ウクライナ戦争:勝利と平和のあいだで5

 12月下旬に発売された中村哲という希望』旬報社)が、おかげさまで好評のようで、1月下旬に重版になっていたのが、先日、再度の重版が決まった。中村先生の名前のおかげで売れているのだろう。

 実は、佐高信さんと対談しながら、話があんまり噛み合ってないなと感じていた。例えば佐高さんが中村さんを左翼陣営に囲い込もうとするのを、私が政治的な右左という観点から中村さんを見ない方がいいとあらがったりした。本を読んだ人からは、対談のちぐはぐさが、かえっておもしろいと言われた。

 たくさんの人に本が読まれて、中村哲という人物のすばらしさに触れ、自らの生き方を考えるきっかけにしてもらえたらうれしい。

 また、みなさんの最寄りの図書館に購入希望を出していただければと思います。
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 2月27日、予定通り、ウクライナのボランティア、マックスと日本とをZOOMで結んで交流会を行った

34人が参加してZOOM交流会が行われた

質問に答えるマックス

 はじめての試みで、翻訳字幕を使ってウクライナ語と日本語で会話をやってみた。意味不明の翻訳が流れて首をかしげる場面もあったが、和やかに語り合えた。

 小学生が「こわくないんですか?」と質問したり、日本からも武器の支援を望むかなど実際の支援政策について議論したりと充実した2時間だった。

 この1月で21歳になったマックスは、2年前からITを学んでいた大学を休学してボランティア活動に注力している。戦争がさらに長引いたら、自分の将来をどう展望するのかという質問があった。彼は、戦争が終らない限りボランティアをやり続けるだろうと答えた。

 マックスをふくめウクライナの人々が、世界第2位の軍事大国ロシアに抵抗し続けられるのはなぜか。交流会のあとでメールで聞いてみた。

 マックスの答えは以下。

「戦う理由はいくつかあります。

 第一に、私たちの将来、私たちの子どもたちと若者の将来のために戦っています。

 第二に、私たちの自由のために戦います。なぜなら自由こそがすべてのウクライナ人の人生にとって最重要だからです。

 第三に、私たちの国土に倒れたすべての兵士たちのために戦います。この戦争で犠牲になることは名誉なことです。

 第四に、私たちが生まれた大事な郷里、郷土のために戦います。強盗や殺人者が自分の家に押し入ってきたら、全力で抵抗しなければなりません。」

 マックスはあくまで抵抗を続けるつもりだが、ウクライナが現在不利な状況にあることを認めている。また、兵役を逃れようとする人が増えていることにも理解を示す。

 「前線には武器弾薬がありません。誰だってそんな戦場に送られたくはないでしょう」。

 ウクライナが戦場で不利に立たされているのは、外国からの軍事支援が滞っているためだ。支援が約束された量の火砲や砲弾がウクライナに届いていない。最大の軍事支援国のアメリカは党派対立から支援のための予算採択が見通せない。武器弾薬が尽きればロシアの蹂躙を止められない。ウクライナの命運が外国の政府に左右されることに深く同情する。

 そもそも欧米の軍事支援は、はじめから腰の引けたものだった。欧米はウクライナに「核戦争にならぬよう、ロシアを過度に刺激するな」とロシア本土への攻撃を禁じた。そのため、長距離ミサイルや新鋭の戦闘機を供与してこなかった。アメリカがF16戦闘機の供与を公表したのはようやく昨年夏で、オランダ、ノルウエー、ベルギー、デンマークから中古のF16が送られることになったのだが、まだウクライナの実戦には投入されていない。

 プーチンの核の脅しが効いている。しかし、核で脅して無理が通るとなれば、今後ますます核兵器を持とうとする国が増え、保有国は核という力で何でもできることになる。核の脅しに怯えてはならないのだ。

 これに関して、国際政治学者の東孝之氏が以下のように論じている。

《国連は機能不全に陥っているが、今日の世界平和の基礎はやはり国連憲章にある。国連憲章は加盟国の主権平等の原則に基礎をおき、武力による威嚇または行使を禁じている。ロシアはこの国連憲章の基本原則を踏みにじったが、これを看過すれば、将来の戦争の種を蒔くことになろう。

 かつてフランスの哲学者サルトルは、ベトナム戦争に際して、核兵器を「歴史にノーを突きつける兵器」と特徴づけた。そこにこの兵器の特殊性がある。その前に立ち竦むならば、歴史は止まる。ベトナム人の知恵に学んで、立ち竦むのではなく、いかにして核保有国の裏をかいて、抵抗を続けるかを考えるべきだ。》(『世界』3月号P223)

 かつて、ベトナム戦争アメリカは核を使う可能性をちらつかせた。しかし、ベトナムは世界の世論を味方につけ、アメリカに核を使わせないまま撤退に追い込んだ。

 今度はロシア相手に、我々が知恵を絞る番である。