国会事故調報告書にみるヨウ素剤配布

takase222012-07-07

おかしな花だとこのブログで何度か書いたトケイソウを、うちのかみさんが鉢植えで買ってきた。
そしたら先日、赤い花が咲いた。幾何学的でおもしろい。まさかパッションフルーツの実がなるのではとあわい期待を持っている。
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国会事故調査委員会の報告が出た。
新聞を見ると、「原発事故は人災」「東電・政府の責任を強調」(朝日)というラインで書いている。しかし、NHK菅首相の「介入」が問題視されたとしきりにニュースで流していた。報告書のなかではさほど重要でない個所に焦点を当てているのはなぜだろうか。違和感を持った。
ネットで公開された報告書を部分的に読んだが、実によく調べて書いてある。また、バランスのとれた評価をしているとも思った。
私がまず知りたかったのは、事故直後の周辺住民へ対応、とくにヨウ素剤配布についてだ。
チェルノブイリ事故で放射性ヨウ素が原因で小児甲状腺がんが多発したことは知られているが、放射性ヨウ素を体が取り込む前にヨウ素剤を服用すればこれを防ぐことができる。実際、ポーランドではヨウ素剤配布で事故が原因の甲状腺がんをゼロにする成果をあげた。
放射性ヨウ素半減期8日と短いので、事故直後が勝負である。迅速に服用させなければ効果がない。
報告書では;
《放射性ヨウ素は呼吸により気道、肺から、又は飲食物を通して血液中に移行する。血液に入ったヨウ素は24時間以内に甲状腺に集積するため、ヨウ素剤を服用して血中の安定ヨウ素の濃度を高めておくことにより、放射性ヨウ素甲状腺に集積することを抑制することができる。
なお、ヨウ素剤服用の時期は重要であり、放射性ヨウ素が体内に取り込まれる24時間前から直後に服用すると、放射性ヨウ素甲状腺への集積を90%以上抑えるが、24時間以降の服用になると阻止率は10%以下になる。なお、ヨウ素剤は他の放射性物質に対する効果はない》
ととても丁寧な説明をしている。
チェルノブイリで教訓化されたはずの迅速なヨウ素剤配布は、しかし、日本ではほとんど実施されなかった。
これについて、報告書は「失敗」と厳しく断じている。
放射線被ばくには、がんのリスクがあることが広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査では分かっており、年齢や性別に配慮して体内線量のモニタリングと低減策を実施していく必要性がある。その代表例が放射性ヨウ素の初期被ばくを防ぐヨウ素剤の投与であるが、原災本部や県知事は住民に対して服用指示を適切な時間内に出すことに失敗した。》
かつて原子力委員会は、「原子力災害が発生した場合には、揮発性の放射性ヨウ素の周辺環境への放出は、比較的時間がかかると考えられています。この間に、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)により、放射性ヨウ素の拡散等の予測計算を迅速に行うことが可能」などと自信たっぷりであったことについては以前書いた。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110618
実際には、SPEEDIも宝の持ち腐れで、ヨウ素剤配布も「失敗」したわけだ。
ただ、報告書によれば、いくつかの自治体で、独自判断で服用を指示したり、配布したりしていた。
《服用指示あり》
 富岡町  配布人数不明 2万1000個配布
 双葉町  川俣町に避難した住民が対象。少なくとも845人服用
 大熊町  三春町に避難した340人
 三春町  7250人

《個人に配布》
 いわき市 15万2500人 25万7700錠
 楢葉町  いわき市に避難した3000人

《避難所に配布》
 浪江町  同町津島地区に避難した8000人

三春町は30km圏外なのに、すぐに市民へのヨウ素剤配布を実行した。ところが配布したあと、福島県から叱られ「回収せよ」と指示されたらしいという不思議な経緯については以前このブログで紹介した。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110617
いったい、現場はどうなっていたのか。
(以上の引用は、報告書第4部「被害の状況と被害拡大の要因」の4「放射線による健康被害の現状と今後」のうち2「防護策として機能しなかった安定ヨウ素剤」より)
(つづく)