ヨウ素剤配布を決断した三春町

今週の朝日歌壇。
妹のわこさんの歌が3人の選者(馬場、佐佐木、高野)に選ばれていた。
あじさいが話すアジサイ語をそっと聞いているかたつむりと私                       松田わこ
花と花が会話しているのをカタツムリと私の「二人」が聞いているという構図。いいですねえ。楽々詠んでいるようにみえるのが、才能を感じさせる。
・ ・・・・・
きのうの続き。
ヨウ素剤の配布をためらう市町村のなかにあって、原発から30km圏の外にある三春町は配布・服用指示を出した。
これに関して、国会調査委員会報告書はこう書いている。
双葉町富岡町及び三春町へのヒアリングでは、3町は「県の指示はなかったが、万が一、放射線の影響が大きい場合を考慮し、服用させるべきと判断した」という共通した認識で服用を指示した》
《三春町は、医師やインターネットによって副作用の情報を把握したうえで、14日夜の会合で、15日に三春町に原発から東風が吹き放射性プルームが通るという情報をもとにヨウ素剤の服用を決めた。「副作用の懸念はあるものの、放射能の被害が高くなる可能性もあるので、安全策をとって服用させた」と同町担当者は話している》
7日から朝日新聞の連載「プロメテウスの罠」で三春町の決断について扱っている。
上からの指示がない中、現場がどう判断したのか。初回だけ紹介するので、あとは関心のある人が読んでください。

〈プロメテウスの罠〉東風だ、ヨウ素剤を

■吹き流しの町:1
 福島第一原発から放射能の大量放出があった2011年3月15日、原発から45キロ西の福島県三春町。
 午前8時過ぎ、副町長の深谷茂(ふかや・しげる、63)は、インターネットのニュースで、茨城県東海村で通常の約100倍の放射線量が観測されたことを知った。
 この日は、北風から東風に変わるとの予測があった。三春町は原発の真西。100キロ以上離れた東海村でこの値だと、東風になれば三春にはもっと濃いのが来る。
 風向きが気になった。
 役場の屋上に前日立てた吹き流しを見に行った。ところがあっちを指したり、こっちを指したり。地形が複雑で、風が回っているのだ。
 困った。4階の議長室に入ってきた深谷に、議長の本多一安(ほんだ・かずやす、62)がいった。
 「沢石(さわいし)に立てよう」
 沢石は標高450メートル。町一番の高台だ。本多は娘の千春(ちはる、34)に電話をかけた。千春は沢石の日帰り入浴施設「いぶき」に勤めている。
 「そこんところ、吹き流しを立てて、風向きを教えろ」
 千春は倉庫にしまってあった、幟(のぼり)用の白いポールを持ち出した。荷造り用の青いテープを何本か、1メートルぐらいの長さに切り、ポールの先に結びつけた。
 午前9時、そのお手製吹き流しを施設の前のひらけた場所に立てた。テープが強い風をとらえ、真っすぐ横にたなびく。父に電話した。
 「移ケ岳(うつしがたけ)の方から吹いてるよ」
 東風だった。
 一安は10時、11時、12時と継続して風向きを見るようにといい、「写真に撮って、送れっ」といった。
 深谷は町長室に向かい、町長の鈴木義孝(すずき・よしのり、72)に決裁を求めた。
 「東風です。準備した薬を、町民の方に今日、飲んでいただこうと思います」
 午後1時から、40歳未満のほぼすべての町民が、甲状腺がんを予防する安定ヨウ素剤を飲んだ。
 町は福島県にあるといっても原発とは無縁。原発の災害訓練などやったことがない。町長以下、3日前まで原発放射能に関する知識はゼロだった。
 その三春町が、政府が混乱して明確な指示も出せないでいる15日に、どんぴしゃり、町民を守る決断を下したのである。(宮崎知己)