ウクライナ戦争:勝利と平和のあいだで4

 今夜は、ウクライナの市民ボランティア、マックスとのZOOMチャットがある。これをきっかけにして、ウクライナと日本を結んだ交流が広がればいいと思う。

 ウクライナゼレンスキー大統領は25日、侵攻開始から24日で2年を迎えたことを受け首都キーウで記者会見し、ロシアの侵攻によるウクライナ軍兵士の死者が約3万1千人に上ったと明らかにした。ウクライナ政府が公式に自軍兵士の死者数を公表したのは初めて。ロシア軍の死傷者は50万人におよびうち死者は18万人だとも主張したが、確認はされていない。ウクライナ軍の負傷者や不明者の数は明らかにしなかった。

共同通信より(youtube)

 24日には在日ウクライナ人らが渋谷駅前で犠牲者に祈りをささげ、戦火を止めようと抗議した。約100人が黙とうし「歴史や文化を破壊するため、私たちの街にロシアが(攻めて)来た。ロシアを止めよう」と声を上げた。

TBS報道特集24日より

 テレビ取材に応じたウクライナ女性、ユリーヤ・ナウメンコさんは侵攻後に兄のいる日本に避難してきた。「私たちが経験してきたことを、プーチンやロシア人にも感じてほしい」という。

 「ロシア人にも同じ目にあわせたい」、「この苦しみをロシア人にも味わってもらいたい」・・こうした表現をウクライナ人から何度も聞いた。

 ウクライナ側が手足を縛られてロシアと戦っているという戦争の「構造」を市民の立場で示す言葉である。欧米は「ロシアを過剰に刺激するな」とウクライナを牽制し、長距離ミサイルなどロシア領内の基地を叩く兵器を渡さない。戦場はウクライナ国内に限られ、ウクライナ軍がロシア軍に向けて撃つ大砲の弾も自分の国の施設や大地を破壊するのである。つまり、毎日毎日戦争はウクライナだけを破壊しているのだ。

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 だからウクライナ人と異なり、ロシア人は、昼夜分かたぬ空襲で家を直撃されて手足を失ったり、避難のため家族が離れ離れになったり、職場が破壊されて失業したり、警報で不眠症神経症になったりといった戦争による甚大な被害を被らないわけである。
ウクライナ人が「ロシア人にも同じ目にあわせたい」と吐露する所以である。

 

 「ウクライナ人も長引く戦争に疲れている」。メディアで繰り返し流れる侵攻2年のウクライナの状況の描写である。

 調査機関キーウ国際社会学研究所は、①「できるだけ早く平和を達成し、独立を維持するためなら」という条件つきで、「ウクライナは領土の一部を放棄することができる」②「たとえ戦争が長期化し、ウクライナの独立が脅威にさらされるとしても、ウクライナはいかなる状況においても領土を手放すべきではない」のいずれかを選ぶ質問を続けてきたが、最新の12月の結果は、前者の①が19%に達し、その比率は1年間で11ポイント増え、調査開始以来、最高となった。一方後者の②はこれまでで最低の74%になった。

 ウクライナ人もみな生身の人間である。身内の死の恐怖や避難生活の苦悩のなかに2年もいれば「もう譲ってもいいからこの状態から脱したい」と思うのは人情だ。ニュースでは、この世論調査の結果を「戦争疲れ」として紹介するわけだが、私は逆に、2年たっても4人に3人が②を支持することの方に驚いてしまう。なんという覚悟・・・。

 TBSの「報道特集では、旧知のジャーナリスト、新田義貴さんウクライナ・リポートをやっていた。

 首都キーウでは昨年来、兵士の妻たちが兵役の期限を決めて交代させよと定期的にデモを行っている。これもよくウクライナの「厭戦気分」を象徴するものとして取り上げられるのだが、実は彼女らは政府に「戦争をやめよ」と要求しているわけではない

首都キーウのマイダン(広場)でのデモ(報道特集より)

 デモ行進をした妻の一人、ユリア・イフナチョクさんは、インタビューでこう答えている。ユリアさんの夫はロシア侵攻のあと、軍に志願した。

Q:夫が志願したとき止めようとしなかったのは?

「夫は私と息子、そして国を守ろうとしていることを分かっていたからです。

 私たちはウクライナの降伏や停戦を呼びかけているわけではありません。この戦いは続けるべきだと考えています。

 ただ最初から戦っている夫たちを、交代させるべきだと訴えているのです。彼がこの国のために戦っている間、夫の権利を訴え続けるつもりです。

ユリアさん(報道特集より)

 ここで夫がそのために戦っている「国」とは「政府」のことではない。「国」のためによりよく戦うためにも、政府に夫たちの「交代」といういわば待遇改善を要求しているのだ。

 ウクライナ人が「国を守る」というとき、それは同胞と郷土、そこに育まれた文化、伝統をひっくるめた「私たちのくに」であり、ゼレンスキー政権ではない。ここがウクライナ戦争を理解する上で、大事なポイントだ。

 私はウクライナ取材で、この戦争はウクライナ国民のレジスタンスだと結論づけた。

 市民ボランティアが汚職まみれの政府をあてにせず、市民の力で直接に前線の兵士を支えようとしているのに大きな感銘を受けたのだった。

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 ベトナムに侵攻したアメリカは撤退して1975年に戦争が終った。

 アフガニスタンに侵攻したソ連は撤退して戦争(1978-1989)が終った。

 その後アフガニスタンに侵攻したアメリカも20年の泥沼の結果、撤退して戦争(2011-2021)が終った。

 ウクライナも同じように、侵攻したロシアが撤退して戦争を終わらせる—実に単純明快な解決法である。それ以外にまともな終わらせ方はない。

 ウクライナに勝利を