北朝鮮の飢餓と民主主義

北朝鮮がまたわめいている。
北朝鮮は30日、朝鮮中央通信を通じ特別声明を発表し「この時点から(韓国との)北南関係は戦時状況に入り、全ての問題は戦時に準じて処理される」と表明した。米韓から軍事挑発を受ければ、局地戦にとどまらず「全面戦争、核戦争にまで広がることになる」とも警告した。
 声明は「政府、政党、団体」名義。金正恩第1書記が29日、ミサイル部隊に米攻撃のための「射撃待機状態」に入るよう指示したことを受けた内容だ。緊張の先鋭化を演出し、米韓への圧力を強める狙いがあるとみられる。(共同)》
また核実験かミサイル発射をやるとの観測もある
「米国との敵対関係が新たな局面に入った」と宣言した1月に続き、さらに言葉をエスカレートさせている。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20130124
核兵器開発を進める一方、去年から穀倉地帯の黄海道(ファンへド)の農村を中心に、相当数の餓死者が発生していることをアジアプレスが明らかにした。人肉食いまでが横行する惨状だという。
原因は、軍隊用食糧と平壌美化という二つの目的で穀物を徴発していること。
先軍政治などと言いながら、兵士は飢えている。
《今月初め、武装した北朝鮮軍の兵士12人が中国側に脱北し、吉林省集安市で中国軍に身柄を拘束されて北朝鮮に強制送還されていたことが21日までに分かった》(朝鮮日報
兵士には最優先で食糧を回さなければならないはずである。

一方、平壌では遊園地が作られ新しいアパートが続々建設中だ。
平壌を訪問する外国人が「北朝鮮は変化した」と言うように、金正恩は、北朝鮮の核心階層が集中する首都に大変なてこ入れをしている。しょせん「お化粧」なのだが、建設のために動員された大量の労働者を食わせることも喫緊の課題だ。

こうして軍と首都への食糧確保のためにダブルで徴発しはじめた
そのために穀倉地帯の黄海道の農村に徴発チームが派遣され、農民が地面に埋めて隠しておいたなけなしの食糧を無慈悲に奪っていくという。

穀倉地帯で飢餓が起きるというのは不思議に思われるかもしれないが、全体主義国家ではありうる。
ソ連時代のウクライナでは、1932年から33年にかけ数ヶ月で700万人が飢えのために死んだ。スターリニズムの犠牲者の圧倒的多数が、ウクライナで出た。「ヨーロッパのパン籠」と言われた穀倉地帯が死屍累々の惨状になったのは、共産党がここに集中的な食糧の収奪をかけたためだった。
中国の大躍進(1958-60年)時代は少なくとも3000万人(5000万人説もある)、カンボジアポルポト時代には170-180万人の犠牲者が出たが、これらも食糧の絶対量が足りないことが原因ではない。

つまり、北朝鮮はじめ全体主義体制の飢餓は、穀物の生産量とは関係がない。飢餓は民主主義の欠如からくるのだ。
国連食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)は、北朝鮮の「作柄予想」をして今年は昨年比10%の増加だとか減少だとかしたうえで、このくらいの援助が必要だと発表するが、これが全くピントはずれであることは明らかだ。
そもそも、核ミサイル開発に使う外貨を穀物輸入に回して安く供給すれば、飢餓などはじめから起こらない。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20120220
金正恩が「三代目」に決まったとき、ヨーロッパで教育を受けたから開明的な人柄で、改革開放に向かうだろうなどと楽観的な予想をした評論家もいたことを思いだす。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20101012
平壌に遊園地ができる一方で餓死者と人肉食いが生じている事態は、北朝鮮全体主義体制に変化がないことをはっきりと示している。