ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議にロシアによる侵攻後初めて対面で参加。ロシア軍の攻勢でウクライナ軍が押されているなか、欧米諸国からの「人為的な武器不足」の解消を求めた。
ゼレンスキー氏は「戦争がいつ終わるのかウクライナに問うのではなく、なぜプーチンが戦争を続けられるのかを自問してほしい」とロシアに引き続き対抗するよう訴えた。
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24日は一昨年のロシアによる侵攻から2年で、新聞もウクライナ関連の記事が数多く載った。立場の異なる顔ぶれも興味ぶかかった。
24日のブログで紹介した「Ceasefire Now 今こそ停戦を」の呼びかけ人でもある和田春樹氏(東大名誉教授)は「ウクライナ戦争は即時停戦すべきです」と変わらぬ立場を表明。
同じ24日の紙面に東野篤子氏(筑波大学教授)の戦争の行方についてのインタビューが載っていた。これは説得力ある原則的立場。
《侵攻当初から、この戦争の着地点は、主権を侵害されたウクライナが決めるべきだと訴えてきた。今もその思いは変わっていない。
現在ロシアに占領されている約2割の領土を諦めて停戦を選ぶのであれば、それも彼らの選択だ。その際、著しく不利な条件を無理やり飲まされるようなことがないように支えるのが国際社会の役割だと思う。
即時停戦は、当初から指摘されている複数のリスクが残ったままだ。ウクライナを属国化しようとするロシアのプーチン大統領の狙いは変わっていないし、ロシアは停戦違反を行う可能性がある。根本的な問題が何も解決していないのに、外野からウクライナに停戦を迫るのは無責任だ。》
《23年のウクライナの反転攻勢の失敗の原因は、ウクライナの戦い方以上に欧米の対応にあったと考える。欧州連合(EU)はウクライナに年間100万発の砲弾を供給する計画を承認したが、実際に供与できた量は約半数にとどまる。欧米は自分たちの軍事的な支援能力を見誤った。》
《現時点では、23年のNATO首脳会議で合意された、日本を含む主要7カ国(G7)各国とウクライナの二国間の「安全の保証」のための取り決めを着実に進めつつ、ウクライナの防衛力を強化する支援を続けるしかないと考える。》(朝日新聞2月24日朝刊)
そのとおり!
さらに22年にノーベル平和賞を受賞したウクライナの人権団体「市民自由センター(CCL)」の代表で弁護士でもあるオレクサンドラ・マトビチュクさんが登場。CCLは約6万4千件のロシアによる戦争犯罪を記録してきた。
マトビチュクさんは、「法の支配」は武器をとってでも守るべきだと訴えている。
《マトビチュクさんは、ロシアによる14年のクリミア併合の際、国際社会の反応が弱く、プーチン大統領を勢いづかせてしまったと指摘。「独裁者は強さだけを尊重し、弱さに対してはさらなる攻撃を仕掛ける。対話は弱さとみなされる」と述べて、自由や人間の尊厳を守るために戦い続ける必要性を訴えた。》
《(ノーベル平和賞の授賞式のスピーチでは)「攻撃を受けている側が武器を置いても、平和が訪れることはない」と主張。取材では「平和」について「暴力のおそれがなく、長期的な視野を持って暮らせること」と定義し、「武器を使ってでも、法の支配は守らなければならない」と強調した。「占領は戦争の一形態であり、強制移送、拷問、性的暴力、アイデンティティの否定、強制的な養子縁組といった暴力が続いている」》(同)
日本では「正義の戦争はない」、「命ほど大事なものはない」としてロシア侵攻の直後からウクライナに銃を置いて降伏せよと求める意見があった。しかし、ロシア軍が約1カ月占領したのちウクライナ軍が解放したブチャの町では、たくさんの民間人の遺体が路上に遺棄されているのが発見され、世界を震撼させた。つまり、ロシアの支配のもとに入ることは、命が助かるどころか、人権も命の保証さえなくなることが明白になったのだ。
この戦争はロシアによる一方的なウクライナへの侵略である。停戦を要求する相手はロシアであって、ウクライナではない。ウクライナに停戦を迫ることは、(いやな例えだが)大男にレイプされそうになっている女性に抵抗をやめろというに等しい。
約2割のウクライナの領土を諦めるとなれば、その占領地の住民の運命をロシアに委ねる、いわば見殺しにすることになる。その深刻な結果を受け入れて停戦を選ぶかどうかはウクライナしか決められない。東野氏が言うように、着地点を「外野から迫るのは無責任」なのである。