コロナ対策の教訓にしたい墨田区モデル

 国会の会期末を5日に控え、立憲民主党など野党4党が、コロナ対策の議論などを続ける必要があるとして、会期延長を衆議院議長に申し入れたが、議院運営委員会で採決が行われた結果、自民・公明両党などの反対多数で否決された。
 菅義偉首相が、国会閉会を前に、やっと記者会見を開いた。首相になって国内では初めて。

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毎日新聞

 さあ、何を語るのかと思ってテレビでライブを見ていたら、「マスクと手洗い、三密を避けて・・」などの発言に脱力した。コロナ対策ではこれといったものはなく、国民の自覚頼みなのに、心をこめたお願いメッセージもない。

 きょうのコロナでの死亡45人は過去最高。重症者505人も最高を更新した

 会見で菅首相、「危機感を持っている」と言ったが、いったいどこが・・?
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 コロナ感染拡大を防ぐために検査体制を拡充せよ―これは新型コロナ感染が始まったときから提言されてきた方策だが、日本では今でも検査の効果を疑問視するむきがある。

 これがほんとうに効果的であることを示す実例が、東京都墨田区だ。今朝の朝日新聞13面にインタビュー記事「パンクしない保健所 新型コロナ 墨田区保健所長・西塚至さん」が載っている。
新型コロナウイルス感染者が急増する中、患者の受け入れ先の調整や感染経路の追跡など対策の最前線を担う保健所は、再び業務がパンクしかねない状況だ。だが東京都墨田区保健所長の西塚至さんは、「第3波」が到来したとされる今も、冷静に受け止めている。各地の保健所から悲鳴があがる中、なぜ墨田区は違うのか》のリードで始まるインタビューの受け答えに、いちいち「そのとおり!」と頷いた。

 墨田区の実践は今後への教訓にすべきで、政府のコロナ対策にもぜひ生かしてもらいたいので、長いが全部引用する。

www.asahi.com

Q:全国的に感染者が急増しています。
墨田区も直近1週間の10万人あたりの感染者数が25人を超え、都の平均を上回っています。人が密集し小規模の高齢者施設もたくさんあるので、感染症に脆弱な都会の下町として警戒しています」

Q:となると早晩、検査が受けられず「目詰まり」と批判された第1波の再来となるのでしょうか。
「そうはならないと思います」

Q:なぜですか。
「抗原検査も含めれば1日530件の検査が可能で、『ちょっとのどが痛い』程度でも検査を受けていただいています。検査態勢には十分余裕があり、相談があれば、その日のうちに検査が受けられます。無症状の人も見つかるので感染者数は多いですが、知らない間に感染が広がったり、重症化したりするのを防げます」

Q:「のどが痛い」だけでも?
「そうです。保育園や学校、高齢者施設などで陽性者が出たら、濃厚接触者以外の症状が出ていない人にも検査します。人間の記憶は不確かなので、意外な所で接触している可能性があるからです」
「6月には民間の検査会社を誘致し、区民ならいつでも誰でも6千円で検査を受けられる仕組みをつくりました。この仕組みを利用し、12月1日からは区内に約230ヵ所ある高齢者や障害者施設の5千人を対象に一斉検査を始めました。こうして、徹底的にクラスターの芽をつんでいます」

Q:国や専門家は、感染の可能性が低い無症状者へのPCR検査は必要ないという立場ですが。
「実際、濃厚接触者ではない無症状者からも、陽性者は出ています。その怖さは、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の患者の受け入れや、4月に発生した都立墨東病院でのクラスt-で実感しました。『どこで感染したのか、全く思い当たらない』という人が多くいました」

Q:となると、国の路線は間違っていると。
接触者を追ってクラスターをつぶしていくという方法も、患者を減らすという点では誤りではありません。でも第一波は社会経済を止め、企業や学校を閉めて乗り越えました。今回は人の活動はそのままで、警戒心も緩んでいます。そんな中、本当にクラスター調査だけで間に合うかというと、難しいと思います」

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墨田区保険所長 西塚 至さん(1970年生)

Q:一斉検査は感染者を掘り起こし、医療機関の崩壊につながりませんか。
「そういったご意見はあります。でも、ほとんどの方が無症状で自宅療養となるため、医療機関の負担は限られます。早い段階で隔離できるので、集団感染の拡大を防げるというメリットの方が大きいと思います」

Q:東京都は新型コロナやインフルエンザ感染が疑われる人を診る医療機関名を公表していませんが、墨田区は違いますね。
「保健所に電話が殺到するのを防ぐためにも、発熱外来を設置した54の医療機関の名前を順次、公表していきます。最悪のシナリオでは、ピーク時には区内で1日千人の患者が出るとみています。症状が出たときに、どこに行けばいいのかがあらかじめわかっていれば、早期受診が可能です」

Q:つまり、都も公表すべきだと。
「そうです。特に年末年始にどの医療機関があいているかどうかは、明らかにすべきです。患者の集中を心配しているようですが、実際にやってみれば、外来では患者さんが整然と並んでいますし、大丈夫だと思います。コロナ患者向けの病床も、何床確保したという情報だけでなく、今使えるベッドが何床で、どれだけ埋まっているのかを可視化して欲しいです」

Q:感染者が出た施設名も公表しています。
「匿名にしても、うわさで広がるからです。名前がわかれば、区民が『あそこでも』と自分事として危機意識を持てます」

Q:人も予算も豊富な都会の保健所だから対策が打てるのでは。
「確かに、特別区だからできる部分はあると思います。でも23区の中では決して医療資源に恵まれているとは言えず、墨東病院をのぞけば中小病院がほとんどです。これは弱点ですが、柔軟性があるとも言え、しっかりと保健所の思いを伝えてきました。無理なことも言ってきたと思います。コロナ対策はやる気と熱意で手作りしていくものなので、自治体ごとに対応が異なるのだと思います」

Q:つまり保健所次第だと。
「二つの病院で各150人を越える感染者が出ている旭川の事例を見ると、日頃の初動や早期探知の大切さを実感します。旭川は病院も施設も少ない中、これだけのクラスターが出ることは想定していなかったと思います。とはいえ、東京の方が人の往来が活発です。旭川以上のことが、都内でも起こるだろうと予想しています」

Q:出すぎると足を引っ張られませんか。
「幸いありません。ただ、『墨田区なら』ということで、区外の方が墨田区の病院で検査を受けたり、救急患者が運ばれたりすることが多く、区民の医療資源に影響が出ないかという点は心配です」

Q:ツイッターでもよく発信しています。
「区民の方から直接『入院できない』とメッセージが来ることもあり、病院を探すこともあります。人手が足りないこともありますが、クラスター班の一員としても出動しています」

Q:所長が現場に出るのは珍しいのでは。なぜそこまで?
「保健所の役割は、『インテリジェンス(情報分析)』と『ロジスティックス(物質の調達)』にあります。地域で何が足りないのか、資源はどれぐらいあるのかを分析し、最悪の事態を想定する。そのために必要なモノや人を確保するにはどうすればいいのか。先を読むことが大事だからです」
「たとえばワクチン接種に備え、専従の担当者を置きました。日本も供給を受ける予定のファイザーのワクチンは零下70度での保管が必要です。以前は地域150ヵ所の医療機関で個別接種する予定でしたが、1千人単位での集団接種が必要と動いています」

Q:「霞が関」と「現場」の温度差を感じることは。
「『37.5度以上の発熱が4日以上』という受診目安が二転三転した際は、まるで保健所が誤解したかのように言われました。接触確認アプリCOCOAも、国は検査するかどうかの判断を自治体に任せると言う一方、全員、検査が受けられるかのような物言いをする政治家もいました。通知を出すだけ出して、丸投げされても・・・と思う場面は何度かありました」

Q:政治と化学は、分けて欲しいということでしょうか。
「新型ウイルスの時に比べると専門家の発言は弱くなり、政治家の発言が強くなったと感じます。もちろん、現場が理解していない部分もあったと思いますが、これが様々な混乱につながりました」
「Go Toトラベルの発着地から、東京を再び外すかどうかをめぐる国と都とのやりとりもそうです。政治家は経済と医療、両方を見なくてはなりません。でも分析をしっかりし、医療逼迫の傾向が出ているのなら、国民の命を優先してほしいです」

Q:新興感染症はまた必ずやって来ます。そのときに、今回の教訓を生かすには何が必要ですか。
「まずはデジタル化です。デジタル化が進めば、少人数でも危機に対応できます。そして平時から、感染症に対応できる医師や保健師を育てる必要があります。米経済誌の住みやすい都市ランキングで東京が1位になりましたが、コロナによる死者数が少ないことが評価されています。今ほど、公衆衛生が必要とされる時代はないのです」


 検査数を増やせば、当然陽性者も増える。しかし検査にもとづく「対策」がとれるので感染の拡大を抑えることができる。これを現場で実践しているのだから、説得力がある。
 政府がしっかりした大方針を出さないなかで、こうした自治体レベルでの努力をもっとメディアは広めてほしい。