露わなり「日本モデル」の正体が 

 新型コロナの感染者数が連日記録を更新している。
 23日は東京都で366人、大阪府で104人、愛知県で97人など全国で981人の感染者が出て、1日の感染者数としては、22日の795人を上回り、これまでで最多となった。
 非常に心配な状況だ。今朝の朝日川柳は安倍首相はじめ政府の無策を刺すものばかり。

露わなり「日本モデル」の正体が (東京都 北島文明)

カタカナ語思いつくまで放っておく (千葉県 片柳雅博)

危機管理マスクし手を上げ去って行く (熊本県 立山秀則)

肩書は経済再生相なんだ (大阪府 佐藤隆治)

後ろから片棒かつぐ分科会 (東京都 三井正夫)


 テレ朝『モーニングショー』の「そもそも総研」で「PCR検査がなぜ増えないのか」について特集していた。

 PCR検査を増やしますと安倍首相はじめエライさんがみな言うのだけれど、最近でも東京都内のある総合病院で「ベッドがないので入院が必要な症状がなければ安易に検査するな」と指示されたとの内科医の証言が紹介され、今も検査拡大はスムーズに進んでいないことが明らかになった。各国の検査数の比較でも主要国最下位。

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日本は1日当たり3万2000件(たった!)

 このブログでも紹介したが、米国ニューヨーク州では1日当たり7万件の検査が可能で、居住者は誰でも回数制限なしで無料で受けられる。ドイツ・バイエルン州でも、「より早く、無料で誰にでも」がコンセプトで、無症状の住民も無料で検査を受けられる。
 無症状者にも検査を拡大すべきという対策が有効とされているなか、日本ではなぜ検査数が増えないのか。

 新型コロナ対策分科会メンバーの小林慶一郎氏(東京財団政策研究所)が、玉川コメンテーターの質問に答えて、大要以下のように語った。
 先日、ここで紹介した「公衆衛生ムラ」「パンデミックムラ」の存在も示唆するものだった。

 《理論的にはなるべく多くの人に繰り返しPCR検査をやることによって、真の陽性の患者さんを見つける確率が必ず上がることは確かだ。
 検査コストがどれくらいかによるが、確率現象ですから、たくさん検査をやれば市中にいる感染者を見つける可能性は上がってくる。》

 つまり、検査を増やせば市中の感染リスクが減ることは、分科会で認識が一致しているという。それは当然だ。
 ところが日本では、PCR検査は、発熱患者や「濃厚接触者」、無症状で感染リスクが高い人に限定され、感染リスクの低い無症状者には行われない。
 なぜPCR検査を大規模に行えないのか。

 《擬陽性が出て、健康な人を間違って隔離したら人権問題になると。こういう人権侵害を起こすことに極めて慎重になっている。》

 玉川氏が「それは官僚ですか、専門家ですか?」と尋ねると、小林氏は、

 《両方というか。官僚といっても医系技官(注)という医師の資格を持った官僚の方たち、そして保健所、そして感染研究所のような感染症の専門家、そういうような人たちは、ある種感染症対策をずっと長年やってきた歴史があって、一つの感染症対策のコミュニティを作っているわけです。
(注:厚労省で働く保健医療に関わる制度づくりを担う技術行政官のこと)

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これは「ムラ」のことだろう

 そこの「コミュニティ」の常識というか、相場観というか、職業倫理のようなところとして、感染症対策をやることによって人権侵害を起こしたというふうな批判を非常にセンシティブに感じている。その点がいろいろな理屈とか数字とかによって補強されているんですけれども。
 感染症でなぜそういう人権意識が非常に高いのかというと、当然思い出していただければ、ハンセン病の問題とか、過去に隔離をして感染症を予防しようとした政策が根本的に否定されたというか、世間から追及された経験があるわけで、彼らにとってはリアルタイムな問題なわけです。》

 《検査が必要だということは認めているけれど、検査をなるべく慎重に運用すべきだと。たくさん検査をやって感染拡大を抑えられるとしても、感染の隔離にまつわって人権を制約したという結果になりたくないという思いが非常に強いんだろうと推測します。そもそもが消極的なので、いろいろ工夫をして検査の数を増やす努力をしようというところまで思いが前向きにならないということだろうなと。》

 そして、どうすればよいかについては、
 《社会の側がちゃんと哲学を提示しないといけない。陽性になったらまず宿泊療養施設に入るというのは、ある種国民の義務だというふうに合意を作るべきなんだろうと思います》

 

 そこで、小林氏のこの答えをもとに、番組では厚労省に以下のような質問をした。
 「厚労省の医系技官や感染症対策に関する専門家の間で、PCR検査で擬陽性が出て隔離を行った場合の人権侵害が問題となるとのコンセンサスで、無症状者への検査拡大が進まないと一部で言われているが、その事実はあるか

 答えは、まず、検査が必要な人には検査していると述べたうえで、
 「擬陽性が発生するから検査の数を増やしていないという考えはない。
 実態として擬陽性はあり得る話だが、たとえば日本国民全員にPCRをすると一定の割合で擬陽性が出るだろう。その場合に陽性となることで入院したり医療資源をひっ迫させてしまうことは考慮しないといけない

 ニュアンスとしてはたしかに、「日本国民全員」には検査をしたくない、つまり検査数をどんどん増やすことを追及したくないと読める。
 ここでも何度か書いたが、子宮頸がんワクチンについては、一部から副反応の訴えが起こされて接種の推奨をやめてしまい、WHOから名指しで日本に接種を促進するよう注文が出されている厚労省が、人権を大義名分にした抗議に弱いのはたしかである。

 そしてコメンテーターの玉川氏は、PCR検査が増えないことで特定の誰かを責めても仕方ない、我々国民が意識を変えなくては、というまとめで終わった。

 私としては食い足りなさが残る。
 「感染症対策のコミュニティ」にたどり着いたはいいが、彼らや国民の「意識」の問題にしてしまった
 それよりも、以下のような利権構造にもとづく具体的な現象が起きていないのか、そこを追及してほしかった。そうしないといつまでも検査は増えないままだ。
 

 3月6日にPCR検査が保険適用になり、《厚労省は「実施医療機関の医学的判断に基づき、保健所を経由することなく検査依頼を行うことができるようになる」と説明した。にもかかわらず、いまだにクリニックから直接、検査会社に検査を発注することができない。それは検査会社が依頼を断っているからだ。最大手のみらかグループは2月12日に医療機関宛てに「本検査は厚生労働省及びNIID(感染研のこと)のみから受託するもので医療機関からの受託は行っておりません」という通知を出しており、現在まで方針は変わらない。
 クリニックからの受託拒否は表向き、検査会社の判断だが、もちろん「厚労省の意向を受けたもの」(検査会社社員)だ。厚労省は許認可権を握るし、「公表していないが、地衛研は、検査会社に多くの検体を出してくれるお得意様」(同前)でもある。保険適用後、PCR検査数に占める検査会社や大学などの割合は53%で、保険適用前の54%と変わっていない。》
(13日のブログより)

takase.hatenablog.jp