ミサイル発射を間近に混迷する報道

人工衛星」発射がほぼ確実になってきたが、このところまた、北朝鮮に関する報道が混迷している。
人工衛星」発射予告はじめ、開城(ケソン)工業団地への交通の遮断、アメリカの食糧支援拒否、NGOの国外追放と北朝鮮が次々に打ち出す措置の「意味」をめぐってである。
今回の「人工衛星」発射について、2月下旬、韓国の学者がこうコメントしている。
《近い時期の発射はないだろう。発射すれば、オバマ米政権との2国間協議に入る前にその機会がつぶれてしまう。また、最大の支援国である中国の反発を買うようなことは容易にはできない》(高有煥東国大教授)
非常に常識的な解説であるが、06年のミサイル連射と核実験のときに全く同じように日本の専門家も「やらないだろう」と予測して見事に外れてしまった。
人工衛星」発射は、アメリカを「振り向かせる」ための必死のシグナルですよ、と専門家は言うが、では、次の報道はどう解釈するのか。
クリントン国務長官は今月11日、《日中韓3か国歴訪中にスティーブン・ボズワース米政府特別代表(北朝鮮担当)の北朝鮮訪問が実現しなかったのは、「北朝鮮から招待されなかった」ためと明らかにした。(略)長官はボズワース氏が「北朝鮮との対話を開始するため、即座に訪朝する準備を進めていた」と明かしたが、北朝鮮は米側の要請を受け入れず、「残念に思う」と述べた。》
アメリカはすでに北朝鮮への秋波をさかんに送っていたのに、北朝鮮が拒んでいるかっこうなのである。
また、アメリカの食糧支援は50万トンという膨大なもので、去年5月の支援合意は、米朝接近の表れとみられた。これを拒否するとはどういうことなのか?「ミサイル発射の動きは援助獲得のための取り引き」という解説もあったから、ますます訳がわからない。
食糧支援を拒否した狙いについて、メディアはどう報じているのか。
北朝鮮との対話姿勢を打ち出しているオバマ政権を揺さぶる狙いもあるとみられる》(東京ワシントン)
《米国との緊張関係を高めることを通じて、オバマ政権を米朝協議のテーブルに着かせる狙いがあるとみられる》(産経ソウル)
《(ミサイル発射の)中止を求める米国に態度を硬化させたとみられる》(読売ワシントン)
以上「揺さぶり」理論。でも、アメリカはすでに話し合おうよと言っているのだが。
《米側を牽制する狙いがありそうだ。・・・「食糧問題を駆け引きの材料に使い始めた」(朝鮮半島専門家)との分析が出ている》(日経ワシントン)
どういう「牽制」、「駆け引き」なのか、肝心なところがわからない。
面白いのは;
《今後の米朝関係を見据え、北朝鮮が主導権を狙う圧力の一環との見方が有力だ。ミサイル発射後に予想される、食糧支援の停止をあらかじめ封じる動きだとの分析もある》(東京ソウル)
ミサイルを発射すると米国が食糧援助を切るから、あらかじめ断っておくという、すごい解釈。
《中国との相対的な関係強化をアピールする狙いがありそうだ》(日経)
まるで恋の「さやあて」だが、ホンマかいな?
メディアや専門家は、北朝鮮の「ゆさぶり」という便利な言葉を使うが、何をどうゆさぶっているのか?実は「ゆさぶ」られているのは我々で、意味不明の動きに動揺していることの表明のように思える。
北朝鮮が思ってもいないことまでどんどん「狙い」を解釈してあげて、その結果、北朝鮮の虚像が膨らんでいく。ほんとはこっちが勝手に転んでいるだけなのに。