日本人にとっての戦争2

 フジテレビのあるお台場は観光地で、蒸し暑いなか、お客さんであふれていた。外国人が多く、新橋と結ぶ「ゆりかもめ」のなかはチャイニーズ、コリアン、最近はタイ語が飛び交っている。新橋の立ち食いそばに入ったら、中国人らしい家族連れがたくさんいて驚いた。アジアからの観光客も、街歩き的な楽しみ方をするようになっているのか。
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 イラクのモスルに続いてIS(「イスラム国」)の拠点であるシリアのラッカの陥落が近づいている。米国主導の有志国連合が支援するクルド人民兵組織「シリア民主軍」が、じりじりとISの支配地を奪い取っているが、その焦点の街に共同通信が入った。
https://www.youtube.com/watch?v=kwV7jBOW99M

 「米軍が支援する民兵組織が奪還した地区に11日、共同通信記者が入った」と。おお、よく入ったなとyoutubeを見ていたら、次のシーンには「日本メディアのラッカ入りはISによる2014年1月の制圧後、初めて」とのキャプションが出てきた。ええっ?
 私の知る限り、2014年1月以降、ラッカには二人の日本人ジャーナリストが入って取材している。横田徹さんが2014年3月に、そして2014年9月には常岡浩介さんが、IS支配下のラッカに入り、それぞれテレビやラジオ、雑誌、新聞などで取材を発表しているのだが。そして私自身は常岡さんにインタビューして『「イスラム国」とは何か』(旬報社)という書籍を出しているのだが・・。
「日本メディア」というのは、日本の企業メディアの社員ということなのか。つまり、フリージャーナリストはすでに入っているかもしれないが、マスコミ社員としては初めてですよ、と。でも、そんなことに意味があるのかな?
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 先日の「日本人にとっての戦争」つづき。引用は、加藤陽子満州事件から日中戦争へ』より。
 加藤陽子氏は、日本人は、日中戦争を「戦争」と思っていなかったのではないかと問題提起している。
《日本人にとって中国とは何であったのかを生涯、問い続けた政治思想家・橋川文三が、「日本人はあれを戦争と思っていたのか」との問いを、日中戦争について投げかけていた事実は、あらためて注目されてよいだろう。(略)
 橋川はいう。考えてみれば、37年7月に勃発した日中戦争は不思議な戦争だった。日中双方ともに宣戦布告を行なわないまま戦闘が続けられるいっぽう、裏面では、太平洋戦争末期にいたるまで、種々の対中和平工作が執拗に続けられていた。日本人はあれを戦争だと思っていたのだろうか。日中戦争の実体と、日中戦争に対する日本側の認識とのずれが致命傷となって、太平洋戦争に突入する際の判断が、上は為政者から下は国民まで狂わされたのではないかと。
 このように橋川は問いかけ、日中戦争と太平洋戦争とを連結させる言葉として、「泥沼化」という形容句しかもたなかった我々の硬直した頭脳を大きく揺さぶった。》
 言われてみれば、私も、「日中戦争が「泥沼化」して太平洋戦争に突入した」という言い方をしていた。では、どう理解したらいいのか。
  《橋川は自ら答えなかったが、日本人が、当時の呼称で「支那事変」すなわち日中戦争をどう理解していたのかは検討にあたいする問題だろう。京都の陽明文庫に保管されている近衛文麿関係文書の中に「現下時局の基本的認識と其対策」(38年6月7日付)と題された史料がある。内容から判断して、近衛首相のブレインであった昭和研究会などの知識人の執筆と推定される史料には、次のような日中戦争観がある。
 「戦闘の性質―領土侵略、政治、経済的権益を目標とするものに非ず。日支国交回復を阻害しつつある残存勢力の排除を目的とする一種の討匪戦なり」。中国に対する戦争のさなかにあって、戦争の性質を、あたかも匪賊を討つような戦いであると表現していた。》
 この認識は、軍も共有していた。「戦争」ではなく、中国側の条約違反を中止させるため、強力行為に訴えているのであり、違法とは見なされないというのである。

 問題提起はこの辺にしておくが、ここまで読んで、先日のNHKスペシャル731部隊の真実〜エリート医学者と人体実験」(8月13日)に思い当たる部分があった。ハルビン郊外で、3000人とも言われる人々が、人体実験で殺されるという非人道的行為が行われた背景について、元731部隊員がこう証言していた。
 「匪賊は殺してもよい」、殺しても罪にならないと思っていたといい、それは日本人の間では「一般的風潮」だったという。
 日本の満州経営に反対する現地のものは、ごく一部の「匪賊」という悪人であり、どうせ処刑されるのだから、医学の進歩という社会のためになるのはよいことだと認識する医学者もいたという。
 つまり、満州で行なわれていたのは戦争ではなく(従って捕虜でない)、社会を乱す悪者、匪賊を退治しているのだと国民の多くも考えていたようだ。
 
 もっと勉強しなくては。中国とは何か、は日本の近代化を考えるうえで、核になる問題だと思う。