いくつかの訃報によせて

 NHKが朝から台風19号の警戒情報を流しているが、これは日本在住または旅行中の外国人に伝わっているのだろうか。昼前の映像で東京・銀座からの「デパートも閉店で、人影はまばらです」という記者リポートの後ろに、数人のツーリストらしい欧米系のグループがうろうろしているのが映った。言葉も分からず、心細いだろう。ホテルなどでは積極的に声掛けをしてほしい。
    また、ホームレスの人などは安全なところを確保できるのか。高齢者や障害者など災害弱者を行政は優先的にケアしてほしい。
 ところで、人間以外の生き物、例えばスズメやヒヨドリなどの鳥たちはどうやって暴風雨をしのいでいるのだろう。驚いているだろうな。ふと気になった。

 巨大台風の関東直撃で、あらためて日本列島は非常に自然災害(それも破壊的な)の多い土地柄なのだと気づかされる。超変動帯にある日本列島に住んできた「国民性」を論じたことがあるが、この列島は世界でもまれな強い熱帯低気圧の直撃地でもある。この土地柄と折りあって生きていくしかないと腹をくくるしかない。https://takase.hatenablog.jp/entry/20121202
 一方でこれまでとは違い、気候変動で巨大台風の増加はじめ天候異常が進むことが心配である。洪水や海面上昇で住む土地が無くなったり、砂漠化で移住を迫られるなど物理的に故郷を追われるケースが世界中で出ているほか、日本だけをとってみても災害により確実に「国力」を消耗するから将来の福祉、医療はじめ暮らしの保障が劣化する。一瞬にして莫大な人命を失わせる核戦争とは違い、じわじわと人類の生存条件を追い詰めていくのが気候変動である。「セクシー」などと言っている場合ではないのである。

 千葉県で昼ごろまでに停電の世帯が数千軒出ているそうだが、台風被害が小さくて済むよう祈ります。
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 何人かの訃報が届いた。
 長谷川禮子さん。

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長女の卒園謝恩会にて。いつも穏やかな笑みの本当に優しい方だった。

 娘がお世話になった東立川幼稚園の創設者で園長だった。子どもはとにかく遊びなさいという教育方針で、楽しい思い出がたくさんある。とくに園最大のお祭り「ジャングルまつり」では、暗闇の中から「ジャングルの女王」として登場し、みなを沸かせたことを懐かしく思い起こす。ありがとうございました。

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ジャングル祭りに長女と。みな仮装し、子どもは腰ミノで踊りまくる楽しい祭りだった。

 長谷川禮子園長についてはhttps://takase.hatenablog.jp/entry/20120801

 伊藤淳さん。

 かつての日本共産党の大幹部で後に「スパイ」として除名された伊藤律の次男として生まれた。
 この「伊藤律事件」は、共産党内の路線と主導権を巡る内部対立によるものだが、戦後の米国の占領政策による共産党の攪乱策も関連して起きた。90年代後半には多くの資料が発掘されて「伊藤律=スパイ」説は全くの濡れ衣で、逆に律を査問した野坂参三こそが「スパイ」だったことがはっきりした。https://takase.hatenablog.jp/entry/20160718
 父の汚名を晴らしたいという淳さんを主人公に、「父はスパイではない!~革命家・伊藤律の名誉回復~」(テレビ朝日テレメンタリー、2013年12月放送)というオタクな番組を制作した。https://kakaku.com/tv/channel=10/programID=641/episodeID=688859/
 この企画をテレビ局でプレゼンしたさい、若いプロデューサーたちから、そもそも伊藤律なんて知らないし、今の世の中に関係ない、なぜこのテーマをやるのか全く分からない、と強い反対の(そしてもっともな)声があがったが、当時のチーフプロデューサー が「たまにはこういう番組もあっていいんじゃないか」と通してくれた。こんな企画、今なら民放に絶対に通らないだろう。
 伊藤律はじめ共産党幹部らが日本を脱出して北京に設けた「北京機関」(徳田機関)の痕跡と律がながく幽閉されていた刑務所などを、淳さんと一緒に取材した。

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天安門広場にて伊東淳さんと。当時の日本共産党「北京機関」は人民解放軍の敷地の中にあった。

 淳さんは父親の名誉回復を日本共産党にかけあったが未だにまともな対応をしていない。9月7日、72歳でがんで亡くなったが、母親(律の妻)も本人も共産党の活動家だっただけにそれだけは無念だったろう。
 フリーカメラマンの杉本祐一さん。
 「9月25日、胃がんで死去、62歳。15年2月、シリアへの入国を計画したため、外務省から旅券返納命令を受けた。憲法が保障する報道の自由を侵害するとして国を提訴したが、一審、二審とも請求は棄却され、18年3月に最高裁が上告ログイン前の続きを退けて敗訴が確定した。」(朝日新聞
 杉本さんのケースが、紛争地に行くジャーナリストへの旅券を取り上げる嚆矢となった。常岡浩介さんへの旅券返納命令(https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/04/24/)そして安田純平さんへの旅券発給拒否(https://takase.hatenablog.jp/entry/20190718)である。杉本さんの裁判闘争にはあまり大きな注目が集まらなかったが、今から思えば、メディア関係者すべての問題として闘われるべきだったし、自分ももっとやれることがあったのではないかと反省している。
 みなさんのご冥福をこころよりお祈りします。