出するのは初めてとなる。近く国家安全保障会議NSC)を開き、方針を承認する見通し。関係者が19日、明らかにした。

 現行の三原則の下で、装備品の完成品の輸出は、フィリピンへの防空レーダーのみで、装備移転政策の大きな転換となる。

 現行ルールは、海外企業に特許料を支払い、日本で製造する「ライセンス生産品」を厳しく制約。米国のライセンスで生産した装備品の「部品」に限って米国やそれ以外の第三国に輸出でき、完成品は米国を含め輸出できない。》(毎日新聞

www.bbc.com

 アメリカがウクライナに最大の軍事支援をしているが、どんどん兵器を渡してしまうと、アメリカ自身が国防体制のために保有すべき兵器の量を割り込んでしまう。そこでウクライナに送る分をどこかで調達しなければならない。

 昨年、韓国はアメリカに砲弾33万発を輸出した。これはウクライナの砲弾不足を補うものだった。韓国は戦争当事国に武器を輸出できない。そこであくまで「アメリカ向け」だとして輸出し、砲弾数に余裕ができるアメリカは米軍が持っている「お古」の砲弾をウクライナに出す。日本によるパトリオットの対米輸出は、このからくりをなぞったものだった。

 いま英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を輸出できるかどうかが問題になっているが、すでにミサイルの輸出を決めているのだ。

 今回は、速やかに対応するため、いま自衛隊が持っている「パトリオット」をアメリカに送るという。

 日本のウクライナに対する「間接的」軍事支援には賛否があろうが、日本の大方針の転換であり、国家安全保障会議NSC)だけで決める問題ではないだろう。近年の自民党政権は大事な問題を国会で議論せずに次々と決めている。これはやめさせなければ。

 日本はウクライナへの軍事支援にもすでに深く関与している。ウクライナの戦いは、遠い国の私たちに関係ない戦争ではない。